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上野のミイラと家庭に疲れた女

※この話は前回から続いています。

ミイラの前でおしゃべり男

上野のミイラ展第2幕。N氏がガラスで囲われたミイラを鑑賞していると、横にふたりの子どもを連れた30代半ばくらいの夫婦が現れた。

近所の公園に家族で遊びに出かけて、そのノリで買い出しにやってきたような雰囲気。つまり、とてもラフなスタイル。

ミイラ展は暗がりばかりなのでどうでもいいものの、ラフすぎて館内で浮いている。

そしてダンナはおしゃべりだった。美術館でもときどきこんなオバちゃんがいる。「あたしは才能ないし、こういうの描けないんだよねえ~」などと連れにどうでもいいことを延々と話しかけながら鑑賞するタイプだ。

ダンナは展示物の横に掲示されている解説板を読んで、いちいち奥さんに話しかけている。

「ヒエログリフだって、これ。あ、ここにあるヒエログリフはあとから作ったものなんだって」

奥さんはうんうんとうなずいてみせるが、イヤそうだ。

「だから、これ本物じゃないんだって。本物がこうだったんじゃないかって想像して作ったんだって」

うざい。奥さんはダンナにいちいち話しかけられるのがうっとおしいようだ。まわりが嫌がる空気も着実に読んでいる。でも、それを言い出ず、複雑な顔でうなずくだけ。

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「あ、これポスターで見たやつだよね。実際は意外と大きいんだね」

うんうんと暗い顔でうなづく奥さん。言いたいことを言えないでガマンしているようだ。そのうち、連れてきた2人の子どもたちが大きな声を出しはじめた。

ミイラの前ではしゃぐ子供

「うわあー、魚のミイラがある!」「あー、ワニのミイラもある!」

眉間にしわを寄せる奥さん。彼女は子どもにさえ、なかなか注意できないらしい。子どもたちは包帯を巻かれたミイラを見て大声で喜んだ。

「あーこの人、忍者みた~い!

個人的にそこはウケたN氏。忍者はぐるぐる巻きじゃないけど、雰囲気はよく似ている。

調子に乗って大声をあげる子供たちに、さすがに奥さんは「シッ!」とやるが、子どもたちは聞きもせず、走りはじめる。

「やめなさい!」

絞り出すような小声で叱る、奥さん。ダンナは助けてもくれず、ポカンとしている。それどころか、またよけいなひとこと。

「この(ミイラの)鼻さあ、もげちゃってるけど、なんか自然に取れたというよりは、だれかが削った感じがするなあ。なんかそんな感じがするなあ」

もうこんな人イヤだ!ダンナの言葉を無視して、奥さんはうつむきながら先を歩きはじめた。

「ママー待ってー!」

子供があわててあとを追いかける。ミイラの鼻がどうだとか、そんなの私にはどうでもいい!子供をなんとかしてよ!ついでに、いちいち私に展示物の解説をするな!読めばわかるんだから!もう家族でこんなところに来たくない!私はひとりで休みたい!

彼女の丸まった背中が早足になる。家族はあわててあとを追いかけていった。やっと訪れた静寂。

ミイラのみなさん、こっちの世界は騒がしいですが、どうか安らかにお休みくださいませ。たぶん、掘り出されないほうがよかったと思うけど。

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