TAKRAM RADIO|Vol.193 要約で広がる本の世界〜タイパに抗うためのタイパ
Introduction
J-WAVEのTAKRAM RADIO。株式会社フライヤーから代表取締役CEOの大賀康史さんと執行役員の久保彩さんを迎えた、第1週目のPodcastのメモ。
AIによる音声の自動文字起こしや要約が進化を遂げる中で、人間がPodcastのメモをとる行為の意味に思いを巡らせる。
たとえば、印象に残った箇所を太字で記載することで、鑑賞後の映画のように他者との着眼点の違いを面白がれること? または、自身の脳内で台詞を反芻して言葉を整理・選択することで、既存の知との結びつきから記憶を呼び覚ましやすくするために未来へ種を蒔くこと?
メモ
読書コミュニティ『flier book labo』
渡邉:心境は?
久保:想像以上にカジュアル。だんだんと落ち着いてきた。
渡邉:ディレクターの髪の毛がピンク色。
渡邉:book laboのパーソナリティとして、8冊くらいを語ることがきっかけ。音声収録に慣れていると思っていたが、聞き返して自分の声の暗さに気づく。2-3回録りなおした。
久保:コメント返しでだんだん時間が伸びていく。
渡邉:そもそもbook laboとは?
久保:新たな本や著者や関心に会いたい人が集う場所。著者の生身の人柄まで触れられる場所。
大賀:本は、人と人をつなぐものとして威力がある。本や知をもとに語り合うオンラインの場所。
本の要約サービス『flier』
渡邉:本の要約サービスという紹介。フライヤーはどんな会社か?
大賀:本は、年間7万タイトル出版されている。フライヤーは、1冊を10分にまとめる。会員数は累計106万人、800法人。
渡邉:Takramでも古くから使う。
渡邉:要約を読むことは、一見ずるい、亜流っぽいという指摘をする人もいる。個人的には、結局、本質を掴むために本を読んで買ってしまう現象がある。非難や、ファスト消費っぽい、という指摘にはどう応えるか?
大賀:当初から、結局読む量が増える確信があった。接触点が多いほうが、本を魅力的に感じられると考えた。効率的な立ち読みをネット上で実現するイメージとして、サービスを提供している。願いとしては、本を読んだ方がためになる、というのではなく、裾野が広がる効果を追求している。
渡邉:トロイの木馬っぽい。中に入ると、スローな世界が待っている。
大賀:タイパのような効率化がある一方で、本を読む豊かな時間も必要である。両者の橋渡しをするイメージ。
渡邉:自動洗濯機が出てきたときに、実は家事の総量の時間は減っていない。空いた時間で別の家事をしてしまう。他者とのまじわりが鍵になりそう。
「ひらめきあふれる社会を作る」
渡邉:フライヤー入社のきっかけは?
久保:MBA時代の恩師の声掛け。「ヒラメキ溢れる世界をつくる」というビジョン・ミッションの表現に惹かれる。新卒入社の会社とつながり、世の中の知を掘り起こす方向性には終わりはなく一生追求する意味があると思った。
社会に必要な「学び」の文化
渡邉:「ヒラメキ溢れる世界をつくる」には、要約サービス以外に何があるか?
大賀:新規事業もいずれも「ヒラメキ溢れる世界をつくる」に沿う。知へのリスペクトを表現する。会社の未来の発展のためには、新しいものを学ぶ文化の浸透が大事だと考える。適切に計測したり広めたりするサポートのサービス。創造的・主体的な思考につながり、事業の成功をもたらすのでは。
渡邉:Takramも学ぶ組織。本を購入するための物理的なサポートがある。互いに教え合う時間もある。リクエストもできる。
大賀:新しい刺激に溢れる会社が広まることは素晴らしい。
受講者自身が支える学びの場
渡邉:フライヤーでも、チューターがいる。
久保:参加者に依頼して、橋渡しを実施してもらっている。貢献する・感謝する喜びには、演出がある程度必要。学びの偶発的な創発性の仕掛けは用意している。
渡邉:全員の了解があると動きやすい。yumaさんがきっかけとなり、Takram本社での開催となった。移動がないのでギリギリまでスライドを作れる。
繰り返しの中で起こる変化と学び
久保:康太郎さんのキャンプで起きたこと。作品をつくる探索のプロセスを楽しんだ。行為の難易度が下げられていると、自分の好きに向き合う。なぞる対象が人によりそれぞれ異なる。技巧を横に置き、自分の勘性に対する対話・言語化が進む。対話が探索の手伝いになる。
渡邉:一人一人が表現者として振る舞っている場のほうが楽しい思いがある。敷居を作ってしまう人が多い中で、単純な行為の中で見つけてよいと思っている。
渡邉:学びを深堀する中で、知らずに脱線していることがある。旅行中のシェフとの会話で、料理人としての学びのプロセスが大事だという話をした。食材が変わるので、場所を変えることは想像できる。
渡邉:ただし、お店ではシーズン中は同じ品物を作り続けることに対して、どういうことか答えがなかった。実は食材の旬は10日間しかない、と言われる中で、日々その違いに敏感になることが大事であり、行為が変わるという。素材と自分との会話の中で、同じものを作るからこそ変化に気づき、工夫を入れられる。その境地に気づく。
大賀:同じメニューを作るが、同じようには作っていない。プロの生き様を感じる。
久保:情報に気をとられると、繰り返しの中で小さな違いを見極めることなく過ごしてしまう。
渡邉:同じ行為の中に没入することは、各人でありそう。走ること、仕事のウォーミングアップ、読書、ヨガ、お香、など。そこから深堀できる行為がありそう。
AIのディープラーニング
渡邉:学びのサービスを提供する一方、自身の学びは?
大賀:徐々にテーマを変えて学ぶことが大事。今はAI。自分で作れるようにプログラミングする。AIに向かうと、人や思考や学習に向き合わざるをえない。AIの学習が美しくもあり、恐ろしくもある。画像判別の目的に向けて、ランダムな初期値から、正解データを与えることで係数を変えていく。子供の学ぶ過程と重なることがあり、足していく作業ではなく、係数を組み替えるプロセスとなる。アンラーニングでもあり、人の学びの感覚ともつながる。
渡邉:NHK「人間ってなんだ」。人工知能に肉薄する中で、人間を考える。人間の学習を模したはず。ボールを投げてみて、的の中心に寄せるような、フィードバックのプロセスか?
大賀:そうである。誤差逆伝播という。
渡邉:調整の過程は、単語や表現や擬音語・擬態語の習得と似ている。
久保:5歳の娘に、「奪う」とは何かと問われた。もののけ姫の台詞に出てくる。台詞は言えるが、分からない単語がある。意味を理解したいという思いが芽生え、今度は日常で使ってみようとするのでは。
人間が生まれ持つ「学び」の才能
大賀:東京大学の松尾教授。AIでは、万の単位で学習データを与える一方、人間は3回程度で判別できる。現象の理由は、まだわかっていない。画像だけでなく、角度も変えて、大きさや臭いも含めて”犬”を体験しているのでは。
渡邉:マルチモーダル。フラット化した写真以外からも吸収する。AIは積み重ねてらしさのパラメーターを積み重ねる一方、人間は一旦「これはワンワンとします」と決定するアブダクションがある。ヴィクター・ウッテンというベーシストを連想する。音楽は正しさを学ぶのではなくて、言葉のように間違えながら学ぶのがよいという。下手でいいから大人と喋ることで子供は言葉を学ぶので、音楽もそのような学びでいいのでは。レベルの違う人どうしの対話に向き合ったほうが、面白い発見があるのでは。
大賀:別の角度のフィードバックからの学びがある。
渡邉:レベルの高低は一軸ではない。哲学に対しても、他領域の知をぶつけることができる。そこに開かれていたい思いがある。
領域を超えて生まれる学び
久保:自分の経験と結びついたときに、学びが一番加速する。言葉は領域を隔てないため、自分の中の区切りを意識的に取っ払うことだけでも変わるのでは。
渡邉:Takramでも「越境」というとき、まじりあわない二つの専門性の頭を切り替えるという。融合させなくてよい。膨大な資料を圧縮するような仕事があったとき、コピーライターの専門分野と思われがちだが、ソフトウェアエンジニア的には構造化のアプローチが異なる。ライターの真似をするのではなく、あえて違う思考様式を持ち込むことで、刺激ある結果が生まれ得る。自分のまま、違うことをすることなのでは。