SNS Shocking#1「誰にも媚びない無敵の人」(ゲスト:秋元修)
我々の生活や身の周りにあふれる音楽。その大多数が4単位のリズムや小節で進行し、ドレミファソラシドで均等にチューニングされたものである。しかし、それらに当てはまらない“揺らぎ”も存在する。律動における「ポリリズム」、音階における「微分音」はその一例だ。
ふたつの概念が揺さぶるのは1拍目と2拍目、もしくはドとド#の間。このミクロな世界はピンチアウトすればするほど無限に広がっており、探究すればするほど新鮮なグルーヴやメロディを違和感とともにもたらす。知覚できるようになれば、喧噪とBGMが混ざる渋谷のスクランブル交差点、テープ録音のサウンドなどからも“揺らぎ”を感じられるだろう。
そんなサウンドに魅了された30歳のドラマーがいる。その名は秋元修。菊地成孔氏の「DC/PRG」、 スガダイロー氏の「a new little one」、アンビエントバンド「Klehe」、そして自身のプロジェクトと幅広く活躍する若き音楽家のひとりだ。
やたらとリズムや音程を分解したがる彼のプレイスタイルは決して普通ではない。しかしポップな歌物でも、前衛的な即興でも自分を崩さない姿に不思議と惹かれる魅力がある。その理由をインタビューから探りつつ、「SNS Shocking」最初のゲストとして紹介したい。
(写真:西村満、サムネイル:徳山史典、ジングル/BGM:sakairyo)
「菊地さん、ダイローさんは音楽と性格が一致してる」
――多様なバンドに参加していますが、それぞれにおける自身の立ち位置は?
菊地さんのバンドはポリリズムを意識しつつ、かといって細かく変化させすぎないようにはしています。DC/PRGに入った頃も初期はころころリズムを変えていましたが、後半はリズムの拍子をある程度キープすることも覚えました。現在参加しているラディカルな意志のスタイルズでは、それを踏襲して叩いていますね。
a new little oneは何が起こってもいいというか、(スガ)ダイローさんって事故が大好きなんですよ。むしろ流暢に叩くと不機嫌になるという噂があります(笑)。ジャズを演奏する時は頭で鳴ったものを演奏するようにしていますが、このバンドではそれを顕著に出すようにしてて。急に叩かなくなってもいいし、急に壊れてもいい。カオスに持っていくのでメロディが全員ズレていても問題ないくらい。それが面白いという感じで自由なんですよ。
Kleheは「テクスチュア・ミュージック」を謳っているので、決まったテンポとかは基本ありません。だからリズムというよりも音色。ザラザラしか感じや、メタリックな感じをドラムで出します。金属板を叩いたり、ドラムをプリペアド(加工や細工)して演奏することが多いですね。
――菊地さんとスガさんは、ふたりともピアニスト・山下洋輔さんの影響下から出てきた音楽家ということで共通しています。秋元くんから見た両者の印象を教えてください。
菊地さんは人柄としていい意味で適当なところがですね(笑)。高田純次みがあるというか。よく出まかせを言ってバンドメンバーを楽しませてくれます。音楽家としては独特ですよね。昔からボーカロイドを取り入れたり、リズムも前衛的で僕たち世代にはない感覚を持っているなと。
ダイローさんは「知らないことを知りたい」という感じの人。レストランや蕎麦も絶対に同じ店には行かないらしいです。これは菊地さんも同じですが、音楽と性格が一致しているんですよ。
――それに比べ、Kleheのメンバーは世代的に同じくらいか下の人が多いと思います。何か心理的、環境的に違ったりします?
Kleheは対等な感じ。曲についてもアイデアを出しやすいです。逆にダイローさんにはあまり口を出しませんが、演奏が上手くいけばOKなんですよ(笑)。年上の人とはコミュニケーションとして言いづらい部分はあるかもしれません。でも末っ子なので年上といる方が楽です。
「ただ自分の“歌”を出す」
――自身の音源としては、ポリリズムからlo-fiヒップホップ、中華ポップスなどスタイルが多岐に渡りますが、これについては?
まず「他の人がやっていないことをやりたい」という気持ちがあるんですよ。最初はlo-fiヒップホップの夜な感じ、チルっぽさが好きで作っていました。鮭を焼いた音をノイズの代わりにして動画がTwitterでバズったこともありますよ(笑)。あとはテープ録音の揺らいだ音程をデジタルで再現したかったので、周波数の違う3種類のキーボードによる微分音の楽曲を作ったんです。
それで打ち込みを覚えてから、急にポップスを作りたいと思い立って。昔タモリさんの鉄板ネタだった「ハナモゲラ語」として中国語っぽく聞こえる意味のない言葉で作ったポップスを作ったら、それでも満足がいかず、逆に中国人のシンガーにそれを歌ってもらったりしました(笑)。今はまたlo-fiヒップホップに戻って、5枚目のEPを製作中です。
――1st EP『相違/現在地』、2nd EP『差異/現在地』では、僕が作曲した「GPS」をカバーしてくれて感謝です。大谷能生さん、ermhoiさんといった客演も驚きでした。
Kleheを始めたことが大きくて、メンバーのアンビエントな演奏をうまくトラックにしたいなと思ったんです。大谷さんは、菊地さんと組んでいるヒップホップクルー・JAZZ DOMMUNISTERSが好きで観に行ったことがあって、僕のことを知っていてくれたんですよ。それから一緒にデュオ編成で即興ライブをやらせてもらいました。ermhoiさんは小池さんに紹介してもらって。
――彼女は一緒にバンドをやったり、自分の20代後半で最も刺激をもらった人のひとりですね。では今現在、秋元くんは「リズム」についてどのような理解を持ち、どのような探求をされていますか。
コンセプトとしては、いわゆる「アフリカン・ポリリズム(微分したリズム。4拍子の中に異なる拍子を設定し連符を入れる)」の練習を毎日しています。でもフレーズとして出すと音楽的に成立しないので(笑)、敢えて出そうと思っていません。僕の師匠のジャズドラマー・原大力さんは“歌”と表現していましたが、そのように自分の持っているフレーズをただ出すというイメージ。
「メジャーな人と演奏する時も媚びない」
――アフリカン・ポリリズムと微分音は、西洋的な2、4、6などの偶数感覚の強いビートや、均等に並んだドレミファソラシド(平均律)を崩すという点で似ていると思います。これに興味を持ったのはなぜ?
高校生の時、ベース奏者のロニー・プラキシコのリーダー作品を聴いて、そのテクニカルな演奏に衝撃を受けたんです。そこから上原ひろみさんを聴くようになって、7拍子などの変拍子に興味を持ちました。
それから洗足学園音楽大学のジャズコースで、伝説のバンドであるティポグラフィカに参加していた水谷浩章さんのアンサンブルの授業を受けたんですよ。そこで初めて5連符や7連符を使った譜面を見て、気持ち悪いリズムが面白いなと。そこから乗法する方向の変拍子よりも、4拍子などの普通のビートを除法するポリリズムが好きになりました。それが始まりですね。
――EP『相違/現在地』では、菊地成孔さんが「本当にリズムを聴いているドラマーは、結局アンビエントまで行くと思う。単なる逆張りや悟りの類ではなく、アンビエントの中にこそ無限個のリズムが存在し、発生するので、これは一種の自明だ」という言葉を帯に寄せていますが、これについてどう感じましたか。
そう思いますし、僕が目指しているのはそこかもしれません。スウェーデンのピアニストのボボ・ステンソンのアルバム『グッドバイ』に収録されている「センド・イン・ザ・クラウンズ」のポール・モチアンのドラミングが僕の理想です。
リズムがルバート(均等でなく自由に流れる)なので何を叩いているか理解できませんが、ECMレコードみたいなサウンドをポリリズムで表現したいんです。手数を詰め込むよりも空間的なプレイ。そういう意味で菊地さんの言っていることは間違いではないと思います。
――アンダーグラウンド街道を突き進んでいるように見えて、七尾旅人さんとも一緒に演奏してますよね。
はい。代役としてリハーサルに参加したのですが「秋元くんは流石にアングラすぎる」と言われたので(笑)、少し調整しながら演奏しました。でもメジャーな人と一緒に演奏する場合も媚びないというか、自分のプレイスタイルを貫くことが音楽では大切だと思ってます。
声を掛けてくれた、ということは他のドラマーではなく「僕を選んでくれた」ということですよね。だから合わない人もいます。その時は疎遠になるだけです。何だか無敵の人になってしまいました(笑)。
――「SNS Shocking」な世の中で、なかなかのストロングスタイルですが、その境地に至ったのはいつでしょう。
今のプレイスタイルになったのが27歳くらい。それまでは叩きながら「何か上手くいかないな」という矛盾をずっと感じていたんです。やりたいことと違うなと。やっぱりDC/PRGに参加したことが大きかったですね。これでポリリズムを追求する資格を得たというか。
大学でそういう練習をしていた時に「何の意味があるの?」とわざわざスタジオに入って言い捨てていく同級生もいたんですよ。でも僕は好きだから続けてましたし、もし日の目を見なかったら当時働いていた「すき家」の店員を続ければいいやと思ってました。
――最後に音楽以外でインスパイアされるものなどがあれば教えてください。
なんだろう……将棋ですかね。羽生善治と藤井聡太の王将戦の前夜祭にも応募しました。まさか生きている内に見れるとは。将棋にも棋譜があって手堅い人とフリーな人がいるし、勝負事だから音楽と共通する部分があるのかはわかりません。あとは唐辛子が大好きで、自分で栽培したものを物販で売っています。これが人気なんですよ。最初のMCが始まる頃にはもう完売です(笑)。
次回のゲストは・・・?
「SNS Shocking」第1回を終えました。媚びない無敵の人・秋元くんのインタビューから何かを感じ取ってもらえたら、また私と一緒に制作した曲もぜひ聴いていただけたら嬉しいです。
そして彼が次回の取材相手として紹介してくれたのは、a new little oneで一緒に演奏するギタリスト・細井徳太郎さん。さらなる両者の関係性はラジオからどうぞ。幅広い音楽性だけでなく、個性的なファッションセンスについても切り込みたいと思っています。まだまだ先の読めない本企画、第2回にも期待してください。
そして本企画に力を貸してくれたクリエイターのみなさん、これまで私を助け、励ましてくれた全ての友人や先輩、家族、編集者の方々、そして御縁と運命に感謝を。ひとりでは成し得ないことばかりでした。本当にありがとうございます。(小池直也)
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