シシテル #碁極
「ちっ…くそ…これじゃぁ近づけもしねぇ…魍魎道って…生意気なガキが一丁前なツラしやがって…」
一葉の後ろに現れた強大な闇の中から断末魔のような叫びや唸り声が脳の奥底まで響いてくる。
「我が名は鬼庭義光…鬼門の宴としこの力を茂庭一葉へ継承。これより魍魎道の発動権限は茂庭一葉が指揮を取る。さらば浄瑠璃…間も無くだ…」
その闇の中で僕はその男から全てをもらった。
一方的に。質問とかそんなこと出来るわけがなかった。
きっとこの力は鬼とこの世を繋ぐ道のようなもの。
一体何に使うのかはわからないけど今はとにかくお姉ちゃんと癒鬼を護りたい。ただそれだけ。
「あああああああああああああああああああああ」
和太鼓のようなボコボコとした振動が僕の心臓に突き刺さる。
決して痛いわけではない…痛くはないんだけど…涙が出てくる。
「一葉!気をしっかり持て!」
茨木童子が一葉を抱きしめるが白目をむいたまま闇に体が飲み込まれていく。
「なんだ…さっきとは違う…制御…出来てないのか?」
茨木童子の腕に何かが触れた。
その闇から無数の腕が伸びる。
「違う…これは魍魎道じゃない…怪異そのもの…このままじゃ私も…おい!一葉!一葉!そこの男!このままだとまずい!お前も飲み込まれるぞ!」
一葉は止まることなく絶叫している。
「あーったくめんどくせぇ…鬼はともかく俺の命までは勘弁してくれよ〜」
コートを靡かせた男は新しいタバコをポケットから出しそれに火をつけ白い手袋を着用する。
「怪異だの、鬼だの、クセェ〜な…クセェ〜」
「碁極」
その男が両腕を広げると地面に碁盤のような十字の線が現れた。
「ヒトに使うのは初めてだが…四の五の言ってらんねぇーよなぁ…おい赤いのお前は一葉の仲間なんだな?」
茨木童子が男から目を逸らす。
「仲間とか…別にそんなんじゃない…」
「ふざけてる場合かてめぇ…自分の命もかかってんだろうが!」
茨木童子は逸らした目を男へと向ける。その目は少し輝いていた。
「仲間…仲間だ!あぁ仲間だ!ここにいるみんなを助けてくれ!」
かつては人に殺された同志への思いを背負い茨木童子は人と共に歩むこと、一葉が困っていたら助けようと言う強い意志が芽生えた。
「バカだな…私…酒呑童子様…いつかまたこの世を共に駆け巡る日が来るその時まで人と共に過ごしても宜しいでしょうか…いつかまたみんなで笑えるその日が来ても…」
「よし!お前はみんなが動かないようにしっかり押さえておけ!その足元に見える線からは一歩も髪一本も出ちゃダメだ!わかったな?」
「わかった。」
「ったく最初から言えっつーの…この碁盤の上では俺が全てを支配している。言わば王手、チェック、色々あるがそんな感じだ。よってその後ろの闇が他のマスに入ると…」
男は瞬時に一葉や茨木童子の横へと移動し闇から伸びる腕に触れるとそれらは弾け飛んだ。
"早い…私の目でも追えなかった…"
男は一瞬にしてその闇を打ち砕いた。
「この闇を…一撃で…私は茨木童子…お前は…」
「あ?俺の名前か?阿形…またの名を建御名方(タケミナカタ)…」
タバコを咥えながら茨木童子を見下ろして深く息を吐く。
「軍神だ…」
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