#03_28歳の誕生日、あと10年で死のうと思った。
#
「いや雪乃、そんなことで絶望してたらダメだって。」
テーブルの脇に置かれた赤ワインを持ち上げ
励ますように私のグラスに注ぎながら、美月は真剣な顔で言う。
そういう男は雪乃みたいな子が飲む相手をしてくれるだけで俺に気があると壮大に勘違いできるのよ、と
私が最も納得できる言葉を並べ、湧き上がる苛立ちをなだめてくれる。
気を遣い、精神を削り取られるような男と行く高級料理より
大学時代からの女友達とコスパのよいイタリアンで食事をするほうが余程有意義だ。
「そう言うけどさぁ…。」
なんでこうも気の利かない男達に、“そんなんじゃ一生結婚できないよね”などと言われなければならないのか。
魅力的な男女の比率を客観的に考えたら、魅力的な女のほうが多いでしょうよ、と嘆き愚痴を続ける私に
まぁ、気持ちは分かるけどね。と笑いながら美月は自分のグラスにも赤ワインを注いだ。
#
学生時代から、こんな風に本音で話せる友達なんて滅多に出会えない人生だった。
女同士のよくある妬みや束縛にも慣れた頃、世の中の人間は皆「自分さえ良ければそれでよい」という自己中な精神のもとに生きているのだと気がついた。
それにいちいち苛立ち、自分の能力である気づきや気遣いを搾取されるストレスにほとほと疲れていた。
きっとこの国は、こちら側の人間が明らかに少数派で
他人の心遣いに気づけない人間のほうが幸福に生きていけるシステムになっているのだろう。
会う毎に繰り返される愚痴を聞きなだめてくれる友達が、笑い話に変えてくれなければきっと私はもう呼吸が出来ない。
恋愛や結婚、加えて仕事においてもマウントを取り合い精神と心を削られるだけの輪の中に野放しにされていないだけ、まだ救われているのかもしれない。
幸い、そういう“ふつう至上主義”の類いの人間とは関わりを断ち、生きていく決意が早々に出来た私は幸運なのだと思う。
だとしても、
友情の名のもとに“一番”は存在しないというのもまた、私が抱える刹那の一つだったりする。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?