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#02_28歳の誕生日、あと10年で死のうと思った。
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「もう一杯飲む?」
酒が飲み干されたグラスには
美しくカットされた氷が溶けずに残っている。
「…じゃあ、もう一杯だけ。」
こういう男には一生分からないんだろう、女が酒を飲み干す速さの意味が。
クラシックが流れ、一本の木から作られたカウンター。
男女がうっとり愛を語らうための間接照明に照らされるバーの店内。
スマホでとうに日を跨いだことを確認し、帰宅してから始まる煩わしいルーティーンが脳内を占拠する。
最速で何時にベッドへ潜り込めるか、就寝時間を計算している私の左手に手を乗せ
男は、将来二人でこんなお店を開くのもいいね、などとほざいている。
金銭が発生する、いわゆる需要と供給が成り立つ場所で出会った女に
どういう理論の思考を持ち合わせていればそんな将来の話を切り出せるのだ。
バツイチで、娘が二人もいて、私はその娘とのほうが年齢が近いはずなのに
それでも自分は選ばれると思えるほどの自信が何処にあるのだろうか、能天気で幸せそうで羨ましい。
「開業するなら出資だけしてよ。」
言えない本音を二杯目のハイボールと一緒に飲み込んだ。
そもそも、ここで気が遣える男ならば
女性が飲むペースに合わせて酒を飲むのだろうけど。
好きな男とバーに来ているなら、
一杯目のハイボールをわざとゆっくり飲んで、溶けた氷で薄まった酒の入ったグラスを両手で掴んで
もう少し一緒に居たいとアピールしたいと思う程度には、まだ可愛げのある女なんだよ、私は。
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何より、自分がこの程度の男に口説かれることに絶望する。
ここが今の私のレベルなのか。
もう自分が特別な何かにはなれないことは、二十代後半に差し掛かった頃に理解し始めていた。
それでも、自分の中にある美学や信念が
あまりにマイノリティだと突き付けられていく感覚にはまだ慣れない。
「じゃあ、こんな木のテーブルって雰囲気あっていいよね。」
口を次いで出た本心とは程遠い自分のセリフに
心はまだ慣れたくないと足掻いているんだと
改めて悟った。
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