恋愛の醜い一面

またちょっと過去を振り返る。

詩織と別れてレナちゃんと(形式的には)付き合う事になり、レナちゃんともセックスする様になっていた。

でも心の中ではもうレナちゃんと長く付き合い続けるつもりは無くて、罪悪感に駆られながら、レナちゃんとデートして身体を重ねる日々を続けていた。

このままの状態で付き合い続けても先は無いし、レナちゃんの貴重な時間を俺の自己満足の為に消費させる事にも耐え切れなくなったある日、俺はレナちゃんに電話を掛けた。

俺は付き合っていた彼女と一時的に距離を置いてるだけで数ヶ月後にはヨリを戻すつもりでいる事、レナちゃんの事はセックスしたいと思うくらいには好きだけど、付き合いたいと思える程では無い事を打ち明けた。

全てを打ち明けることが俺の罪を少しでも軽くする事に繋がると思ってた訳だが、今考えると何て自分勝手で愚かな行動だと思ってる。

結局俺は自分が罪の意識から少しでも逃れたいと言う、自分本意な理由から全てを伝えただけだった。

どんな罵詈雑言を浴びせられても全て受け入れるつもりだった。
俺が蒔いた種だから何を言われたって仕方ない。

でもレナちゃんが泣きながら俺に言った言葉は、俺の予想とは違っていた。

相手に全てを伝えるのは優しさじゃないよ。言うのは自分が楽になりたいからだよね。

本当にその通りだ。
結局俺は自分が罪の意識から少しでも逃れたいと言う、自分本意な理由から全てを伝えただけだった。

俺はとことん人の気持ちが考えられない人間。
そして遊びの恋愛に向いてない性格なんだと思い知らされた。

女性と適当な気持ちで付き合うことが出来ない。
女性に期待させずに、適度な距離感で、お互い割り切った関係性をキープするテクニックや考え方が絶望的に足りてない。

結局レナちゃんには心に大きな傷を負わせるだけ負わせて捨てる事になった。とんでもないクソ野郎だなあと更に自分を嫌いになった。

ちなみに詩織との関係性がこじれ始めた頃から、行きつけのバーの常連客の里美さんと良く話す様になっていた。

ある日俺が風俗譲の子との関係についての悩みを打ち明けると、里美さんもまたある男性との関係性について悩んでると言う話をしてくれた。

どう言う悩みか聞くと、里美さんから聞かされた話は自分にとって衝撃的な話だった。

里美さんは行きつけのバーのマスターのMさんと、数ヶ月前から身体の関係を持っている、と。

里美さんの方は本命の彼女になりたい、Mさんと付き合いたいと言う気持ちでいる。
しかしMさんの方にはそんな気持ちはさらさらなく、里美さんの好意を知りながら、それを利用して都合の良い女扱いをしている様だ。

Mさんは俺が恋愛ごとにおいての師と仰いでる人で、これまで100人以上の女性と身体の関係を持ち、散々浮き名を流した、俺が理想とする男像を体現している様な人で、俺は彼を尊敬してやまなかった。

バーテンダーとしてのプロ意識も高く、決してお客さんには手を出さない人だと思ってただけに、彼が一時の性欲を優先して客に手を出すなんて、まさに青天の霹靂だった。

でもまだ決定的ではない。
まだMさんは里美さんが店のお客さんだから、付き合うと言う決断が下せずにいるだけだと言う希望を持っていた。
もしかすると自分が師と仰ぐMさんが最低のクソ野郎である事を認めたくなかっただけかも知れないが。

可能性は低いと思いつつも、「このままの関係を続ける事でまだ付き合える可能性はゼロでは無いと思います」と里美さんを励まし、また自分もその時の恋愛での悩み事を相談し、気が付くと毎日電話で3時間以上も話す様になっていた。

里美さんは俺より一個年上で、顔は一般的には美人だし、胸も大きかった。
ただ俺の好みのタイプではなかった。
もし俺の好みだったらそのタイミングで俺も手を出そうとしてしまってたと思う。

俺はレナちゃんと別れた後、同じくバーの常連客である真莉愛さんの事が気になり始めていた。

真莉愛さんは20代前半の可愛らしい、スリムな子だった。
性格的には明るいがどこか影がある、俺好みの子だった。

バーに行くとたいてい真莉愛さんもバーにおり、ずっとMさんと話していたので、もしかしてMさんの事が好きなのかな?と思いつつも、俺にももしチャンスがあるなら逃したくないと思いながら機会を伺っていた。

真莉愛さんとLINEを交換して、バー以外で会う約束をしたりもしたが、直前で彼女の都合が悪くなったりで結局会える事はなかった。

更に同じくバーの常連の男性の剛さんに真莉愛さんが気になってる事を相談したりもしたが、「絶対辞めた方が良い。あの子はメンヘラだから」と言われた。

俺は真莉愛さんが好きになり始めてたから盲目的になってたかも知れないが、今思えばかなりメンヘラ気質な子だったと思う。

俺はある日、いつもの様に里美さんと電話で話をしていた時に、ある作戦を提案した。

それは、「俺が真莉愛さんに好意がある事をバーのマスターのMさんに相談する事」だった。

もし真莉愛さんがMさんに好意があり、同じ様にMさんも真莉愛さんを憎からず思っているなら、何だかんだ反対して諦めさせようとするだろう。逆にもし反対して来なかったらMさん自身は真莉愛さんを何とも思ってない事になり、里美さんにもまだチャンスがある事の証明にも繋がる。

そして俺自身、Y子と再会する日が2ヶ月後に迫っており、それまでに真莉愛さんへの好意に何らかの形で決着を付けたいとも考えていた。

色んな思惑を胸に、バーに行き閉店間際のMさんと2人だけで話せるタイミングを見計らって、Mさんに俺が真莉愛さんに好意がある事を伝えた。

それに対するMさんの反応はある意味予想通りだった。

「真莉愛さんは絶対に辞めた方が良い」

理由は二つ。
一つは店で恋愛のいざこざを起こして欲しくないと言う事。

しかしそれについてはMさん自身が店の客である里美さんに手を出してる事を知ってる俺には何も響かなかった。アンタの立場で何を偉そうな事を言ってるんだ、と。

そしてもう一つの理由は、ハッキリとは言わなかったが、「ナポレオンさんが真莉愛さんとは付き合えない決定的な理由がある。他のお客さんの事なので詳細までは教えられないが、もし告白なんかしても絶対に無理だから辞めた方が良い」と言う物だった。

そんな良く分からない理由で付き合えないと決めつけられる事は全く腑に落ちなかったが、その理由はすぐに判明した。

数日後、剛さんから以下の話を聞いた。

「Mさんは真莉愛さんと付き合い始めた」

そして同じタイミングで里美さんからも、「Mさんからもう店に来ないで欲しいと言われた」と言う話も聞かされた。

なるほど。
やはりMさん、いやMも真莉愛さんを狙っていたんだな。
俺が真莉愛さんを狙ってる事実は彼にとって都合が悪い話なので、俺が真莉愛さんにアプローチを掛ける事をあんなに反対したんだな。

そして俺のMへの打ち明け話がきっかけになったかどうかは分からないが、Mは真莉愛さんと付き合う事を決めて、邪魔になった里美さんを切り捨てたんだ。

俺が師と仰いでいた男は、俺が最も忌むべき、自分の都合で女性を傷つける最低の男だった。

俺はもうそのバーには二度と行かないと心に決めた。自分が一番なりたくない最低の男像そのもののMがマスターをやってる店にはもはや行く理由がない。
6年間通い詰めたバーだったから寂しい気持ちもあったが、里美さんの気持ちも考えると二度とバーに行かない事を決めるのには十分だった。

ちなみに里美さんはその後、剛さんと結婚した。

里美さんとMの関係について俺は誰にも言わず墓まで持って行くつもりだったが、里美さんはそれを隠しておく事が出来ず、自分から剛さんに全て打ち明けたそうだ。
剛さんはそれを受け入れた上で里美さんと結婚した。

剛さんもそれ以来あのバーには行ってない。
そして剛さん、里美さんとは現在でも良い友達関係が続いている。

俺は今まで避けてきた男女の恋愛が、想像していた以上にドロドロして多くの負の感情が渦巻いて、また色んな人を不幸にする可能性を秘めた恐ろしい一面がある事を、Y子と距離を置いてからのたった半年間で嫌と言うほど身を持って体験した。

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