映画『100日間生きたワニ』レビュー

はじめに

先日、きくちゆうき原作の『100日後に死ぬワニ』の映画化作品、『100日間生きたワニ』の鑑賞会をしてきました。

とは言っても、この作品は映画館での上映は既に終了しています。
私が見ることになったきっかけは、この作品がAmazonプライムで上映されていることを知ったからです。

当時は何かと話題になったこちらの作品ですが、見たこともないのに批評するのはどうかと思い配信ページを開いたところ
開始10秒で「これは想像以上にすごい・・!」と感じたため、友人を誘いレンタルスペースにて上映会を開きました。

結論から先に言いますと、映画自体の質は低いものの酷評されるほどのものではないと思います。
しかし、興行作品としては失格レベルの判定を下されて当然と言わざるを得ない出来栄えでした。

今回は、まだこの作品を見たことがない方のためにもあらすじや内容に触れつつ、レビューをしていきたいと思います。

記事の性質上、作品そのもののネタバレを多く含みます。未視聴の方はあらかじめご了承ください。


作品について

映画について語る前に、原作未視聴の方やあまり作品について覚えていない方はこちらの公式サイトを見ていただけたら幸いです。

今作は、上映時間63分という昨今の作品では異例の短い作品となっています。

こちらの記事によると、2022年のアカデミー賞ノミネート作品の平均時間は2時間22分だったそうです。
アニメーション映画と実写映画の違いがあるとはいえ、63分という短さは異例だと思います。

作品のあらすじですが、最初はワニの最期の日である100日目からスタートします。
ワニ以外の友人たちが花見会場に集まる中、なかなか来ないワニを心配して迎えに行ったネズミ。一方ワニは会場に向かっている最中に、車に轢かれそうになったヒヨコを助けようとして交通事故に合ってしまいます。
事故が起きてから場面が100日前に切り替わり、そこから原作で描かれていた1日目~99日目の日常シーンが続いていきます。
そして100日目で再びワニの死までのシーンが描写される…ここまでの30分ほどが前半部分です。

後半部分はワニの死後について原作にはないオリジナル展開が繰り広げられます。
しばらく経過してからもワニの死は友人たちに暗い影を落としています。そこに最近この街に引っ越してきたというカエルが登場し、作中のキャラと交流を始めます。
どこかズレたノリで接してくるカエルたちに対して心を開けないネズミたち。
しかし、実はカエルにも誰かと繋がりたいという秘めた思いがあり(詳細は後ほど)、それを知ったネズミは彼を受け入れることを決意。
ワニの死でバラバラになってしまった友人グループに、カエルを入れて笑顔を取り戻した…というとことで映画は幕を閉じます。

では、ここからは評価点、問題点について語っていきます。
今回はレビュー記事という性質上、私の主観で語られていますのでご了承ください。

評価点について

1.声優陣の演技力の高さ

神木隆之介、中村倫也、山田裕貴をはじめとする豪華俳優陣を迎えたこの作品ですが、実績のある彼らを迎えただけあって魂が込められていました。
しかし、だからこそ後述する問題点が余計に悪目立ちした節があります。


2.バッドエンドをハッピーエンドにした

原作ではワニが死亡したところで終了しており、遺された友人たちがどうなったかは明言されないバッドエンドとなっています。
しかし、この映画ではカエルの存在で友人たちがまた一つになり、ワニの死を乗り越えて進んでいく…というハッピーエンドで締めています。

原作は死生観を伝えることを主眼としているように思えましたが、映画版は死を乗り越えて前向きに進んでいくことの大切さを伝えようとしたのではないでしょうか。
人によって好みはあるかと思いますが、私は映画版のメッセージの方が胸に残りました。


3.音楽の良さ

エンドロールで流れたいきものがかりの主題歌『TSUZUKU』はとても素晴らしかったです。
前に進み始めたネズミたちを後押しするような、温かくて柔らかい歌声には少し感動するものがありました。
また、亀田誠治を迎えた作中音楽もとても良かったと思います。


問題点について

では、ここからは今作の問題点について触れていきます。

1.低品質なアニメーション

きくちゆうき先生の絵柄に合わせたアニメーションを作成したからか、映画の肝であるはずのアニメーションが非常に低品質でした。

こちらの1分程度の予告動画を見ていただけただけでも品質の低さが目に付くかと思われます。

まず開幕から桜の花びらが舞い散るエフェクトレイヤーが挿入されているのですが、アニメーションと全く合っておらず、映像素人が作成した結婚式用のムービーに入っているエフェクトのような違和感を感じました。
(冒頭で書いた『開始10秒で想像以上に凄いと思ったシーン』とはこのことです。)

最大の問題点は、開幕の花見のシーンだけ見ていてもすぐ実感できるほど、アニメーションそのものの動きが少ないことです。
今の作品はCGを駆使したアニメーションが主流な中で、一枚絵をスライドさせたり同じ動きを繰り返して動ているように見せかける手法が多用されており、悪い意味で20世紀のアニメを見させられているかのようなノスタルジックな気持ちが味わえます。
一番動いていたと感じるのはスタッフロールの文字が下から上に流れてくるシーンだと言っても過言ではないくらい、とにかくアニメーションの質が低いです。

またそれに追い打ちをかけるように、不自然な『間』が多数のシーンで挿入されます。
キャラ同士の会話のシーンでは、会話が終わった後にゲームのローディングが挟まったかのように1,2秒ほどの間。場面が移り変わる前にも1,2秒ほどの間…。
会話というものは一方的に喋るのではなく、キャッチボールをするかのようにうまく間を挟んでいった方がいいとは言いますが、
電波の悪い場所でソシャゲのノベルパートを見ているかのような不自然な間が挟まるのは映画としていかがなものでしょうか。
せっかくの声優陣の演技力の高さを完全に殺してしまっているように感じます。

先ほど述べたように、この映画は上映時間63分という異例の短さではありますが、この『間』が挟まったうえでの63分です。
平均的な映画よりもかなり短い作品にも関わらず間を多用しているのは、昭和の怪作『チャージマン研!』のように尺を稼いでいるようにしか感じられませんでした。

なお、スタッフロールまで鑑賞しているとアニメーションのリストに中国人のような名前が大量に流れてきます。
このことから、公式では『日本のレジェンドアニメーター・湖川友謙がペンを持ち』と書いてありますが、実際のところ海外の外注に丸投げしたのではないかと推測できます。
外注に投げること自体は問題はないのですが、結果的にこの低品質さの原因になっているのではないかと考えられます。


2.前半部分の退屈さ

前半部分はワニが死ぬまでの日常生活を描いていますが、
作品の性質上、そもそもワニが死ぬまでの日常描写に多くを割く必要がありません。

ワニが死ぬまでの日常が大いに注目されていたのは、Twitterでリアルタイムでワニの死までの日数がカウントダウンされていくことが大きな要因でした。
しかし結果的にはワニの死因は交通事故による突然死であり、ワニの心優しさの伏線は貼られていましかだ、その大半はただの日常描写でした。

つまり、観客はワニの死因が交通事故である、と結果が分かっている以上
そこに至るまでの途中経過はすべて無意味なものとなります。
また原作未読で前情報なしで見た方がいたとしても、映画の開幕でワニが交通事故に合う運命にあることは描写されるので、見ているうちに「あれ、これワニの死とは何も関係ないよね…?」となるはずです。

ここで一つの例を挙げます。
先日、野球のWBCで日本代表がアメリカ代表を下して世界一になった試合がありました。

あの試合をリアルタイムで見ていた方はとても楽しかったと思いますが、ではあの試合をもう一度入場料1800円の映画館で3時間半ほど最初から最後まで見てみたいという方はどれくらいいるでしょうか。

私は一野球ファンとして最初から最後までまた見たいとは思いますが、
多くの方は日本が優勝したという結果が分かっている以上、得点が入ったシーンと9回に大谷翔平がM・トラウトを三振に打ち取ったシーンと優勝後の歓喜に沸くシーンをYoutubeかテレビで見れれば十分…となるかと思います。

同じことをこの作品に当てはめてみるとどうでしょうか。
言いたかったことがもうお分かりいただけたかと思いますが、ワニが死ぬという結果が分かっている以上、途中のシーンは完全に無意味な退屈なものであるということになります。
それに加えて先述した通り不要な間が多くテンポが悪いため、多少目を離していても何も話が進展していないという事態が起きます。
とにかく見ていても何も面白くないので、ふと再生時間を見た際にまだ半分以上残っていて愕然としました。

映画作品として退屈で不要なシーンが半分以上を占めているというのは致命的です。世間でこの作品が圧倒的な低評価を下されているのも、多くがこの要因が占めていると思います。


3.後半部分の展開の強引さ

では、ワニの死後である後半部分はどうでしょうか。
オリジナルキャラのカエルが登場し、ワニが死んだ後の仲間と繋がろうとしていますが、このカエルというキャラはとにかく空気が読めていない不愉快な言動が際立っています。

カエルも実は友人を失った過去を持ち、それを忘れるためにも新しい街で友人を作ろうとして躍起になって空回りしているという事情があります。
しかし、ワニを失って抜け殻のような喪失感に襲われているネズミたちにダル絡みをしている姿は見ていて痛々しいものでしかなく、ただただ見ていて不愉快な感情に襲われます。
実際に同席していた友人は、「カエルを見ていると共感性羞恥が煽られてキツい」とこぼして耳を塞ごうとしていました。

作品において一般的に見て不愉快な態度を取るキャラクターを登場させるときは、そのキャラクターの背景や過去を主要人物が受け入れることで、視聴者はカタルシスを得るという手法が取られることが多いです。
この作品ではどうかというと…カエルの事情を聞いたネズミが、かつてワニと一緒にしたことと同じようにバイクで朝日を見に行く。
その朝日の美しさを見てワニの死を乗り越えると共にネズミを受け入れて和解し、かつての友人を再び誘ってまた前に進み始めます。

文字に起こしても本当にこれだけです。5分もかからずにスピード解決してしまいます。
私自身も「済んだことはいつまでも引きずっても仕方ない、噛み砕いて前に進んでいくことが大事だ」という考え方を持っていますが、
その私ですら「え、これで終わり!?切り替え早すぎない!?」となってしまうようなあっさり展開でした。

一応、起承転結は成り立っているため映像作品として最低限の体裁は整っていますが、本当に最低限整っているだけです。
不要な前半部分に時間を割くくらいでしたら、もう少しワニが死んでからの心理描写に時間を割いた方がよかったのではないでしょうか。


総評

作品としては何とか体裁を保っていて、豪華製作陣を起用しただけのことはあり小さく光るものは随所に感じることができました。

しかし、そもそも映画化するにしても作品のテーマ自体に無理があったと思います。結末が見えているものをなんとか引き延ばして映画にしたのがこの63分です。
一流の料理人が、賞味期限切れかけの食パンとおつとめ品のスーパーのお惣菜を使ってサンドイッチを仕上げたようなもので、それはまかないとして食べることはできてもお客さんにレストランで食べてもらうものではありません。
Youtubeの無料配信ならともかく、映画館でお客さんにお金を払って見に来てもらうものではないのです。

私はAmazonプライムを使って無料で、かつ友人とワイワイ突っ込みを入れながら見ていたのでなんとか完走することができましたが、
公開当時にこれを正規料金で見に行った方にはかける言葉が見当たらないです。
コロナ禍が重なったことや、作品外のことで色々と悪評が重なった(私は作品自体には関係ないことだと思っているためここに詳細は書きません)という不運があったにしても、果たしてこれを映画という形で世に送り出す必要はあったのでしょうか。

もしこの作品が、ワニが死ぬ100日目と後半部分だけの30分程度の映像作品にして、
さらに配信サイトやテレビの特別枠での放送だったらここまで低評価ではなかったと思います。
しかし、2000円近い料金を払ってお客さんに見せる映画としては失格レベルです。
当時は大々的に宣伝を銘打ってたにもかかわらず、公開2週目には上映館数が大幅に減らされ、最終的には1ヶ月も上映期間がなかったという話が残っていますが当然であると思います。


余談

この作品を一緒に見た友人たちの感想としては

「映像を見ているのに内容が間延びしているから内容が何も頭に入ってこない」
「ひたすらにつまらない、スマホ見て目を逸らしてても展開が何も変わってないことに驚き」
「結局何が伝えたかったのか分からない、見る苦痛」
「この映画は生涯見なくても問題ない、時間の無駄」

と言った辛辣なものでした。
比較的つまらないものに対して耐性がある自分ですらこの低評価でしたので、一般的な感性を持つ友人たちがこう言った酷評になるのも当然だと思います。

この記事を総評まで書き上げてから各サイトのレビューを色々と見せていただきましたが、私と同じように最低評価とまではいかないって方が多かったです。
ちなみに高評価の方は「神木くんの声がよかった!」「中村倫也最高!」みたいな意見が多く見受けられましたが、それも個人の感想だと思います。

ところで、よく映画界の最低傑作として名前が挙げられる『実写版デビルマン』は実はまだ見たことがありません。
レビューサイトの中にも「それでもデビルマンよりりはマシ」という声が多かったため、非常に興味が出てきました。

また、この『100日間生きたワニ』はAmazonプライムの評価では2.4とかなり低い評価なのですが、
同じ2022年に公開された『大怪獣のあとしまつ』という動画はなんと2.1というワニ以下の判定を喰らっています。

このような映画失格レベルの作品を更に下回るものがまだまだこの世には溢れているようです。
俄然興味が湧いてきたので、まずは上記2作品について近いうちに鑑賞してみたいと思います。
面白いか面白くないかの問題ではなく、見ることにきっと意義があるはずなので…。


最後になりますが、このレビューでは『100日間生きたワニ』を見ていない方にも伝わりやすいようにレビューいたしました。
書いた以上の内容はないと言い切ってもいいので、この記事を読んだ方は見る必要はないと思います。

それでもどうしても見たいという方は、ぜひ友人やご家族を誘って上映会を開いてみるのが良いかと思われます。
もっとも、よっぽど仲がいい方か私のような変わり者を解説に添えるかしないとひたすら苦痛だとは思いますが…。

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