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【PT日記】筋力低下についての一考察〜アライメント性筋機能不全〜

筋力低下という言葉は、日常でもトレーニングや運動指導、運動療法でもよく用いられる言葉です。正常の筋力よりも低下しているという概念です。

医療では各筋肉ごとに抵抗をかけて筋力の強さを測る検査法が設定されています。有名なのはMMT(徒手筋力検査法 Manual Muscle Testinig)で、国家試験でも必須の項目です。

または機器を用いて数値化したりします。どちらにせよ、筋力を抵抗値として測定します。このような筋力低下は、様々な原因で起こる神経麻痺や筋肉の崩壊などによる病態に対してはとても有用な検査法です。

この検査によって、損傷している神経の髄節レベルを推定したり、回復度合いまたは損傷度合いを測ることができるからです。身体障害者手帳の申請の時にも用いられます。

しかし、これが臨床で障害を検査する時に有用かというと話は違ってきます。

例えば膝が痛いといって来店された方がいたとします。そして膝の筋力を測定したところ正常よりも低下していたとします。つまり筋力低下の状態ですね。

では膝の痛みは筋力低下のせいなのでしょうか?それとも膝が痛いから筋力低下しているのでしょうか?

評価で大切なのは因果関係です。それによって、検査結果の解釈が変わります。この時、おそらく多くの方(特に医師)が、筋力低下が原因と捉えます。だから、弱い筋力を鍛えましょうという処方になります。膝の痛みに対して、大腿四頭筋の筋トレは必須という感じありますよね。NHKの健康番組でよく聞く内容ですね、、、。

常識的なこの解釈は実は要注意です。本当にその因果関係は正しいのでしょうか?

・筋力低下 → 膝痛
・膝痛 → 筋力低下

仮に筋力低下が膝の痛みの原因だとしたら、ではなぜ筋力低下が起こったのでしょうか?この問いに答えられなければ、因果関係を証明したことにはなりません。

・??? → 筋力低下 → 膝痛

結局、筋力低下の原因が分からないと、膝痛の原因は未定ということになってしまいます。これは医学としては残念な説明ですね。難病でない限り、勝手に筋力低下は起こりません。

筋力低下は「原因」ではなく「現象」です。

【アライメント性筋機能不全(Alignment-related muscle dysfunction)】

難病など特異的な疾患を除いて、日常的に筋力低下を起こす原因には2つあります。

1 不活動、廃用
2 機能不全

1は病気などで活動量が低下して、筋を使わない状態が続くとなります。廃用症候群として医療では重要視され、術後などの早期離床の根拠はこの廃用の予防です。

ある意味寝たきり的な状態ですから、日常的な筋力低下の原因にはなりにくいですね。ということは、残った機能不全が主な原因ということになります。

ではこの機能不全はなぜ起こるのでしょうか?

ここで、あえて新しい概念を提唱したいと思います。それはアライメント性筋機能不全です。長い名前で恐縮ですが、意味を正確に伝えようとすると長くなってしまいました。他に適切な言葉がないので、取り敢えずこう名付けました。

つまり、「アライメント(各部位の配置)の原因によって、筋出力が障害されている状態」というものです。

例えば、以下のようなものをやってみて下さい。有名なものですのでやったことあるかもしれません。

名称未設定.001

中指を折って合わせた状態で薬指を離そうとしても、離れないですね。これは、中指と薬指は反る筋肉が同じなので、一方を曲げられていると、もう一方の動きが抑制されます。構造的な特徴を踏まえた遊びのようなものです。解剖学の授業でよくやらされるものです。

さて、筋力低下という概念はここで当てはまるでしょうか?もちろんNOですね。

廃用を起こしたわけではもちろんないです。これは、筋出力不全のアライメントになっていると捉えられます。操作としては関連する指を折った状態にしたわけです。体節がある位置に固定されると、それに関連する筋力は発揮できなくなるということです。

つまり、筋肉はある条件(アライメント)で働くことができ、その条件が崩されると発揮できないという性質を持っているということになります。これが、アライメント性筋機能不全の考え方となります。

これは意外と提唱されておらず、多くの医療者含め運動指導者が気づいていない部分です。

この例は分かりやすいですが、分かりづらい筋として腸腰筋や足底の筋群、中殿筋などがあります。こちらについてはいずれ詳細を解説したいと思いますが、今回はまず、以下のことを理解してもらえれば嬉しいです。

・筋力低下という言葉をそう簡単に使わない方がいい。
・筋力低下は機能障害の原因ではなく現象である。
・アライメント性筋機能不全という概念で筋力を捉える必要性を感じて欲しい。

理学療法的なやや専門的な解説でしたが、参考になれば幸いです。

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