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#07_28歳の誕生日、あと10年で死のうと思った。

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行き着く思考は、決まってこうだ。

“もう生きるのめんどくさい”

死について考えることも面倒だ。
もとから存在しなかったように、消えたい。

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「なんか良いことないかなぁ。」

20代前半からの口癖のように思う。
この言霊が影響することにも、もう意識を向けていられないほどの脱力感に飲み込まれそうだ。

「でも、もう転職先は決まってるんでしょ?」

サイズこっちでいい?と付け加えて美月は小さめのバターしょうゆポップコーンをオーダーしている。

「うん、一応。前の上司の紹介で。」
ありがと、と一緒にオーダーしてくれたドリンクを受け取る。

取り持ってくれた上司のおかげで、同業種の転職先が決まっていた私は
有給消化中に美月を誘い、映画館に来ていた。

「あ、これも観たかったやつ。」
現実逃避には、実際に架空のストーリーを観て異世界に飛ぶのが一番だと思う。

大人になるにつれて、映画やカラオケという遊びは
意識して時間を作らなければ持つことの出来ない娯楽に変わってしまった。

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「就活してないけどさ、正解だったよね。」

映画を見終わったあと、今日は和食な気分だよね、と私たちは下調べしていた寿司屋に足を運んでいた。

「雪乃はずっと変わってないよ。」
でもなんだかんだ普通に仕事はしてるよね、と美月は“普通”を強調して笑う。

たしかに、昔から一つの仕事は長く続かないが
人が紹介してくれたり、たまたまポジションに空きが出たり、何かが繋がって仕事はしてきた。

“普通に”生活することに擬態しているように思う。

やりたい事は分からなくても、やりたくない事は明確に語れる。
むしろ、そのほうが自己分析が捗るような気さえしてくる。

学生時代、皆と同じをひたすらに求められてきたはずが
学生という肩書きが無くなった途端、個性だなんだと他者と違うことを求められる。

その矛盾に、“普通”の人達は何も思わないのだろうか。

でも、自分も矛盾している。
「仕事で声が掛かると、一瞬“私が求められてる”って思っちゃうんだよね。」

「求められてるでしょ。」
私はこの優しさを知っている。知っているのに、どうしてこうも満たされないんだろう。

「辞めるたびに思うの。どうせ私の代わりになる人は居て、辞めた後に会社が困ることはないって。」

「でもその時、その会社に雪乃の代わりは居なかったでしょ。」

「…私、美月と出会うために大学に入ったんだろうな、と思うよ。」

「いや彼氏か。」
笑って突っ込みながら、美月は日本酒オススメありますか?と店員のお兄さんと親しげに話している。

今夜はこの日本酒に酔って、明日が来ることを気にせず眠れるだろうか。

全部を手に入れたいと願い、一人絶望する夜は
あと何回訪れるのだろう。

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