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「あたしは柴犬のアキ」30

 今日はモモちゃんが来て話の続きをしてくれる。昨日は何だか可哀想な話だったな。モモちゃんが来るまで鹿の角を噛んで遊んだ。

 モモちゃんが来た。隣のおばあちゃんは小さなクリームパンを二つくれた。
「じゃあ昨日の話の続きね。家族がどこかに行っちゃって、食べ物がなくなったとこまで話したわよね。それから何日もフラフラになりながら食べ物を探したけど全然見つからなかったの。仕方なく水溜りの水を飲んで、知らない町をふらふら歩いていたの。そしたら、目の前に停まった車から二人のおじさんが降りて来て、いきなりわたしを捕まえて車に乗せたの。逃げる力も無かったわ」
「うんうん。それからどうなったの?」
 「連れていかれたところは大きな建物の中にある牢屋だったの。先に三匹の犬がいて、あたしで四匹目。みんな何でここに連れてこられたのか分からなかったの。でもみんな自分は捨てられたって言っていたわ。わたしと同じね。時々おじさんが来て水やドッグフードを置いていく。わたしはお腹いっぱい食べられてほっとしたわ。他の子達は暗い顔をしていた。その中にずっと吠えている子がいて、何を話しかけても吠えるだけなの。名前も教えてくれなかった。夜もあたしの横まで来て吠えるの。とっても怖かった。次の日の朝、その子とアキちゃんみたいな色の子が、おじさんにどこかに連れて行かれてそれからずっと戻ってこなかった」
「怖いところね。モモちゃんはそれからどうなったの?」
「それから何日かそこにいたわ。もう一匹の子はジョンって言う名前で、白くて大きいの。とっても優しくて夜はくっついて寝たわ。あたしが寝るまでずっと見ていてくれたの。わたしはすぐに恋に落ちたの。アキちゃんのクロと一緒ね」
「ふふふっはずかしい」
「それから何日か経って、今のママが来たの。あたしを抱っこして家族になってくれますか?って聞いてきたから、ワンって大きな声で返事したの。ママはその日は帰って次の日にまた来たの、それでまた帰ってまた来て。何回目か忘れたけどある日わたしを抱っこして、さあお家に行きましょうって言うからびっくりしたけど嬉しかった」
「ジョンとはどうなったの」
「ママに抱っこされたままお別れを言ったわ。ジョンも絶対また会おうねって言っていたわ。でもそれっきりジョンとは会っていないの。ジョンの事は今でも好きよ。いつか探しに行こうと思ってる」
「いつか会えるといいね。あたしも一緒に探してあげる」
「ありがと。それから病院に行って診てもらってから今の家に帰ったの。今のパパやお姉ちゃん達みんなで出迎えてくれたの。とっても優しい人達よ」
「うんそれは知ってる。みんなアキちゃん可愛いねっていつも言ってくれるし」
「わたしは今幸せよ。捨てた家族ももう恨んでないわ。でもあの牢屋の犬たちやジョンがどうなっているかとっても心配。優しい家に貰われていれば良いけど・・・もう帰るね。明日も来るから明日はアキちゃんの話を聞かせてね。バイバイ」

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