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「あたしは柴犬のアキ」25

 今日は起きたときからワクワクしていた。クロの所に行くから。モモちゃんに行ってきますと挨拶してクロの所に向かった。クロはフェンスにつかまり立ちをして待っていてくれた。あたしもフェンスにつかまって肉球タッチをした。

「来てくれたんだ。うれしいよ。ずっと待ってたよ」
そう言いながらクロは尻尾を千切れそうな勢いで振った。
「今日はアキちゃんのお話聞かせてよ」

 あたしは自分の身の上話をクロに聞かせた。あたしもペットショップにいたこと。のんちゃんというお姉さんがあたしを連れて帰ったこと。のんちゃんは結婚して今はアメリカに住んでいること。のんちゃんの会社の人とパパが知り合いで、あたしは今の家族に貰われたこと。好きなことはギザギザボール遊び。隣のおばあちゃんがおやつをくれること。お家の場所。お家の場所を説明したときにクロは「アキちゃんの家知ってるよ。夜のお散歩の時に前を通るよ」と言った。あたしが寝ている間にクロが家の前を散歩してるなんてとってもロマンチック。あたしの家でも会いたいな。

 気がつくと長話になっていた。急いで帰ろう。帰り際にクロがぼそっと言った。「僕も自由にお出かけしたいな」
あたしはそれをきいてクロのお庭を見て回った。残念なことに抜け出せそうな場所はなかった。クロはとてもガッカリした。

 急いでお家に帰ってモモちゃんにクロがお外に行きたいと言っていたことを話した。モモちゃんは「かわいそうね。でもどうしようもないわね」といって残念がった。

 夜になった。今日もお姉ちゃんに甘えん坊をしながら寝た。寝ていたら夜中に犬の鳴き声が聞こえた気がして目が覚めた。よく聞いているとクロの声の気がする。クロだわ。クロが吠えている。夜中の散歩中なんだ。クロが吠える声はどんどん大きくなる。あたしはいてもたってもいられなくなり、寝室で大きな声で遠吠えした。クロに届くように何回も何回も。お姉ちゃんもお兄ちゃんもパパもママも起きてきて大騒ぎになった。あたしはクロを一目見たくてドアをカリカリして「開けて頂戴」とアピールしたけど開けてくれなかった。とっても残念。パパに抱っこされてようやく気持ちが落ち着いた。

 明日クロに謝ろう。せっかくあたしを呼んでくれたのに。寂しい気持ちで一杯になって明け方まで眠れなかった。

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