【芸術家と時代の変遷】
フランスの詩人アルチュール・ランボー(1854〜1891)をご存知でしょうか?
ランボーの詩人としてのピークは15歳から20歳までです。早熟な天才、神童と呼ばれ韻文詩から散文詩まで幅広く作品を残しました。既成の概念、既存の秩序を捨て去ろうとする作風で、文学の世界にダダイズム、シュルレアリスムを持ち込むことに成功しました。今では反逆、革命の詩人として評価されています。
以前は和訳のランボーの詩集はあまり手に入りませんでした。僕もフランスに行った時に買ったフランス語の原文の詩集を買って読んでいました。今では岩波文庫から販売されていて読みやすくなりました。
19世紀後半から20世紀初頭のフランスは、絵画でも、文学でも優れた芸術作品を生み出していました。フランスが芸術文化の中心としての地位を失っていったのはヨーロッパが主戦場となった2度の世界大戦を経験したからです。第一次世界大戦(1914年7月28日〜1918年11月11日)によりフランスを含むヨーロッパ諸国は疲弊しました。対称的に、戦場とならなかったアメリカには多くの芸術家が移住し新しい文化が生まれました。ラジオ、テレビなどの新しいメディアが発達して大衆芸術が普及していきました。それが今日まで続く商業的な芸術の始まりだったのかもしれません。
ヨーロッパで発展してきた古典的な絵画、文学は、経済大国アメリカの台頭により相対的に芸術としての地位を失いました。アメリカ合衆国に経済的な発展を促したのは、ヨーロッパの国々に戦争で倒壊した建築物の立て直しや食糧生産、原材料の輸出、金融支援を行なったからです。アメリカはヨーロッパに対して債権国となり、ヨーロッパはアメリカの債務国となりました。戦争は国を破壊しましたし、人も失わせました。国の立て直しには多額のお金がかかります。戦勝国が敗戦国に求めた賠償金は破格の金額で、ドイツではその負担による閉塞感がヒトラーへの支持を生み、次の戦争につながる国家体制を生み出してしまいました。
アメリカ合衆国は19世紀の中頃に南北戦争(1861〜1865)という大きな内戦を経験しています。日本の開国のきっかけはペリーの黒船来航でしたが、幕末の動乱期にはアメリカは内戦で疲弊する事態となりました。そのことにより、ヨーロッパ列強と比較してアジア諸国に進出していくことに出遅れました。けれどもそのことが2つの大戦へのアメリカの参戦を逃れさせ、20世紀に超大国となることのきっかけになりました。歴史というのは不思議なものです。
内戦の際に、国の融和のために尽力したのが有名なアメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーン(任期1861〜1865)です。彼の任期はまさに南北戦争と重なっています。リンカーンは「奴隷解放の父」とも呼ばれ、史上最高のアメリカ大統領として国民に親しまれています。リンカーンは狙撃されて1865年4月15日に亡くなりました。
アメリカの詩人ウォルト・ホイットマン(1819〜1892)の詩に、リンカーンの暗殺を嘆いた「ライラックの花」を歌った印象的な詩があります。
では、改めて日本人の歴史について振り返ってみます。日本は平安時代の400年間は貴族の時代、鎌倉時代から江戸時代が終わるまで(1192〜1867)の約700年間は武士の時代でした。大政奉還(1867)から日本の敗戦(1945)までが78年、敗戦から今日(2021)までが76年。160年くらい前には、この国の主要な街道をちょんまげして刀と脇差を提げた武士が歩いていたのです。信じられますか?人の世界の価値観は、変わる時には容赦なく180度変わってしまうものです。
仏教に「四法印」という教えがあります。
①諸行無常
・すべてのものは常ならざるものである。
②諸法無我
・すべての物事は我ならざるものである。
③一切皆苦
・この世のすべては苦しみである。
④涅槃寂静
・涅槃は安らぎの境地である。
変化の激しい時代です。時には立ち止まって移り変わるこの国の姿に想いを馳せてみることも必要ではないでしょうか?
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