見出し画像

「ブルースマン」に寄せて

バンドとして2枚目のEPをリリースした。収録されている4曲のうち、1曲「寒い朝」を作曲、もう1曲「ブルースマン」で作詞作曲を行なった。

「ブルースマン」という曲は当初「ブルースマン」という曲名ではなかった。僕がバンドに対して提出したデモをベースのゆーりがリアレンジしてきた時の仮題が「Bluesman」であった。ぴったりな曲名だと思った。英語はなんだか気恥ずかしいので、カタカナ表記にした(僕はまだ英語の曲名を作ったことはない)。

2021年夏、僕はコロナに感染して実家の自分の部屋に隔離されていた。コロナの病状の苦しみより、仕事を休めている嬉しさの方が大きかった。バンドの状態としては1st EPの発売を皮切りに、ライブ活動を開始。2nd EPを見据えた新曲作りをしなくてはいけない状況だった。3曲はできていて、EP自体の”1日の流れにする”というコンセプトは決まっていて、そこに夕方のテーマ曲としてもう1曲は欲しいよねと話し合っていたが中々曲ができなかった。コロナの症状もすっかり治り、体を動かしたくて堪らなくなっていた時にフジロックの配信でくるりを見た。その時披露された新曲の「真夏日」と最後に演奏された「奇跡」凄く印象に残っている。フォーキーな曲こそ大きな景色を感じさせるのだと感動したし、ギター同士の絡み合いの妙と、ただただギターが歌うことの力強さを痛感した。それでいて普遍的な感覚を言語化するような歌詞。EPを制作する中でそんな曲が足りないと思った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

高校生の時、唯一書いた曲がある。バンドも組まず、自分で歌うことも選択しなかった僕が唯一書いていた曲。当時録音の環境もなく、アコギでボイスメモに一発録りするしか形にする方法がなかったけれど、下手な歌とギターでとりあえず録音した音源があった。この曲を今なら昇華できるのではないかと思った。

この曲は所属していた部活での最後の春合宿の光景を思い浮かべながら作った。その合宿では最終日にオールをして、思い出とかなんかを皆で語らい合う文化があった。それを残したくて、それを連想できるように、夜明けが迫る感じと刻一刻と終わりゆく青春を実感しながら過ごすということを歌詞にしていた。いま過ぎた1秒が惜しくて、懐かしかったり、この時間をいつか懐かしむんだろうなという感慨。

歌詞はバンドに持ってくるにあたり、当時書いたものからほとんど改変した(中2過ぎたり、直接的な表現が多過ぎた)。夜明けから夕方に場面を変えた所から始まり、バンドの一つのテーマでもある曖昧さみたいなものを表現した。一方でサビの冒頭部分は変えていない。今この瞬間を過ごしながらも少し俯瞰で見て、「まだ思い出でもない」ものとして懐かしんでしまう気持ちは今も自分の中で変わっていない感覚だと思うし、それは生活をしている中で感じる美しさの一つだとも思っている。それを歌にできていてよかったと思う。そして夕方をテーマにした曲として、EPのテーマである1日の終わりを迎える曲として、そして今の自分のモードにふさわしい曲だと思った。

曲調は当時の一辺倒なアコギでのフォークソングの弾き語りから、ブルース、ソウルの要素をバッキングに加えた。そして、ギターソロのためにエリック・クラプトンを中学生の頃みたいにコピーしてデモを作成した。そしてギターソロのリアレンジはゆーりがさらに良くしてくれた。
心情としてもブルースでもあり、曲調としてもブルースで、そんなこともあって、曲名はピッタリだと思う。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

自分も世の中もすっきりとしない日々が続く。目の前の物事に当事者意識を保ちながら、かつ振り落とされないように資本的に過ごしていくことが難しいと感じることが最近多い。

でも、漂う明るい予感だけがあればなんとか生きていけるかと思う。この日々もいつか思い出になるし歌になる。

時たまこの歌を聴いては、自分自身が救われるのだと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?