カネを語るおばちゃんたち・青セーター最後の逆襲
※この話は前回から続いています。
なごやかなムードをぶち壊す、ある事実
よそよそしくも、上辺だけはなごやかなおばちゃんたち。
ところが、そのムードが突然、一変する事態が起きた。それは、パーマがなにげなく株江に話しかけたときだった。
パーマ「いいじゃない、アンタ。Aデパートの株主なんだからさぁ」
青セーターがびっくりして、すかさずつっこんだ。
青セーター「あっ、そうなの?!」
パーマ「そうそう、この人ねえ、Aデパートの株主なのよぉ!」
大きな声が、静かな夜のドトール店内に反響する。
株江「やだあやめてよ、そんなあ!デパートったってAよ~!」
株江は言うが、明らかに株主の優越感を漂わせる表情に変わった。見るからに株には縁のなさそうな青セーターは嫉妬の表情を浮かべた。
そして、苦しそうに言った。
「そうなの。すごいわねえ……」
ちょっと違う人への庶民の感情
株を持ってるからって何よ。そう思いながら、動揺は嫉妬に変わっていく。でも、自分が株江より劣っているなんて認めたくない。
青セーターは心の闇にさいなまれながら、表情をこわばらせていく。
パーマ「ねえ、株主優待とかあるんでしょ?」
株江「まあね」
パーマはこんな会話には慣れているらしく、嫉妬を顔に出すわけでもなく普通の会話を続けていた。もしかしたら、この時点でも青セーターを蚊帳の外に置いていると言ういじめに似た気持ちを楽しんでいるのかもしれない。
だが、株江はどんどん本性を現していく。勝ち誇ったニヤケ笑いでパーマを見るのだが、パーマには次の目的があったために、そんな態度を許している。
次の目的とは、まもなくわかる。
会話を横で聞いている青セーターは、株江の優越感にまみれた態度が鼻についてたまらなくなってきた。
株主に取り入るイタチ主婦
瞳孔と鼻の穴が開き、ひきつった顔だ。なんなのよ、いったいこの女は!株もってるからって、それがなにさ!
イヤなら家帰ればいいのに。近くで観察しているN氏は思うが、こんなところにいたくないと思いながらも、居座ってしまうのが青セーターなのだろう。
そんな彼女をよそに、パーマは株江に取り入り始めた。
パーマ「ねえ、バーゲン情報、もらうんでしょ?」
株江「まあね。でもアタシ買わないのよ、あのデパートじゃ」
その言葉にまたもひきつる青セーター。お金持ちぶるんじゃないわよ、あんただって同じ〇〇〇線沿線のくせに!
パーマも何言ってるのよ!たかがバーゲンなんかのために、いやらしいイタチみたいな真似をして!あんた、バカにされて悔しくないの?!
青セーターのこめかみに、青い血管が浮き出ているのが恐怖をそそる。
パーマ「だから、バーゲン情報教えてよお。アタシさあ、あの5階でいつも買い物すんのよ」
株江「え、どこ?」
パーマ「B(ショップ名)」
株江「ああ、Bね」
パーマ「!」
株江は大きなミスをした。反射的に飛び出した、Bを見下したトーン。ブランド差別。さすがに、一瞬、パーマはムッとした。そして、新しい展開が始まった。
パーマ「あそこはバーゲンやらないのよ!」
株江「そんなことないでしょ、バーゲンやらないなんて」
パーマ「違うの!違うの!なぜかあの店だけやらないのよ、どうなってんの?!」
ムキになるパーマ。株江への怒りをこらえたのはいいが、どこにぶつけていいのか、迷っているのかも。
見下されたおばちゃん
株江「そんなことアタシに言われても、わかんないわよ」
パーマ「おかしいじゃないの!アンタ株主でしょ?!」
株江はパーマがうっとおしくなってきた。そして、めんどうくさそうに言ったのだ。
株江「2流ブランドだからじゃないの?」
言ったあとで、しまったという顔になる株江。二度もムッとさせられたパーマが今度こそは睨みつけた。
さあ、両者がっぷり四つで向き合うか?!
いや、いちばんヤバイのは限界血圧を迎えた青セーターだ。
ところが、期待に反して沈黙の時間が流れた。株江は静寂の中、自らの孤独に気づく。ふたりの怒りを招いただけでなく、店内の客からも冷たい視線を浴びている。
まわりをさぐるように見る株江。おっと、N氏と目が合った。彼女はN氏の服に視線を移した。
そして、見てはいけないものを見たかのように、すぐに目をそらす。
ああ、5流ブランドで悪かったな!数秒前までなんの関係もなかったのに、憤慨するN氏。
イタチはどこまでもイタチ
さらに、驚く事態が起きた。パーマは屈辱を受けても、バーゲンの魅力には勝てないらしく、気をとりなおして株江にすり寄ったのである。
パーマ「ねえ!今度Bのバーゲンがわかったら教えてよ!ねえ!」
株江「わ、わかったわよ、聞いておくから……」
パーマ「ねえ、頼むわよ!絶対買うから!」
株江「わかったわよ……」
確約を取りつけて機嫌を直したパーマが、うらやましそうに株江に言った。
パーマ「それにしてもすごいわね~、株主なんて」
株江「ダンナが3年前にちょっと預けておいただけよ」
パーマ「でも、だいぶ上がったんでしょ?」
いやらしい目つきで探りを入れるパーマ。そのときだった。青セーターが鼻息をフンと出しながら、捨てゼリフをはいた。
青セーター「あら、こっちは預けておくほどのお金もありゃしないわよ!」
株江はその迫力に思わず縮こまり、「あ、そろそろ時間!ごめんね、お先に!」と、席を立った。
パーマは呆然としたまま、凍り付いた。
株主の優越感。媚びを売って利を得たい友人。怒りの炎に燃えさかる青セーターは相手を批判することなく、自分のなにが悪い!という論理で堂々と居直ったのだ。
株江と青セーターが会うことは、もう2度とないだろう。おばちゃんたちは結局、だれも友達ではなかった。
完
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