#10_28歳の誕生日、あと10年で死のうと思った。
#
「どう?新しい仕事。てか何処に引っ越したんだっけ?」
たいして興味の無さそうな、力の抜けた声で質問を投げかけてきているこの男は
いつも無駄にフットワークが軽い。
そのぶん私に幾分かの対価を期待しているんだろうことは分かっている。
でも今夜は、ふらっと一人で出かけても結局気が紛れそうにないなと呼び出した。
「ここから下道で一時間くらい。なんか飲み物買いに行こ。」
職場から自宅まで、他愛のない世間話をしながらゆっくり車を走らせる。
地元の田舎とまでは言わなくても、今まで好んできた都心暮らしに比べると
田舎は退屈で、脳内はその感情で埋め尽くされていく。
人は時間が出来ると余計なことを考えてしまう生き物だと思う。
身体を満たす時に、愛だの恋だのは必要が無い。
コトが済めば一人で眠れたらそれでいい、私にとってはよく眠れる睡眠薬みたいなものだ。
一瞬でも必要とされてると思いたいとか
抱き合っている間だけ求められてることを実感できるとか
そんな切なげな歌詞のラブソングに出てくるような女に憧れはしない。
#
「タバコ吸っていい?」
「ダメ。」
自分の部屋でタバコなんて吸われたくないし、もうシャワーを浴びて自分のベットで一人で寝たい私と
私が喫煙を嫌うことを知っていてタバコを吸う口実で帰りたい男。
この場でのお互いの用事はもう済んだのだ。
深く考えなくていい。
人の三大欲求の一つを埋めるために、貴方が必要なときがあることは間違いないのだから。
「またね。」
敢えて口に出さないことで続く関係が私にとっては心地いい。
嫉妬だとか独占欲とか、自分にとってプラスになることがないその感情を持つことに必要性を感じないのは
他人から愛されることを知らぬが故に抱けない感情なのかもしれないけれど。
今は私が、私自身を、生かす武器を持っていないことが何より不安で
この国でこのまま年を取ることに恐怖すら覚える。
自分以外の幸せを願う余裕なんて、到底持てそうにない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?