傷痕



酒が飲みたい、苦痛だ、承認欲求にして誰かに投げつけたい、フォームは(素人でも聞いたことがあるくらいかなり名の知れた任意の投手)。

この頃ずっと背中が痛いと酒が飲みたいしか言ってない気がする。だってその2つだけに収束してしまうのだからしょうがない!無意識が選んでくれる依存先が少ない。
こんなに痛みが出るのは去年の7月ぶりだ。本当かよ。去年の春夏、特に7月といえば大絶賛フラッシュバック期じゃないか。




あの時は共通彫塑をしていて、コンクリの床でダンボールをちぎりながらもすぐいたたまれなくなった。何度も外に行って休憩をとって、インスタでまあこんなよーな、今と同じようなことを吐いていた。公立中学校の第二体育館か剣道場くらいの広さと、それと同じくらいの高い天井の空間で、暖かい(あるいは暑い)空気がこの目に見えるようになったみたいな、その色の光が、
だから見上げるほど高い壁一面の不透明な窓にやわらかく、強く隈なくて、
そのすごく明るい部屋の明るい隅のひとつで、
かつての自分が、しかし、かつての自分が、ダンボールをちぎっては貼り付けながら何を思い出していたのか、今じゃもう判然としなくなってしまった。

あんなに強く何度も無数に脳の髄に切って刻まれたような気がしていたのに、傷口の血が止まったら、もう痛くはなくて忘れてしまうのだろうか。
否、残ってないことはないと思う。根拠はないけど。いや外を探して引っ張ってくればないことないだろうけど、これは論文じゃないから……。
消えることはないと思う。ああそう、これは体感、心持ちの話で。
これは忘却ではなくて順応、もっと言えば刺青か瘢痕か。なんなら皮膚じゃなくて髄だからな、骨の削られた痕は消えようもないだろう。

得意気に笑っている。俺は消えない記憶の痕を何故か誇りに思っている。
消したくないと切望していた記憶はあるが、それとこれとは違う気がする。痛みこそが本当だと依存していた時期と、痛みが去って残ったものこそが本物だとまあどのみち依存している時期。

笑みに少しの自嘲が混じる。リスカ痕も消えていない。消えないでくれと強く強く願って時が経つのを恐れていた時期には全く消えなかったのに、
裂傷から1年と1/4、彼女を思い出さなくなっていくと同時に急速に薄くなった傷痕。作り話ではない。たしか今年の夏の始めにはまだ赤みが残っていて、半袖を少し躊躇っていた。今はもう、ただ白い。

まあ、この白い線が、たとえちょっとにせよ、この左腕にあることで、それだけで繋がれる縁もある。ステータス扱いしたいわけじゃないけど、だけどまあそんな感じかもしれない。通行証、という言葉を思った。失礼だって?知らない。





嬉しさで繋がった気になってる縁より、
苦しさで繋がった気になってる縁の方が、
実感が重いのは、やっぱり気のせいかな。幸せは麻痺するけど、苦しさは麻痺しないで、いつまでも共通言語が途切れないからかな。もしそうなら皮肉なもんだ。







そろそろ落ちをつけねばならないと思った。
書いていて自然と思い浮かばないから、大したものにはならないだろう。余白と句点で誤魔化せ。


話題はなんだっけ。フラッシュバックと瘢痕だ。



消えるもの、消えないもの、
残るもの、残らないもの、

自分ではもちろん選べないし、
そもそも入ってくるものさえ選べやしないけど。




個人的なことを言わせてもらえるならば、

俺はこの、存在に食い込むほど深い深い傷痕を、
それなりに気に入っている。



美味しいお酒でも飲みます。