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音楽家が演奏を捧げた相手

モヒカンを熱く語る理容室のオヤジ

「客の頭へダメ出しする理容室」で書いた理容室のオヤジに聞いた話。
この日もオヤジのトークはノリノリで、N氏は眠らせてもらえなかった。

「この前ね、ソフトモヒカンにしてくれってお客さんがいてね。話してるうちに怒って帰っちゃった」
「どうしたんです?」
「あのね、ソフトモヒカンっていったって、モヒカンにもいろんな種類があるんですよ」
「ああ」

この話、何回聞いたっけ?と思いながら、付き合うことにする。

「だいたいね、外国でそんな言いかたするところないですよ。ソフトモヒカンって、日本でしか通じない呼びかたなんだから」
「外国じゃなんて呼ぶんですか?」
「スパイキースタイルとかいうんじゃないかな。ほら、靴のスパイクね。あんなふうにとんがってるから」
「なるほど」

「みんなわかったようなつもりで言ってるけど、昔のベッカムの髪型ね、あれは彼の頭の形に合ってるからこそ、カッコいいわけ。ところが、この前に店にきたお客さんは日本人で、こめかみが出っ張ってるわけ。横に頭がでかいの!そんなヤツがあれと同じにしてくれったって、頭の張り出しが目立つから、かえってブサイクだっての!」

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今日もオヤジの怒りがおさまらない。

「モヒカンたって、その人の頭の形に合わせてこそ、カッコいいわけよ! 前髪を厚めにとるとか、中央だけ厚くとるとか、いろいろその人によってやりかたってもんがあるんだから!だれでもベッカムになれると思ってるところが、おかしいっつうの!」

怒っているときはしゃべらせておくに限る。オヤジは怒るだけ怒ると、まもなくすっきりした顔になった。そこで、なにやら思い出したらしく、ニヤニヤしはじめた。

新興宗教から演奏を頼まれた音楽家

「そうそう、うちのお客さんでね、ある音楽家の方がいてね」

どんな楽器の音楽家なのか、ここでは明らかにできない。一般的に演奏者が少ないような、ちょっと珍しい楽器を想像していただこう。

「その音楽家の男性はね、その筋ではとても有名な方で、国のいろんな祭典や重要な行事に演奏で呼ばれることも多いわけ。その人がこの間ね、ある新興宗教から演奏を頼まれたってんだな」
「へえ」

髭を剃られながら、少しはおもしろそうな話かとN氏は眉をピクリ。

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「でね、総本部にきて演奏してくれってわけだ。演奏会場に行ってみると、そりゃあ立派なホールだったらしくて、驚いたらしいんだな、これが。でね、『演奏前に、教祖様に合わせてあげる』と言われたわけよ。よく聞いてよ、ここがミソ!むこうから『教祖様に会ってください』じゃなくて、『会わせてあげる』というところが、この話のミソね!」
「そんな伏線が?」
「あるのあるの!」

ほんとかなあ、と疑いつつも、オヤジの話は続く。

「それがすごいんだって!なんつーの?外国の宮殿みたいなほら、天井まであるようなドでかい扉!あんなのをいくつもいくつも押して、歩きに歩いたんだと!」

アドベンチャーゲームみたい。

「で、ようやく教祖様の部屋の前に音楽家はたどりついたわけだ!」

続編はこちらです。


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