【連載小説】 真実なお隣さん③-疑問-
そういえば、ここ1週間ほど、お隣さんの姿を見ていない。
単に、史江がご近所付き合いに無頓着なこともあり、その姿が見えていないだけなのだけだろうか。
いや、そんなはずはない。
アイマスクでもしてない限り、玄関を開ければイヤでも目に入り、明りが灯ればきっと気づくはずだ。
それに、昨年の夏の台風の時は、あの家が飛ばされないか、ひやひやしながら一晩中覗いていたではないか。
けっきょく、台風自体が大きく逸れたため、瓦一枚飛んでくることはなかったが、寝不足のせいで翌朝の会議に遅刻した。
どうでもよさそうな記憶だけれど、意外に覚えているものだ。
もうすぐ定年とはいえ、ボケるにはまだ早い。
そんなことを考えながら、史江は再び隣家に目をやる。
家庭菜園でもしていたのだろうか。
草が伸び放題の庭には、変色した支柱が残されている。
よく見ると、玄関周りには、ポストに入りきれなくなった郵便物や新聞が散乱しているようにも見える。
どうやらお隣さんは、しばらくの間帰宅していないようだ。
もっと早く、お隣さんが居ないことに気が付くべきだった。
史江は、レースのカーテンを閉めながらため息をついた。
行方がわからないお隣さん。
このお隣さんこそ、史江が役員を引き継がなければならない相手だった。
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