ゴロゴロしていてはミスチルには入れない

「平日の昼間からゴロゴロォゴロゴロ。あーあ、ニューヨーク・ヤンキース間違って俺と契約しないかな」

お笑い芸人のずん飯尾のネタである。

そんなことあるあけがないのに、もしかしてもしかしたらあるかも・・・そんなわけないか。現実から目を背け、楽に暮らせないものだろうか。誰もが一度は思い抱いた気持ちを彼はうまく代弁する。

彼の「現実逃避ネタ」はほかにも「平日の昼間からゴロゴロォゴロゴロ。あ~あ、ミスチル一人募集しねーかな」「平日の昼間からゴロゴロォゴロゴロ。あ~あ、ここ2、3日のうちにスピルバーグ監督の目に止まんねーかな」など人間のなまけ心を絶妙にくすぐる。

私自身も彼のネタを聞いて「あ~あ、酒の本をここ数年で2冊書いたのだから、サントリーか宝酒造がただ酒でも飲ましてくれないかな」と夢想したものである。
だが、考えてみれば、何十万部も売れなければそんなことは起きないだろうし、そもそも書籍のタイトルが『人生で大切なことは泥酔に学んだ』『政治家の酒癖』である。全くもって酒のイメージアップに貢献していない。万が一、酒類メーカーの関係者が私の書くものを認識していても、「泥酔する前に学べよ」「酒癖、発揮しなくていいですから」といいたいところだろう。嫌われることはあっても好かれることはない。

もちろん、思わぬ形で人生が切り開けることはある。

例えば、「ハリウッドの女神」と称された女性のデビューのきっかけは陸軍の広報誌だった。工場で作業していた彼女を捉えた一枚の写真がハリウッドのスカウトの目にとまり、この偶然によってドローン(当時からドローンはあったのだ)の製造工場でプロペラを取り付けていたノーマ・ジーンは大女優への階段を上り始める。

「おまえ、マリリン・モンローを例に出すなよ」と突っ込まれそうだが、極論を語れば、人生は才能か運かといわれればいうまでもなく運だ。

数年前のイグノーベル賞で改めて運の重要性が指摘されたことを覚えている人もいるだろう。これは「成功するには才能は全く関係ありません。運です」という身もふたもない結論だ。「じゃあ、何もしなくていいじゃん」となりかねないが、そうではない。ゴロゴロしていてもヤンキースのスカウトは来ないし、ミスチルには入れない。スカウトされる場にいなければいけないのである。場にいるためには、結局、凡庸な人間は無駄な抵抗と思っても抗うしかない。手数を出すしかないのである。

「そんなことはわかっているよ」「なにをいまさら」という声が聞こえてきそうだが、多くの人は万が一を期待するし、変な手数の出し方をする。例えるならば、ヤンキースにスカウトされたいからとサッカーの練習をしたり、ミスチルに入りたいのにビジュアル系の化粧を覚えようとしたりする。つまらなくても地道にバットを素振りし、ボイストレーニングや楽器の練習をするしかないのである。何を言いたいかというと手数を出すには正しい出し方がある。

「急に今回はどうしたんだ」「人生訓みたいになってるぞ」と指摘されそうだが、3カ月放っておいた原稿を前にそんなことを思ったのである。ライターは「ああ、日経平均株価が4万円を超えたら、金融資産はいくらになるんだろう」なんて考えて株の売り買いをせずに、地道に書くしかないのである。

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