【連載小説】 真実なお隣さん⑤-訪問-
4月とはいえ、まだ朝の空気は冷たい。
天気予報では、日中の気温は25℃近くまで上がると言っていたが、それでも朝の空気は、身震いするような冷たさを含んでいる。
だから、衣替えには少し早いこの時期は、着ていく服を選ぶのが本当に難しい。
クローゼットの前でさんざん悩んだ挙句、史江は昨日と同じ薄手のシャツを選んだ。
ざっざっとサンダルで草をかき分けながら、玄関を目指す。
史江の前進を妨げるかのように、芽吹いたばかりで勢いのある草たちは、むき出しの足をチクチクと突き刺してくる。
すぐに出社できるようにシャツは着てきたが、どうせご近所だからと、特に何も考えず、足元はサンダルで出てきた。
こんなことならスニーカーでくればよかったと、己の落ち着きのなさを後悔しながら、史江はようやく玄関の前にたどりついた。
目的の家は想像していたよりもずっと ”普通の家” だった。
それでも、いろいろと想像してきた史江にとっては、それはさながら恐怖の館のようだった。
大好きなB級のホラー映画だったら、この状況では主人公は間違いなく何者かに襲われて、あっけなくやられてしまうのだろう。
いわゆる、 ”死亡フラグ” というやつだ。
しかしこの家は、外観は恐怖の館と同じような雰囲気を漂わせてはいるものの、ただの一軒家だ。
額に垂れる汗を拭いながら、腕時計を見る。
まだ十分に時間はある。
残り時間を計算しながら、史江は意を決して、インターホンを押した。
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