見出し画像

焼けただれた葡萄 brûlures solaires

21 juillet 2019 

「見ろよ、どの列も…こんなに綺麗に耕されてやがる!」

シリ君が声を荒げて土を蹴っ飛ばした。彼が手を掛けた畑だ。その姿を見て、直ぐに後悔が込み上げた。。。本当は、この丘の上の葡萄畑は、 来る予定じゃなかった。

「実はあまり見たくないんだ…。」

と言って躊躇していたシリ君を、無頓着な好奇心から促してしまった自分を責める。遠目からも、葡萄の株の下部の葉とグリーンピーズ位に成長していたはずの房が赤茶けているのが分かった。熱波canicule を受けて*焼けて* brûlures solaires しまった葡萄達だ。いつか、自分の畑にもこんな被害が降りかかる日が来るのだろうか。

シリ君は焼けただれて茶色い小石のようになった房ではなく、まだ翠色の部分が多い房をむしっては、数メートル先に放りあげながら半ば自虐的に「これもダメ、どれもダメ、ほぼ全滅だよ!」と言い捨てた。

6月末に訪れた熱波が、この地方にこれ程の被害をもたらすことを、誰も予測していなかった。共同購買所のフラン兄さんも「爺さんの代でもこんな被害は見たことないってよ!」と息巻いていた。

冬の時期の剪定や春先の農耕、そして雑草や病気やとのバトル。有機農法がどれだけ手が掛かるのか、自分もこれまでの経験で思い知った。被害を受けた葡萄農家は、どんな気持ちで焼け爛れた葡萄たちを見つめたのだろうか。

被害を受けた区画と幸いながら被害から逃れた者を分けたのは、日照条件や表土の種類もさながら最終的には硫黄を噴霧するタイミングだったと思う。そう、あの憎きうどん粉病対策の『黄金の粉』。その悪魔的な熱波が地中海沿岸を襲った金曜日の前4日間に噴霧された区画は、朝方には翡翠色のグリーンピーズであった房が、次の日には乾いてあたかも錆びついたような赤茶色の化石へと変わってしまった。

葡萄が太陽熱によって火傷Brûlures solaires し壊死に至る現象は、表面の温度が 42度に達すると起こるらしい。葉は枯れ果実も太陽に最もさらされた面に赤褐色の「病斑」が現れて、その重度によっては果実全体が乾燥する可能性がある、と物の本に書いてある。ウチの地域みたいに表土の上に石が被さる畑や、色の明るい土壌、そして特に強い太陽光線にさらされる区画が危険度が高いらしい。ムッシュVによれば、トラモンタンが熱風を吹きつけて被害を広げるとも。

ムッシュVの畑もいくつかの区画で被害があったらしい。ウチの畑は、幸いながら被害らしい被害は被らなかった。硫黄の噴霧(と言うより手作業は振りかける作業だけど)をしてから猶に10日は経っていたから。

明日は、我が身。その時には、ムッシュVのように、事を冷静に受け止められるだろうか。。。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?