見出し画像

また自分から仕事を降りてしまった。

顧客には利益を残す。手前どもには信用を残す。

独立したとき、仕事で悩むたびに、考えて出した結論を紙に書いて貼っておいた。これはそのうちのひとつだ。同じことで悩まないように、という軽い気持ちだった。

この考え方のおかげで私のフリーランス生活はちょっと険しいものになる。当時はそんなことまで深く考えもしなかった。

顧客のためにならなければ自腹を切る

顧客には利益を残す。手前どもには信用を残す。

このポリシーに準拠して最初に案件を降りたのは2年前。独立したてで一番お金のない時期だ。どんな仕事でもやる覚悟で、引き合いがあれば片っ端から仕事を請けていた。

多くはうまくいったが、そのなかのひとつ、外注パートナーと一緒にやっているコンサル案件の進捗が芳しくなかった。

私の仕事は、顧客の業務フローを整理し、よりよい結果を出すための新たなプロセスを提示し、現場担当者と一緒に実現のため伴走することだった。

業務分析と新プロセスの提示・承認まではうまくいったが、当時急成長中だったクライアントの現場担当者が忙しすぎて、プロセスの実行フェーズでは進捗がぱったりと止まった。

自分たちの売上は顧客のコスト

顧客側のリソースが足りないのはコンサル側ではどうしようもなく、進捗がゆっくりでも待つしかないが、その間も自分たちへの業務委託費は発生し続ける。実行メンバーはプロパーであることが必要で、業務委託人材を追加でアサインしても、効果が薄い案件だった。

「実行するリソースがない中、どんなにきれいな戦略を描いてもROI達成は見込めません。成果が出ないのにお金をいただくわけにもいかないので、余裕ができたらまた発注してください。プロジェクトの進捗もないのでこちらも今月の費用はいただきません。」

何度も提案してやっと受注した案件を失うのは悲しかったが、顧客に伝えて抜けさせてもらった。

もちろん、フィーをもらわなくても外注費はかかるのでそれらは全額自己負担した。独立したばかりでかつかつな時期だったのに、その月はいきなり赤字になってしまった。

意地やきれいごとなのかもしれない

そんなプロジェクトは、年に1回くらいある。

受託案件のフロントだけをやっていた案件があったのだが、付加価値がない中で仕事をするのが申し訳なく、自分から降りて直接契約してもらった。

会社員時代だったら、こんなことはしなかっただろう。営業コストは回収できたのか、顧客満足度はどの程度か、LTVを最大化するにはどうしたらいいか。全て数字で考えていたはずだ。

独立して、自分の中の何かが変わったのか?

結局、今も会社員時代と変わらず経済合理性で判断していることは変わらないと思う。

ただ、今は顧客との関係性をクォーターや年度ではなくて、もっと長いスパンで考えているのだろう。

フリーランスはビジネスと人生の距離がとても近いので、信用を損ねてまでお金をいただいても5年10年といったスパンで考えるとマイナスが大きい。個人にひもづく信用は、簡単にはリセットできない。

自分の値段を自分でも決める

そういうわけで、どんなに苦労していただいた仕事でも、顧客に利がない場合は切られる前に降りることにしている。もちろん、別に付加価値をだせる提案があればそうするけど、自分はなかなかフィーが高いので、なんでもやらせていただくというわけにもいかず悩ましい。

仕事を降りることで売上は減るが、その分「どうやったら価値が出せるのか」を考える機会を得られる。

フリーランスは、自分という商品の値段を自分で決める。高く売れるのはうれしいが、その価値に見合う仕事ができるかを、常に自問自答しなければ市場からそっぽを向かれてしまう。

また、悩ましいことに失敗や意識のバイアスもある。最初の例で挙げた「自腹」はただの意地や自己満足だったな、と今では思う。

悩みながら、反省しながら成長していく。自分で決めた生き方であり、ルールなのだから仕方ない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?