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気が付いたら〜1013〜

朝。
ネロ「苅里おはよう、よく眠れた?」
苅里「うん、それいつも聞いてくるね。」
起き上がって来てネロが抱きしめれば苅里がボソッと兄さんと零す。
ネロ「俺たち結構離れた兄妹なんだから兄さんて言われてもしっくり来ないよ。久しぶりに呼んだね」
苅里「たまには呼びたくなるよ。ネロ兄さん」
ネロ「まあ時々なら許してるもんね。ほら着替えるよ」
記憶の定着は成功したようでネロは上機嫌に朝食を食べた。
ネロ「前にも言ったけど俺と知り合い以外は兄さんにするんだよ。あまり名前を知られるの嫌だからね。苅里の職場なら良いからね」
苅里「分かった。…これ前にも話さなかった?」
ネロ「あはは、そうかも(笑)」
その夜。
ネロ「はぁ、はぁ…苅里もっと頂戴。沢山血はあげるから沢山血を飲ませてよ」
苅里「ん、良いよ…」
隙間がないくらいに苅里を抱きしめてネロは酔ったようになってズルズルと飲んで苅里もネロの血を飲んでく。
苅里「スゥ…スゥ…」
ネロ「苅里は夢の中かな?向こうはもう何度も体験してるからそんなに驚かないかもね」
そう思いながらネロはその夢を見る事にした。
ラウ「苅里、お前どんな状況なんだ?」
来人「姉さんが話す資格がないなんて事ないから話そう?」
苅里「…誰?私、弟なんていないけど…。なんで私の名前知ってるの?」
ロキ「お前、記憶また消されたのか?」
苅里「消されたって何?記憶はちゃんとあるけど…」
何を言ってるんだろうと思い言えば最初の男性が聞いてくる。
ラウ「お前の兄さんって誰だ?」
苅里「兄さんって…血の繋がった兄さんでしょ?何言ってるの?私兄さんなんて1人しかいないよ?」
ラウ「1人だと!?お前、8人いるだろうが!」
ロキ「ラウやめておけ!もうそれも忘れてるんんだろう…」
苅里「だから忘れてないってば。記憶もあるし…」
ロキ「…お前の言う記憶と俺達の言う記憶は違う。お前の言う兄の名前はなんて言うんだ?」
苅里「あなた達兄さんの知り合い?なら言えるよね?」
ラウ「う…」
誰も知らないので答えられない。
苅里「じゃあ教えない。兄さん名前知られるの嫌ってるから。なんで私の名前知ってたの?面識あるなら覚えてるはずなんだけど…」
いつ会ったのか思い出そうとするが全く思いだせず返事を待つ。
来人「姉さんが覚えてなくても俺達は覚えてるんだ!姉さんが知らなくてもこっちは知ってるんだ!」
苅里「え!?もしかしてヤバイ人!?もっと距離とっとこ!」
ロキ「来人距離取られたぞ!?お前発言に気を付けろ!ストーカーと言われないだけ良いが」
来人「す、ストーカーじゃない!ただそっちが覚えてないだけで、こっちはよく覚えてるだけ!」
苅里「やっぱり変な人じゃん!私帰って良いよね!?」
ヤバイ。完全に変人扱いされて3人から距離を空けられる。
ロキ「お前もう何も言うな!墓穴掘ってどうする!」
来人「だってその通りじゃん!ああ!帰らないで!…なんで夢の中にスマホあるの!?お願いだから110番はしないで!」
ラウ「それ以前に繋がるのか?ここ、夢だぞ?」
苅里「忘れてた!ここ夢だった!」
3人「ええ〜!」
こんなバカっぽい反応が何故かしっくり来てしまって3人はそれはそれで驚く。
苅里「じゃあ通報出来ないじゃん…」
来人「通報されなくて良かった…」
ラウ「ま、まあ良い。俺達はなんで事してるんだ?」
ロキ「来人の発言が悪かっただからだ!」
来人「ごめんなさい!」
ロキに怒られて来人は謝罪して苅里を見る。
ロキ「苅里、お前両親は?」
苅里「いないよ。なんでも私を殺そうとしたから兄さんが殺したって聞いてる。だから両親の声も顔も何知らないよ。2人で暮らしてたし。あ、でも使用人とメイドもいるから沢山いるか」
ラウ「…組織のことは?」
苅里「一時期やってたね。自分で組織作ったりいろいろするのは楽しかったよ。あ、もしかしてそれの関係者だから名前知ってたの?」
ロキ「…ああ、そうだ」
苅里「なら納得だよ。覚えてなくてごめんなさい」
ペコっと頭を下げれば3人は悲しそうな顔をしていた。
ロキ「地獄界や冥界、神界は?」
苅里「うん、覚えてるよ。穢れの刑とかとかは最後良い結果になったからそこまで辛いものじゃなかったし、神界は何人かの人とお酒飲んだり書類の手伝いしたり、冥界も似たような手伝いをしたりお世話になってたね。顔はもう覚えてないけど。地獄界も結構面白かった。戦争出たり任務参加したりしたね。側近も何度か変わったから顔覚えるのもう疲れたよ」
実際にあったことはそのまま覚えていて、都合の悪いところは都合のいいようにねじ曲げられていると3人は分かった。
ラウ「(今までで一番厄介なパターンだな…。記憶に違和感を感じないように完全に馴染むようになってる)」
ラウが内心思ってじっとしていれば苅里が言う。
苅里「もう時間だから帰るね。あまり長居すると寝過ごすよ?じゃあね」
そう言ってこっちが引き留めるより早く消えて行く。
クスクス…
ロキ「誰だ!」
ネロ「誰だって失礼だね。苅里の兄だよ、そう言えば分かるでしょ?」
来人とラウとロキは正面に出て来た男性を睨む。
ネロ「顔はもう知ってるんでしょ?結構記憶馴染んでるでしょ?」
ロキ「お前…!そこまでして苅里の記憶も何もかもねじ曲げるつもりか!」
ネロ「そうだよ。俺だけの苅里になってくれるならなんでもねじ曲げる。他は要らないよ。要らないものは全部消して出生も変えて辻褄を合わせるために過去の記憶は生かす。君たちの事は覚えてないのに過去のことは全部覚えてる。君達は苅里とすれ違ったくらいの存在の薄いものになってもらったよ。だから苅里の名前は知ってるけどそれ以上は何を言っても無駄だよ。とても嬉しいよ。とても気分が良くて満たされるよ。魂までも震えて喜ぶのが良く分かるよ。泣きそうなくらいにね」
来人「…ねじ曲げておいて満たされるって何?それは本当に満たされてるって言えるの?」
ネロ「言うよ。君たちの感性を俺に押し付けないでよ。君達と俺の感性は違う。俺は本当に本当に満たされるんだから。だから苅里は離さないし逃さない。逃げようとしたら背中を焼いて、離れようとしたら足を使えなくして魔力も封じてあげるんだ。ずっとずっと永遠に俺だけと一緒にいるんだよ。」
ロキ「お前、壊れているな。もう人のそれじゃない」
ネロ「勝手に言えば良いよ。君達が何を言おうと俺には届かない。言葉も力も実力も。俺の意見に何か言いたいんなら戦えるだけの何かを身につけなよ。弱い奴が何を言っても何もしても何も変わるはずがないんだから。じゃあね〜」
ネロはひらひらと手を振って夢から出た。
ラウ「特の一族の時よりも大変だぞ。どうする?」
ロキ「どれだけ時間がかかってもあそこから出す。それしかない」
そう話して3人も出て行った。
苅里「ネロ、大丈夫?夢見てたの?」
ネロ「うん、きっと苅里とは別の夢を見たんだろうね。抱きしめても良い?」
苅里「もちろんだよ。…泣きそうなくらい何かあったの?」
ネロ「あれ、本当だ…。この涙はね、悲しいんじゃなくて嬉しい涙なんだよ。とても嬉しくて、魂が震えて、喜んでる涙なんだよ」
苅里「そっか…。ネロが気が済むまでこうやってる。きっとそうしたほうが私も良いと思うから」
ネロ「うん、ありがとう、苅里。とっても嬉しいよ」
そう言って2人はしばらくそのままでいた。