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シシテル #命預

阿形が四葉をおぶりながら家の外に出る。

いつのまにか家の前には一台の黒いセダンが止まっていた。

「その様子なら、大丈夫だったみたいね。」

「あぁ、ちと手こずっちまったが…感覚を高めることができたよ。だが…一応お前も連れてきてよかったよ。みつき。」

阿形はセダンの後部座席を開けた。

「行くぞ。」

一葉達がポカンと口を開ける中癒鬼がもぐもぐとまた何かを食べて口元を真っ黒に染めている。

チョコレートだ。

「行くっていきなりどこへ?」

一葉は状況が読めないまま不安に満ちていた。

阿形がそっと後部座席に四葉を下ろすと胸元からタバコを取り出し火をつけた。

「君のお姉ちゃんが所属している団体のところへ…だ…」

「所属って?僕わからない…」

「チッ…ガキと話すのは面倒だな…なぁ!みつき!」

運転席からサングラスを外して降りてきた10代後半くらいの美しい女性が一葉の元へしゃがみ込み目線を合わせた。

「君が一葉君か!お姉ちゃんから話は聞いてるよ!やっとお風呂1人で入れるようになったんだってね?今まではお姉ちゃんがいないとって言ってたから。お姉ちゃん毎日一葉君の話聞かせてくれるんだよ!」

「パパもママも双葉も死んだから…だから全部1人でやるって…決めたことだから…」

「バッ…みつき…」

いいのいいのとみつきは一葉を抱きしめた。

「強くなる。強くなりたい。あなたの気持ちは私にはわかる。私も家族がいなくてさ…今までずっと1人で生きてきたの。でもね、今から行くところはあなたがきっと求めている場所…最初は不安になるかもしれないけどきっとあなた自身の居場所を見つけることができる。だから今は安心して。」

一葉は涙を流した。

「大丈夫だ一葉…私たちもお前についていこう!先ほど会ったばかりの中だが何かあれば私に頼るといい…お前らも…一葉に何かあるようであればこの茨木童子が許すはずがない。この身が滅んでも私は一葉を守る。」

阿形がフーッと長く息を吐き口から出た白い煙が何故になびかれどこかへ消える。

「私も一葉に着いていく!私も一葉を守る!」

癒鬼がそう言うとその頭を阿形が撫でた。

「ハゥ〜何をする〜!」

「人に名付けられた鬼は、人に似る。ツノの生え際触っても怒んねーもんな?なぁ茨木童子?」

「私は別に人に名付けられたわけでは…名付け…」

「ばーか…鬼として忘れんなよ…酒呑童子もまた、」

阿形は新しいタバコを取り出して火をつけてその一口目の煙を大きく吐き出した。

「人の子だということをな…………ほらわかったらとっとと乗るぞ。」

茨木童子が何かを思い出したかのように悲しそうな顔をした。




「お兄ちゃん!僕も行きたい!僕も一緒に行きたい。」


一葉が振り向くとそこにはさっきよりも色が薄くなっている双葉の姿があった。

「双葉…なんで向こう側が…双葉!双葉!」

「お兄ちゃん!」

一葉は双葉の元へ駆け寄りその体を抱きしめた。

「双葉…嫌だ…消えないで…」

「お兄ちゃん…僕わかってたよ!僕が死んでるって。」

「ダメだ…わかってない!双葉はお兄ちゃんと一緒にいるんだ!ずっとずっと一緒に!」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんだけが僕のことわかっていてくれたから…」

一葉の肩を阿形がそっと握った。

「時間だ…悲しいが…君の弟は呪縛霊だ…君がいた公園から双葉君が離れれば離れるほど魂の存在は無くなっていく。」

「ダメだ!絶対に嫌だ!双葉!嫌だ…」


その時、セダンの助手席のドアが開いた。

「霊…ただの霊…そんな悲しむ必要はない何故ならその子は死んでいるのだから…例え家族でもね…そういえばちょうど今日が49日じゃないのかい?それなのに君達は家族すらも見送る準備ができてない、ましてや…魍魎道とかいう馬鹿げた能力まで発動させて無くなったお父さんやお母さん、兄妹まで不安な気持ちにしてあの世へ送るのかね?」

みつきが頭を抱えてその男の方の開けたドアに手をかけた。

「解離…何もそんな酷いこと…今言うことじゃないでしょ…あの子達は今!」


「苦しい…心の底から苦しい…そんなの理解しているさ、みつき、阿形…おい君!一葉と言ったな魍魎道を出してみなさい。」

「バカなの?あんたは!そんなことできるわけないでしょうが!さっきあんなことがあったのに…少しは考えなさいよ!」

「おい!魍魎道を出せと言っている。君の弟を救いたいんだろう?」

一葉はその男を涙を溢しながら見つめ何度も頷いた。

「その後をどんな状況でも存在させたい。そう思っているのだよな。」

一葉は何度も何度も頷く。

「ならば魍魎道を出して一葉君…君が名付け親になればいいんじゃないかな。」

あたりが騒然として先ほどまで吹いていた微風がぴたりと止んだ。

一葉は双葉を優しい目で見つめ自分と似た顔を両手で優しく包み目を閉じる。

「バカ。やめろ!」

「解離!だめよそんなこと!」

「あの闇がまた現れるのか…」

「これ美味しい!もう一つある?ん?」

「お兄ちゃん!僕!」



魍魎道…


「君の名前は双葉…茂庭双葉…」

「お兄ちゃん…お兄ちゃん!見て!」

目を開くとそこには金色の光が魍魎道の拡大を抑止してその闇を最小限にとどめていた。

「私も双葉は守りたいから…それで一葉が幸せでいてくれるなら…私はそれだけでいいわ…良かった…魍魎道の攻撃対象が私で…」


「お姉ちゃん!」

「一葉、双葉…乗りなさい。あんた達はもうこの世の存在じゃないわ。」

僕たちは四葉の言う通り車へと乗り込んだ。

茨木童子が癒鬼をわきに擁て阿形に言った。

「店員オーバーのようだから私たちは後を追いかけるぞ!」

「あっ…チョコレート見つけた。」

癒鬼は茨木童子のポケットに入っていた少し溶けたチョコレートを見つけ目が輝いている。

解離は助手席へ乗り込みシートベルトを締めエアコンの位置を自分の額の位置へと調整した。
「ちょうど6人…うち怪異が3体…ぎゅうぎゅうだな」

みつきはキーを差し込みエンジンをかける。

「ちょっと狭いけどみんな大丈夫かな」

阿形も後部座席に乗り込み四葉の上に一葉を乗せ扉を閉めた。
「解離…少し話が…」

「悪いが阿形…私のしたことは悪いことだ…だがな、我々も彼らを守る義務がある。今までもこれからも…神から賽は投げられた…」


一葉は四葉に視線を送り自宅の方を見た。

「あの…どこへいくんですか?」

みつきはギヤを入れて振り返った。

「護神会!まぁ…学校みたいなところだよ!」


家の玄関口には一葉を見送りながら手を振るあの頃の優しい父親と母親の姿があった。

車が発信するとその姿はゆっくりと風と共にどこかへ消えた。

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