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M-1グランプリ2023 マッチプレビュー

今年末のスターは誰になるだろうか。

もはや12月の風物詩であるM-1グランプリは、これまで数々の人気者を生み出してきた。いま実力者と呼ばれる中堅・若手芸人の多くが、ことごとくこの大会を踏み台にスターダムを駆け上がった。

YouTubeやTikTokなど、様々な媒体が私たちの生活を豊かにしてくれている令和の時代だが、やはり本物のスターはテレビ発じゃなきゃあいけない。

そんなスターになり得る今大会の花形を予想してみよう。

黄金世代に、鈍く輝く

マユリカ(阪本, 中谷)

20代半ばにして漫才のチャンピオンとなり、その圧倒的な実力をもって新世代のカリスマとしてお笑い界に名を馳せ続ける霜降り明星だが、並ぶ同期がとにかく凄い。アメトーーク!にて『霜降り同期芸人』という回が放送されたように、コロコロチキチキペッパーズ、ハナコ、ビスケットブラザーズ、男性ブランコ、ヒコロヒー、 ZAZY、ゆにばーす、ニッポンの社長・ケツ。錚々たるツワモノ揃いっぷりである。

そんな賞レース黄金世代が隠し持っている最終兵器が、このコンビだ。

マユリカ。主要賞レースでファイナリストになったこともなければ、テレビ出演が多いわけでもない彼らだが、皆さんご存知の通り、お笑い通からしてみれば超王道とも言えるチョイスである。

どちらかといえば地味な容姿と裏腹に携えたその人気に火をつけたのは、ラジオ関西制作のポッドキャスト番組「マユリカのうなげろりん!!」だろう。そこでふたりが織りなすトークは、3歳からの幼馴染という関係性ならではのもの。中谷という最高のおもちゃを我儘に振り回す阪本、という構図に、我々は魅了されてきた。

そんなラジオでも、そして漫才においても、筆者が特に好いているのが、ボケ・阪本の言葉の紡ぎ方である。"紡ぐ" という表現にしたのは、単にかっこいいからではない。単にかっこいいからでもあるけれど。阪本の言葉の操り方には、本当に "紡いでいる" 感じがあるのだ。

彼は、日本語の日本語たる面白味を最大限に言い表す。一般的にはリンクしないような『状況』と『表現』を繋ぎ合わせ、その絶妙なアンバランスさをもって、聞き手に滑稽なさまを想像させる。彼の学力レベル自体は非常に終わっているのだが、「言葉」に限っては高くアンテナを張っているのか、はたまたただセンスが良いだけなのか。とにかく、その日本語の紡ぎ方がとっても心地良いし、とってもおもしろいのである。皆さんにも是非、そこに注目して見てもらいたい。

なんやかんやなんでもこなせる、器用で陽気な常識人風変人、中谷。高音を発するこの最強の大剣を片手に、阪本がどんな世界観を斬り拓くのか。

その輝きは鈍いかもしれない。でも、確かに輝いているはず。今年のM-1グランプリ、鈍く輝くマユリカにご注目。

漫才インテリ戦闘狂

令和ロマン(高比良くるま, 松井ケムリ)

先日放送された第44回ABCお笑いグランプリで優勝を後一歩で逸した令和ロマンだが、名だたる審査員たちからは、「うまい」「師匠のよう」とそのスキルに対し絶賛の嵐だった。

漫才師としてのふたりは、貫禄が違う。6年目という芸歴では本来醸し出せないその雰囲気は、大学お笑いにて芸人になる前から場数を踏んできた、という理由だけでは説明がつかないほどである。

流暢に生意気にボケるくるま、軽快に正確にツッコむケムリ。ジャブのように澄まして打つパンチのどれもが、会心の一撃。その上質なボケツッコミを裏打ちするテクニックは、確かに大ベテランのようだ。ただそれと並行して、コンビ名よろしく、令和ならではの眼を持っている。

真空ジェシカらが示したように、お笑いにネット社会の空気感を持ち込むことが当たり前に容認される時代である。

ネットやSNSを通して世間の潮流を読む眼、刺す方向とタイミングを見逃さない眼、そのなかで自分の立ち位置を捉える眼。令和の眼を備えていることで、ネット社会を汲み取るだけでなく取り込んで力に変えることもできる。

冷静に世と己を見定めるこの眼には、熱さも宿る。ヘラヘラと楽しみつつも、単なるボケとは言い難い、熱さが宿る。

ファイナリスト候補筆頭株の彼らが、熱く登り詰めるさまを見てみよう。

高野さんを誇らせたい

きしたかの(高野正成, 岸大将)

キャラクター性や人間性を意味するお笑い用語である、"にん"。芸人は、漫才師は、"にん"を纏うことで強くなる。

今大会、この芸人ならではのバフを最大限に活かしそうなのが、彼ら。

『チャンスの時間→高野さんを怒らせたい』という超王道ルートでこのコンビの沼にハマった。数多の番組で彼らがじわじわと世に出てきていることを知っている。岸のセンスたっぷりのボケが深みを演出しているのは置いておいて、どんな舞台でもまずフィーチャーされるのは高野のブチギレツッコミであり、そしてこれが、きしたかのの漫才の武器に直結するのだ。

いじられて、ブチギレ。ドッキリを受けて、ブチギレ。スタイルとしての新鮮味はないがそんなものは関係なく、とにかくまっすぐ『怒』がおもしろい。これは、他の感情との絶妙な調合によるものだと考える。

ストレートな"怒"だけでは、おもしろさには繋がりにくい。しかし、"喜"や"哀"や"楽"。彼はこれらの感情との混ぜ合わせが本当に上手い。嘆いて、怒る。呆れて、怒る。照れて、怒る。笑って、怒る。他の心情表現が緩衝材となり、あるいは媒介となり、"怒"を引き立たせながらお届けする。このようにしてバリエーションをもたされた彼の激怒は、我々視聴者の中に、おもしろいものとしてスッと入ってくる。高野の、そしてきしたかのとしてのこの"にん"は、とても強力だ。

どれだけその人間から溢れ出る"にん"が魅力的なものでも、それが一方向なものであれば意味がない。見る側のイメージ、客観性と擦り合わせることで双方向性をもち、そうして"にん"が完成するのである。

その点きしたかのは、上記の通り着実に知名度を上げてきている。むしろM-1の予選を観に行くような層にとっては、お目当てのうちの1組かもしれない。

彼らの"にん"が彼ら自身に馴染むことで大成に近づいた漫才は、これまででは考えられない旋風を巻き起こすだろう。

高野さん、記事にもオチつけたいので、いいかげん落ち着いてください。

『『上手いのかなぁ!!!??』』


十組

最後に、今年のファイナリスト10組を予想しておこうと思う。

マユリカ(初,吉本,2022準決勝進出)
令和ロマン(初,吉本,準)
きしたかの(初,マセキ,準々)
カベポスター(2,吉本,決)
ヤーレンズ(初,ケイダッシュ,準)
ヨネダ2000(2,吉本,決)
ダブルヒガシ(初,吉本,準々)
TCクラクション(初,グレープ,準々)
真空ジェシカ(3,人力舎,決)
ロングコートダディ(敗復,3,吉本,決)

異例の猛暑が続く中、明日8月1日より、ついにM-1グランプリ2023の1回戦が始まる。今年もチャンピオンがうまれる。スターが現れる。漫才師たちによる夏よりアツい5ヶ月間をしかと目に焼き付けよう。

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