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灼熱の渋谷で香りと声に触れ きっと忘れない気がする雨

渋谷・MIYASHITA PARK内のVISIONARIUM THREE SHIBUYAで開催中のインスタレーション「THREE ESSENTIAL SCENTS / MOBILE INSTALLATION
“THE ROOM OF(IN)SCENTS”」。会場には、歌人の伊藤紺さんがいらしており、伊藤さんが直近のTakram Radioのゲストだったこともあって興味を持ち、足を運んだ。

はじめは遠目で眺めようかと思っていたが、インスタレーションの体験後
に、伊藤さんのサインをいただけたり会話できたりしますがいかがですか、とスタッフの方に案内され、思いがけず「はい」と答える。

本当は、事前に作品を読んでいたり、質問を用意しておければよかったなと思うものの、次の来場者の方が来るまで気づけば10分ほども時間を割いてくださっており、けれどもその時間には、ラジオの中で伊藤さんが用いていた表現を借りると"濃厚な宇宙"があったように感じる。

※インスタレーションの詳細はこちら。

自然のエレメントをインスピレーション源に、精油のみで香りを構築したプラントベースのフレグランス「THREE エッセンシャルセンツ」。今夏6月、7月にリリースするシーズンコレクション「BEYOND THE RAIN(森羅万象、雨の余韻)」をテーマに、香りで意識を研ぎ澄まし、新たな感覚へと導く移動式のインスタレーション、THE ROOM OF(IN)SCENTS(ザ ルーム オブ イン センツ)を開催します。

https://www.threecosmetics.com/brand/news/167

※ラジオの詳細はこちら。


会話は、ラジオ収録の裏話から、雨にまつわる問いかけや、茶道への連想まで。

まずは、ラジオを聴いたことを告げる。収録は緊張したという。渡邉康太郎さんのことを「にゅるっと現れる」と表現する。リスナーへの問いで困らせてしまったのではないかと振り返る。来週の放送も楽しみにしています、と返す。

「雨は好きですか?」という伊藤さんからの質問。おそらく、他の来場者の方にも共通して投げかけていたと思うのだけど、個人的には即時に嫌いだと答えてしまった。もちろん、雨音は好きだし、印象的な雨というものがあることはわかるし、雨が好きという人に情緒があるのもわかるけれども、それでも濡れるストレスに比べると総括的には好きにはなれない。

「もし雨のない世界だとしたら――」というなにげない一言からは、SFプロトタイピング的に妄想が駆動した。たとえば何かしらの環境変化の影響で雨が降らない世界になったとき、やはり雨を恋しく思うのだろう。いまの時代の晴れ・曇り・雨の天気は、絶妙なバランス感覚の上に成り立っていると改めて感じる。

インスタレーションは、茶室に着想を得てつくられたという軽量鉄骨で囲われた空間となっている。伊藤さん自身も、過去に茶道を習っていたことがあるそう。また、合気道もやっていたと聞き、意外性を憶える。家から5日出なくても大丈夫、と放送で語っていたので、勝手ながらあまり身体的な活動のイメージを持っていなかった。

伊藤さんの雨の短歌が印字されたムエットに、雨をイメージしたTHREEのフレグランスを吹きかける。ヘッドホンを装着し、雨にまつわる詩の朗読を聴く。五感で没入する体験(と言いつつ、本音ではどうしても渋谷の喧騒をシャットアウトすることは難しいので、完全なる没入とまではいかなかったと思う。太宰府天満宮で体験すると、また異なった印象になりそう)。何よりもまず、菅原敏さんの落ち着いた声の響きに心を奪われる。朗読を聴き終えたあと、雨上がりの街のように、少しだけ自分の心も洗われた気持ちになる。

伊藤さんから、あなたの声もよいですよと言ってもらい、本当は前日に飲んだお酒のせいでいつもより少し声が深くなっていたのだけど、照れを隠しながらもあまり褒められることがないので無邪気に喜ぶ。帰宅後、まさにこの短歌のシチュエーションだな、と思い返していた。たぶんこの歌は、好意を寄せる相手からの言葉をイメージしているのだろうけど。

扇風機の前に座って今日きみにほめられたことを思い出してる

『気がする朝』p.113

この日の夕方、髪を切ったあと、帰り道でさっそく『気がする朝』を手にした。全体的に漂う、夏の空気と"不在"の影。髪の毛というモチーフからも、勝手なセレンディピティを感じる。そう、もともとは脇田あすかさんのブックデザインをきっかけにこの本を知っていたのであった。

ラジオでは、『気がする朝』を書くときに日々の感覚に敏感になった、と伊藤さんが語っていた。勝手に影響を受けて、日常の小さな気づきを忘れないように書き記しておきたいと思って、このnoteを書いている。

雷が轟くなかの雨が降り出す直前、ホームに滑り込んできた山手線の窓はすでに雫で濡れていて、一度逃れた雨雲にふたたび飲み込まれる運命に向かっていく勇ましさのようなものを勝手に感じたこと。

美容院の予約時間のために、雨宿りしていた駅から歩き出さなくてはならず、仕方なくビニール傘を購入したものの5分後くらいに雨があがってしまったこと。

髪を切り終えた夕方の帰り道、今年はじめて遠くで蝉が鳴いていることに気がついたこと。紫色に輝く空を写真におさめる人がいることに対して、なぜか自分が嬉しくなったこと。

五目そばに入っていた伊達巻の甘さが、行き場を失っていたこと。そもそもお正月以外ではじめて伊達巻にお目にかかった気がした夜。


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