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気が付いたら〜888〜

30年後。
優「苅里、貴族のパーティーだが参加するか?」
苅里「ん〜特に興味もないから欠席するよ。」
スグル「まあ俺達じゃなくて子供達でもいいらしいからな。そう返事をする。それと隠された世界の主達のパーティーも来てる。今回はソルの方に載っていたらしいからそっちで頼む」
苅里「うん、分かった。」
苅里は返事をしてそのまま歩いて行こうとする。
優「苅里、どこに行く?」
苅里「ん?自分の部屋だけど…」
そう言えば優は部屋には行くなという。
優「お前、最近部屋に篭りすぎだ。もし研究とかしてるなら書庫とかどこでもいいから息抜きをしておけよ」
苅里「分かった。それじゃあ書庫に行ってるよ」
そう言って書庫に向かう。
優「スグル、苅里に式を付けろ。様子が変だ」
スグル「…分かった。」
2人は前から気がついていたが苅里が自分から話そうとしないのでその手段に出る。
苅里は気になる本を数冊取ってテーブルに置く。
パキン…
ランカ「やあ、苅里」
苅里「ランカ…。何の用?」
ランカ「何の用ねぇ…。それより君式つけられてたの気が付いてた?今それを俺が切って俺達だけを結界で囲ったんだけど」
ハッとなって後ろを見る。確かに式が真っ二つに切れて床に落ちていた。
苅里「(いつの間に…)」
ランカ「その様子だと気がついてなかったようだね。君らしくもない。そんなことに気がついてないほど君は鈍くないはずだよ、本来なら」
苅里「私だって万能じゃない。そういう時もある。」
ランカ「…そっか。そういうことにしてあげるよ。今回俺が来た用件は一つだよ。なんで最近招待しても休みがちなの?そんなに用事が被ったりとかする筈ないよね?」
そう言って苅里に近く。そしてそのまま手を見る。
ランカ「今の時期になんで手袋してるの?他の女性なら特に不審に思わないけど君が日常的にするとか想像出来ないな。」
苅里は後ろに下がるが生憎ランカの方が早いので背後に回られて手を掴まれる。
苅里「その手を離して。」
ランカ「手袋取っていいよね?怪我くらいで隠すものじゃないし」
苅里「取らないで。血を飲みたいなら飲めばいいじゃない」
ランカ「それは嬉しいけどこれが気になるよ」
ランカは苅里の手袋を取ろうとすれば苅里は振り払う。
苅里「やめてと言ってるの。」
ランカ「…君、俺が上だってこと忘れてない?力づくでやってもいいんだよ?」
ランカがスッと目を細めて苅里の首を締める。
苅里「う…」
ランカ「相変わらず首が細いね。片手で絞められるんじゃないかと思っちゃうよ。」
片手で首を絞めて空いた手で手袋を掴む。
苅里「やめ、て…」
そうは言うが言葉は受け入れられず、スルッと片方の手袋を取られていく。
ランカ「…え?」
ランカもそれには予想外みたいで固まってそれを凝視する。その間に苅里は首にかかった手を離してゲホッゲホッと言う。
ランカ「なんで、こんな事…」
ランカは苅里を見て驚く。
スゥ…
苅里「お願い、見ないで…。自分でもどうなってるのか分からないのっ…」
袖で隠れていた腕も足首も微かに透けていたのだ。よく見れば苅里は体のほぼ全部を服や手袋などで覆っていたのだ。
恐らく術もかけて隠していたのだろうがランカが苅里の首を絞めた時に意識がそっちに向いて解けてしまったんだろう。
ランカ「君、これいつから…」
苅里「見てないフリをして…こんなの誰にも言えないの…」
顔を隠して床に蹲み込んで言って、ランカは初めて苅里の泣いている姿を見た。
ランカ「誰にも相談してないの?」
苅里「こんなの誰に言えば良いのよ。誰かに相談して解決方法が分かるなら良い。自分でも色々と試したけどこれは治らなくてっ…。相談してそれが誰かの耳に入るのが嫌なの…」
ランカは苅里の言うことにそんなことないなんて言えなかった。目の前の現象はランカも見た事がないものだった。苅里が試してダメだったなら恐らく自分もそれは解決出来ないと分かってしまうのだ。
ランカは透けている手を触る。透けてはいるが感触はあった。存在はしているが色だけがないようなそんな感じだった。
ランカ「透けているけどちゃんと指は存在してるね。ずっと招待をしても来れなかったのはこれが原因?」
苅里はしばらくして頷く。
苅里「もしこんなの見られたらランカが戸惑うかもと思って…。だってこんなのどう説明したら良いのか自分でも分からないから」
そりゃそうだとランカも内心思う。もし自分に同じ事が起きていたら説明出来るかと聞かれたらそれはNOとなる。
ランカ「乱暴に暴いてごめん。」
取った手袋を苅里に返してそれを苅里ははめる。そうでもしないと周囲の目から隠せないからだろう。
苅里「誰にも言わないで。お願い」
ランカ「分かった。それが君に乱暴なことをしたせめてもの償いだ。だけどもし優やスグルにバレたら話すかもしれない。それまではこの事は誰にも教えない。良いかな?」
苅里「うん、それで良い。ありがとう」
苅里は目を充血させたまま笑ってお礼を言う。
ランカ「次の世界の主のパーティーは俺も呼ばれてるんだ。もし不安に感じたら声をかけると良いよ。俺となら会場を出て部屋で過ごす事もできるから。友人として頼ってほしい」
苅里「ありがとう。十分過ぎるくらいだよ」
ランカ「今回は血はもらわないよ。3週間後に会おうね」
そう言ってランカはその場で飛んで行った。
苅里は服から見えている部分に再度術をかけてそれがバレないようにした。
3週間後、待機していた部屋を出て会場に入って過ごす。
結界の纏いの下には全身に術をかけているので余程上のランクから剥がされない限りそれは大丈夫だ。
トキ「今回は喰い合いが起きにくいかもね。大部分が穏健派だから落ち着いて過ごせそうだよ」
苅里の方は変わらずチラチラと見られていたが本人は無視して飲み物を飲んで壁の花のようになって過ごす。
苅里「(早く終われば良いのに…)」
内心そう思いながら周囲を見る。苅里の強さを知った女性は苅里とは関わらず、他の男性や主も優達が近くにいるので苅里に話しかけることも出来なかった。
苅里「兄様達別に四六時中いなくても良いよ。回ってくれば?」
ウル「別に挨拶をするほどでもないし。それとも俺達がいたら息が詰まる?」
苅里「そう言うわけじゃないけど…。盾みたいに立っててもつまらないでしょう?」
ウル「別に良いよ。妹を守る騎士みたいで気分がいいし(笑)」
これはもう動かなそうだと思い苅里は何も言わなかった。
ランカ「苅里久しぶり〜数十年ぶり?あれ?もっとだっけ?」
ソル「何の用ですか?」
ランカ「ん〜?苅里とまた話をしたくて。彼女とは部屋で過ごすから。借りていくよ」
優「会場の出入りは自由ですが部屋で過ごすのは基本出来ないはずです」
優は敬語でランカにNOだと言って伝える。
ランカ「俺はそれが出来る立場だって分かってるよね?苅里いいよね?」
苅里「…分かりました。優、パーティーが終わる前には戻ってくるから」
そう言ってランカについていって少し離れた部屋に2人で入る。
ランカ「君の兄と夫は盾みたいに突っ立って面白いのかな?」
苅里「あの6人の事は私も理解出来ないから…」
部屋に入って結界を貼ればいつもの口調で話す。
ランカ「済まないけど血液錠剤と花を少しもらっていいかい?」
苅里は頷いていつもの量を渡す。
ランカ「…あの後は変わらずかい?」
苅里「うん。どこかしら見えなくなってる。今も結界の纏いの下に全身に術をかけてる。」
そう話して椿を出してお互いお菓子がわりに食べる。ランカは紅茶を2人分頼んでそれを待つ。
ランカ「もう俺は知ってるんだから招待したら来てくれる?不安なら俺も苅里に術をかけるよ」
苅里「日程は決まってるの?」
ランカ「まだだよ。決まり次第また送るよ。紅茶を飲もうか。」
ランカはそう言って執事が持ってきた紅茶を飲む。
苅里もカップを持ってそれを飲む。もう一口飲もうとしたらそれは起きた。
スルッ…バシャ!
苅里「…え?」
ランカはその瞬間は見てなかったらしくカップを拾ってテーブルに置く。
ランカ「いきなり零すなんてどうしたの?やけどする温度じゃなくて良かったよ…」
ランカはそう言うが苅里の返答が帰ってこなくて顔を見る。その顔は戸惑っている表情をしていた。
ランカ「苅里?」
苅里「違う…。さっきまで普通に持てたのに…」
苅里はカップを持っていた手を見る。
苅里はランカが拾ってくれたカップに触ろうとする。
スカッ
苅里「何でっ持てないの…」
苅里の手はカップを持てずにすり抜けていた。
ランカ「もしかしてそれでいきなり…?今までそれはあった?」
苅里「今のが初めて」
服にかかった紅茶を魔法で消してそれ以来もう飲み物に苅里は手を出さなかった。
苅里「ランカ、ごめん。やっぱり行けない。こんな状態で行ける気にはなれない」
ランカ「…分かった。当分はやめておこう。きっとそれは治るよ。君は今までどんな不可能なことでもやってきたんだから」
ランカなりに励ませる言葉はそれしかなかった。
苅里「そうだね。きっと大丈夫だよね」
そう言って微かに笑ってパーティーが終わる数分前には2人で会場に戻った。
優「何もされなかったか?」
苅里「何もされてないよ。もう時間だから帰ろう?」
優「そうだな。帰って早く休むとしよう」
そう言ってパーティーが終わり次第すぐに帰った。