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【文献レビュー】教員養成における特別支援教育に対応できる多職種連携教育試論

本日の論文

榊原剛(2021)教員養成における特別支援教育に対応できる多職種連携教育試論. 名古屋女子大学紀要, 67(人・社), 95〜105.
問題と目的

連携に関する指摘
・先行研究ではPTやOTと特別支援学校との連携が中心【渡辺(2012)、藤川・笠原(2013)、古山・落合(2015)、濱田・菊池(2017)、古山・高木・吉岡(2018)】
・特別支援学級を対象とした調査は池田(2018)、池田・中島(2020)のみ。
・通常の学級や通級による指導における外部専門家との連携に関する先行研究はみられない。

→視覚障害教育の立場からいうと、こういう論文にはPT,OT,STは外部専門家としてよくでてくるのだがORT(視能訓練士)はなぜでてこないのだろう。ORTは医師の指示のもとでしか仕事ができないという制約が大きいとはきくが、見え方を評価する専門職としてきちんと位置付けてほしいと思う。視覚障害だけでしょう?と思うかもしれないが、知的障害のある子どもたちの中にも見えづらさを有する子どもはたくさんいる。むしろ、自閉症の子どもたちに視覚化が重要と言いつつ、本当に子どもにとって見やすい視覚化ができていないこともある。

在籍者数の増加率
・2007年4月より特殊教育は特別支援教育へと転換したわけだが、2008年から2018年までの10年間の特別支援学校在籍児童数の増加率はおよそ1.2倍。これに対して、特別支援学級の増加率は2.1倍、通級による指導は2.5倍となっている(文部科学省:特別支援教育行政の現状及び令和2年度事業説明)。

→こういう数値をみて、障害のある子どもの数が増えてきているんですねという話を聞くことがある。そうではなくて、今まで潜在的にいた特別な支援を有する子どもたちが徐々に顕在化しつつあるということ。それでも、日本ではまだまだ障害のある子どもの割合が約6%と推定されており、アメリカ11%や英国20%とは異なっている。本当はもっと支援の必要な子どもがいるはずだけど、掘り起こせていないのでは?と私は考えている。

保有免許状の課題
・特別支援学校教員における特別支援教諭等免許状の保有率が79.8%(文部科学省:平成30年度特別支援学校教員の特別支援学校教諭等免許状保有状況調査結果の概要)。
・特別支援学級担当教員の特別支援学校教諭免許状の保有率は30.8%(文部科学省:特別支援教育資料(平成30年度)第2部 調査編)。

→確かに、免許保有率は教員の専門性の有無を数値で表すときに使いたくなる数字。ただ、免許も2種免許、1種免許、専修免許とグレードがあり、それぞれ必要となる単位数=学習時間が異なる。専修免許に限っていえば、修士課程で取得可能。これらの免許の種類をごちゃまぜにした統計データの保有率=教員の専門性とは言えない、単に免許保有率をあげれば特別支援教育の質の向上につながるとは限らない。ただ、最低限の水準として保有率は使える。質の高い教員養成プログラムを修了した人が保有する免許には価値があると思うし、ちょっと単位をとっただけでしかもほとんど授業中は寝ていたけど単位がとれた!みたいな形で授与された免許と・・・。この論文では、特別支援学級の教員は免許保有率が低いよね!ということを指摘しようとしているだけで専門性云々の指標にしているわけではに。

外部専門家との連携及び連携教育について
・中央教育審議会が2012年にとりまとめた「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」においては、インクルーシブ教育システムを構築するうえでの医療・保健・福祉・労働等の関係機関等との適切な連携の重要性が指摘されている。
・医療分野ではチーム医療としての考え方が2000年ごろから取り組みが始まっている。
・医療的ケアの必要な高齢者や障碍者の地域包括支援システムとして2010年ごろから取り組みがはじまっている。
・多職種連携協働(Interprofessional Work:IPW)という。
・医療専門職の養成教育においては多職種連携教育(Interprofessional Education:IPE)という。
・教育分野では、IPWが求められているがIPEがほとんど行われていない。

→同感!私の授業でも1コマは多職種連携協働について取り上げているが全く足りないと感じている。私がアメリカ人歩行訓練士リビーにインタビューを行ったアメリカにおける歩行訓練士養成課程においても、多職種連携協働の重要性は指摘されており、これを学ぶための座学・実習が充実していた。

【参考】
アメリカの歩行訓練士養成課程での学び
https://www.amazon.co.jp/dp/B08WJ4VT71

研究目的
・教職課程コアカリキュラムと、PTおよびOTのモデル・コア・カリキュラムを比較し、教員養成におけるIPWの学修課題について検討
・文献レビューを通して、教員養成においてIPEを実践する際の要点について整理
・通常の学級、通級による指導、特別支援学級などで、特別支援教育の推進においてIPWを実践できる専門性を身につけるためのIPEを教員養成においてどのように実施すればよいか検討

・IPWの必要性の高まりは、「治す医療」から「支える医療」への転換がきっかけ。
・IPEは、英国のCentre for the Advancement of Interprofessional Education:CAIPE)によって、2つ以上の専門職が連携とケアの質を改善するために、共に学び、互いから学び、また互いについて学ぶことと定義している。
・常見・紀平(2020)によれば、IPEは各養成機関に実施をゆだねられているため、単なる学部合同授業にすぎない内容を実施ていることもありえる。
・日本作業療法士協会が重点課題研修として実施した「学校を理解して支援ができる作業療法士の育成研修会」を実施。
→特別支援教育側より作業療法士側のほうが教育との連携を強く意識した研修を提供している。
→特に、「支援に対する考え方」について相互理解することは大切。職種によって「支援に対する考え方」は180度異なることもあると感じる。それゆえ、異文化を理解できずに連携が阻害する結果を招く。

3.教員養成におけるIPE実践の文献レビュー
・ciniiで得られた5つの論文をレビュー。

(1)模擬ケース会議開催型IPE
A.荊木まき子・森田英嗣・鈴木薫(2015)多職種連携教育における「模擬ケース会議」の可能性―教員養成課程における可能性―
B.荊木まき子・森田英嗣・鈴木薫(2018)模擬ケース会議における学習過程の検討―多職種連携教育(IEP)の教材開発―
C.鈴木薫・荊木まき子(2016)養護教諭養成における学生の多職種連携に対する認識―「模擬ケース会議」経験後の感想―

→ロールプレイ形式のIPEプログラムの開発事例が紹介。私もこの授業受けてみたい!と思う。予想した通り、多職種連帰依のロールプレイでは、学生がそれぞれの専門職になりきるわけだが、当然、当該領域の専門知識があるわけではないので本質的な理解を促すのはやや難しいように思う。本当はそれぞれの専門職の養成課程に在籍する学生同士が学部や大学の枠を超えてこうしたロールプレイができることが理想なのだと思う。

(2)養成課程混成型IPE
D.水津久美子・丹佳子(2017)養護教諭・栄養教諭養成教育における多職種連携を主眼とした演習プログラムの開発に関する研究

→学生からは、「専門性や役割の理解」「新しい視点・視野の広がり」「連携・協働のイメージ、
重要性の実感」等への学習効果がみられた。個人的には「専門性や役割の理解」という内容は極めて重要に思う。自分が他職種連携を行う上で子保有する、求められる専門s寧を理解し、役割を理解すること、その役割からはみだしてでしゃばって相手の役割にずかずかと入っていかないこと、そこらへんを理解しなくてはいけないんだ!ということに授業を通じて理解できたのはとてもいいことだと思う。一方で事例を出す側の教員の悩み、うんうん、そうそう、事例を出すのって結構難しい。しかも、そこに教育効果を考えて出すわけなのだから。こういう事例教材の共有化が図られるといいのかもしれない。

(3)多職種専門家招聘型IPE
E.森脇愛子(2018)特別支援学校教員養成課程における多職種連携教育IPEの実践―参加学生の多職種連携に向けた学びの準備性・実践志向性の変化―

→これは上の2つでは欠けていたそれぞれの専門領域の専門家を実際に招聘し、講義及びワークを交えた実践となっており、非常に魅力的な内容であった。現場にでてからの「学び方の学び」につながるとあり、教員養成課程を卒業した学生たちが自ら学び続け、成長し続ける教師であるための土台作りになっていると感じた。

4.教員養成におけるIPE実践の検討

・「教育の基礎的理解に関する科目」のうち、「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」の事項を含む科目において、「特別支援教育コーディネーター、関係機関・家庭と連携しながら支援体制を構築することの必要性を理解」とうものがある。

・その授業の中で主に扱われる内容は、校内支援体制や特別支援教育コーディネーターの役割についての学修や、特別支援学校のセンター的機能の活用・連携のあり方や方法の理解、個別の指導計画や教育支援計画を作成する方法論としての連携などの学修が多い。

→うんうん、そうだよねと思いながら読んだ。
実際に、特別支援教育について1科目15コマで全体を網羅しようとするのでうすっぺらく浅い内容になっているのはいなめない。
上記で紹介したような実践的な授業が求められているのはわかっていてもカリキュラム上難しいというのが実態だろうか。

・今後の課題
IPEを活用した教育効果が今後の課題。

→外部専門家との連携は重要、必要、有意義だといわれながらもなかなか促進されない実態。
いきなり180度転換することは難しくても、やはり教員養成の段階から多職種連携協働の考え方、連携のノウハウを学ぶ機会の拡充は求められる。

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