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"Le vent de la Pentecôte " ~ポントゥコットの風

22 juin 2019


"Le vent de la Pentecôte ? "
「ポントゥコットの風、ですか?」

「当然、君も知ってたよね、とでも言いたげなムッシュVの言葉を遮って、初耳感を強調する私。

「そうだよ。毎年この時期には凄い突風が吹くから、通常なら attachage はポントゥコット前に終わらせておくんだよ「

そのポントゥコット前の一週間は、所用でArgenton-sur-Creuse と言うフランスの田舎街に居た。戻ってからすぐ畑の様子を見に行くと、シラーの区画でいくつかの株の若枝が風でもぎ取られたか、枯れて茶色くなっていたのだ。

ところでムッシュVによれば、シラーは『頭が地面に落ちる《Cépage à la tête tombante》』品種で、如何に "Gobelet" ゴブレに仕立てあげても若枝の先は地面を這うようにしなだれてしまうので、何らかの支柱を立ててそこに紐でくくりつけてやらないといけないのだそう。Attachage は、支柱をハンマーで地中に打ち付け、それに伸縮性のある紐を結びつけた上で、若枝をそぅっと集めて紐の輪の中に入れ込み、遊びを持たせて縛る作業。支柱を引き抜いて動かしたり、打ちつけたりするガツン系の強さと、若枝や開花しかけのデリケートな蕾を傷つけないように扱う優しさの両方を要求される作業だ。

ウチのシラーは、幼少期は ギュイヨ"Guyot" 仕立てで、以前は苗を支えるワイヤーで支えられていた。1996年にムッシュVの管理になった後は、仕立てをゴブレ方式に転換されて、支柱やワイヤーも取り除かれた。そのせいか背がやたらと高いので、幹部分が風で押されて斜めになり、長い若枝は地面を這ったように、そう、柄の短い書道の筆を寝かせたみたいな形になってしまう。それをそうっと起こして他の短い若枝と一緒に集め、腕で支えながら紐でくくる。と、他人が見たらあたかも葡萄の枝を抱きしめているような格好になる。

なんか、ロマンティック?と思ったアナタ、甘い。 どっこい、この時期は足スズメバチ guêpes が巣作りに励む時期なので、実は危険も伴う作業だったりする。幸いにもまだ、刺されたことはないけれど。

「聖霊降臨祭の風なんて聞いたこと無かったよね、直虎。だって風はいつも吹いてるしさ。」

きっとこの地方特有の季節ものの風とかで、熊本の太平燕みたいな存在に違いない。この地域の人は全国区だと思い込んでるけど、実はこの地域の局所的現象…。

試しに、共同購買所の姉御に聞いてみた。

「ハァ?聞いた事ないわネ。だって風はいつも吹いてるじゃぁないの。」

だよね…。

パリに住むパートナーに聞いても、初耳だと言う。ペルピニャン駅で会った隣町出身のお爺さまにも聞いてみた。

「いや、この時期だけ特に風が強いわけじゃないからね。」

あらあら、誰も知らないのかな。どうやら太平燕どころじゃなく、V家レベルの語彙なのかも知れない。

「聖霊降臨祭の風…か。Wikipedia は何て言ってるか調べてみようか?ね、タビビト。」

"le vent de la pentecôte..." 入力を始めるとおやおや、自動入力で出てくるではないですか!

期待感一杯で読み始めると、何と聖霊降臨の前触れの『突然激しい風が吹いてくるような音』のことと判明…!

「ねぇ、直虎。ムッシュVは、新約聖書の一節に掛けて『ポントゥコットの風』って言ってたんだね。もしかしたら、被害が酷くて神懸り的なエピソードがあったのかなぁ。今度聞いてみようね〜。」

果たして、全国区どころか、(キリスト教)世界的な語彙だったのでした。

「それにしても、知らないって言った人達、聖書読んだことなかったのかなぁ。フランス人ってほぼデフォルトでカトリック教徒なのにね、直虎?」

直虎 :「…。」

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