誰もいない部屋の泣き声
無人の部屋で語りかけてくる存在は
留守番電話の用件を再生すれば、相手のメッセージが聞こえてくるのは当然だ。しかし、用件が入っていないのに声が聞こえてきたら・・・。
ある冬の夜。N氏は書籍の取材を終えて、自宅にもどった。
留守番電話の横にカバンを置いて、風呂に入ってテレビをつける。買ってきたウイスキーを飲み、酔いがほどよくまわったころである。
なにやらボソボソと音がしているのに気づいた。ん?テレビを消してみる。
耳をすますと、人の声だ。となりや階下の住人ではないようだ。音を慎重にたどっていった先には留守番電話。すすり泣く女性の声が聞こえる。
「あれだけの子どもたちが……ううっ……うまくいかなくて当たり前なんです……」
泣き止まない声の主
留守電を見ると、再生ボタンは押していない。当然、使用中でもない。幻聴なのか?アルコールのせい?だとすると、ヤバイ。
女性の声はまだ続く。
「子どもたちにとって……本当に子どもたちの将来にとって……」
ああ、オレはとうとう幻聴を聞くようになってしまったのか。途方に暮れるN氏。
女性のすすり泣きは延々と続く。どうしたんだ、オレはおかしくなってしまったのか。
しばらく近くで聞いてみる。すると、声は留守電のスピーカーからではないことに気づいた。
留守電に耳を近づけると、どうやら左の受話器から音が。受話器がしゃべっている?!切れているはずなのに……。
くそっ、人をからかいやがって。N氏は受話器を取り、叫んだ。
「そういうの、やめろよな。オレは霊とか鈍感なんだ、お前な、そういうの、ちゃんとわかってくれる人のところにいけよ!さっさとこの部屋から出ていけ!」
超常現象か、アルコールが原因の幻聴か?
「……ううっ………ううっ……」
泣き声はやまない。無視だ。耳をすますと、あれ?!音は受話器からじゃない。さらに左から聞こえている気がする。
「子どもたちが大人になったとき……どうすればいいんですか?」
受話器の左にはカバン。えっ、カバンがしゃべっている?! いや、電話よりもっと恐い。
まさか、中に小さな緑色の宇宙人がいるのかも。
おそるおそるカバンのファスナーを開けてみる。中に誰もいないでくれ、頼む!声はさらに大きくなった。
「彼らがいろんな病気を発症するんですよ……」
えっ?!目に飛び込んできたのは、携帯用のICレコーダー。勝手にボタンが押されて、録音された音声が再生されていたのだ。
思い出した。
それは、1年前に取材したときの接骨院の先生。医療界でのある問題に強い疑問を持つ先生が、日本の子どもの未来を心配して、涙してしまった取材のくだりだった。
買ってきたウイスキーの重みで、再生ボタンが押されたのだろう。
カバンの中で宇宙人が泣いていなくて本当によかった。いたら、どうやってなぐさめていいのかわからないのだから。
完
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