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東名高速、緊迫の老人会バス旅行

トヨさんの忘れ物

コロナ流行前のお話。

静岡県のある小さな地方都市。平均年齢75歳のお年寄りばかりが十人ほど集まる旅行グループがある。

彼らは積み立てた資金で年1回、国内のバス旅行をするのが習わしだ。しかし、顔を合わすメンバーは年とともに少なくなっていく。

お仲間がお墓に入ってしまうからだ。

今年も生き残ったメンバーは東京行きのバス旅行を決行したのだが、バスが高速道路を走っているときだった。

突然、80歳のトヨさん(仮名)が叫んだ。

「入れ歯!入れ歯がない!うちに置いて来ちゃったんだよ!」

周囲の者がいっせいに笑ったが、トヨさんにしてみれば深刻な事態。

「入れ歯がなければ、ごはん食べられないよ!旅行に出かける意味がないじゃないの!添乗員さん、なんとかなんないの?」

バスを止めろとさんざん大騒ぎするトヨさん。

「すみません・・・予定通りに到着しないと、スケジュールがこなせないんです」

添乗員は困惑しつつも、バスの停止を拒否。当たり前だ。そもそも今は東名高速を走っている。

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頼りは息子

トヨさんは知人の携帯電話を借りて、慌てて自宅に連絡を入れた。そして、運良く、自宅にいた息子に事情を話した。

「高速を飛ばして、今すぐ入れ歯を持ってきてよ!」

せっかくの休日を楽しんでいた息子。なのに、入れ歯をかかえて高速をすっ飛ばす羽目になった。

しばらくすると、添乗員からサービスエリアで30分の休憩をとるとの通知が。チャンス!

「Aサービスエリアにいるから!今のうちに追いついて!早く!」

息子は必死に車を飛ばし、なんとか出発間際のバスに追いついた。

「お母さん、入れ歯!」
「はいよ!」

老婆にカパッと装填される入れ歯。その瞬間、車内の乗客から沸く拍手と大歓声。息子は赤っ恥をかきながら車へ逃げていった。

「まったくあんたは、そそっかしいんだから!ハハハ!」

友人のツネさんがトヨさんにむかって笑った。次の騒ぎの主人公が自分になるとも知らずに。

※続編はこちらです


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