【2017松本山雅】「ソリボールという幻想」を見せて、「トランジション」でぶっ叩く。山雅は何故蘇ったのか。
ということで、こちらではお久しぶりのnaosです。最近のフェイバリットは秋田豊語録のこれです。
・何を怖がっているんだ!
・プロとしてしっかり闘え!
・全員でいくぞ!
京都監督時代のハーフタイムコメントが元ネタなんですが、いやもう、なんかテンプレとして優秀過ぎる…笑
(こんな会社の上司とかいたら、ブラックすぎて嫌ですけど笑)
さて。忙しくて山雅の今期予算とか、試合のレビューとかろくにできません。挙句の果てにラジオ「フットボールchacha!」も数ヶ月飛びました。申し訳ありません。
ちなみに最近配信した最新回はこちら。山雅の話は8月まで。
「フットボールchacha!」#56 半年ぶりですいません(汗)フリートークは21分過ぎから代表とか8月までの山雅とか
http://tga.jpn.org/2017/09/10/cha_56/
ってことで、「最近山雅強いですねウフフフフ♪(ガンズくん風)」の背景を、主に攻撃面から見てみます。
今回も長いです。とても。読むのすげえ長いよ!強い気持ちで!!
・何を(読むのを)怖がっているんだ!
・(サッカー好きの)プロとしてしっかり闘え(読んでください)!
・全員でいくぞ!(One Sou1!)
◎イントロダクション1 今季山雅を苦しめたハイプレス
今季、山雅対策としてずっと有効だったのは、「プレスを掛けて2ボランチ(DMF)に高いプレッシャーを掛ける」こと。
これをやられると、パウリーニョにしても岩間雄大にしても宮阪政樹にしても、イージーなミスを犯し決定機を作られた。
更に言えば、両ワイド(7月末時点で田中隼磨と安川有)にもSBなりワイドなりがプレッシャーを掛ければ一層効果的で、孤立するボールホルダーをサポートする動きはあまりにも乏しかった。
運動量は下がり、あちこちで「山雅らしくない」という酷評が広がっていた。
その山雅が最近絶好調である。
ガンズくんじゃなくてもウフフフフ♪である。
変わったのは8月の「豊スタ大敗」の直後のホーム山形戦。
但し、変わる胎動は実は7月に見えていた。
7月の天皇杯3回戦鳥栖戦。
天皇杯2回戦3回戦と、山雅は先発が全員控えメンバーであったが、ここでDMFで起用された武井択也の攻守の貢献は、8月以降の躍進への大きな示唆となっていた。
◎イントロダクション2 噴き出す武井択也待望論
天皇杯の2試合はまさに「ボールあるところに武井あり」。
武井は豊富な運動量でボールホルダーを後方や横でサポートし、横にも前にも後ろにもパスコースを作り続けた。
武井本人曰く「足らないところをベンチで見てて考えた」と。
ときにはボールホルダーを追い越す「無駄走り」でデコイ(囮)となってアタッカーにスペースを与える。
守備では読み主体ながらも、的確な位置取りで相手のビルドアップを遮断し、抜かれても食い付く闘志を見せた。
そして大きな声や手振りのコーチングで、若手主体の天皇杯チームを実際に動かしてみせた。
天皇杯を見た人から漏れる声。
「武井がもっと見たい」
「リーグ戦で武井が見たい」
この貢献度の高さを、いつになったら監督コーチは評価するのか…。
7月そして8月前半。うまくいかない試合が多い中で、正直やきもきしていた。
「豊スタ大敗」直後からは我慢の限界を超え、Twitter等々で「武井択也待望論」の語気を強めた。
正直なところ、山雅を見続けて5年で初めてソリさん(反町康治監督)に明らかな不信感を持った。
勿論、選手の動静やコンディションをいちばん熟知しているのは監督コーチだ。
しかし。だがしかし。
◎イントロダクション3 山形戦で武井択也が変えたもの
8月唯一のホームゲームはミッドウィークの山形戦。
表向きは「岩間を休ませる(会見趣旨)」という理由で武井は使われた。
するとどうだろう。
山形戦の試合冒頭から明らかに違った。
天皇杯同様ボールホルダーをサポートし、フリーランで上がる武井択也。
高崎寛之へのロングフィードやサイドアタックのセカンドボールを拾い続ける武井択也。
PA(ペナルティエリア)脇に飛び出してクロスを上げる武井択也。
(以下、画像は試合配信画像のスクリーンショットです。引用の範囲内で使用します。)
そしてその武井の縦の速さに呼応する山雅の選手たち。
特に冒頭5分で裏抜けから決定機をつくった山本大貴。
先発2試合目ながら、徐々に思い切りの良さが出始めた下川陽太(特別指定選手で来季加入内定済み)。
「これだよ。これなんだよ…。」
アルウィンの反応が明らかに違う。
それでも山形戦は、選手の運動量や判断に濃淡があり、山形にファーストチャンスを決められる。
守備のミスや思い切りの悪さはまだあった。
しかし、木山監督のよくデザインされた「クロスをファーで仕留める」攻撃で2失点食らいながらも、堅い山形541守備を、山雅は崩して勝ったのだ。
「サイドアタックとインテンシティの強さを使った、『トランジションの速いサッカー』」で。
ということで、今回のキーワードはズバリ。
「山雅流トランジションサッカー」。
●やってもやっても安定しないトランジション
以前から、山雅はサイドアタックはやっていた。
昨季から、正確には2015年秋の天皇杯から山雅はサイドアタックをやってはいた。勿論今季も。
「ある程度ボールを握らないとJ1では厳しい」というのがソリさんの見立て。
「縦ポン」…CFにひたすらロングパスを放り込み愚直にゴールを目指すサッカー、所謂他サポが冷やかし気味に言う「ソリボール」だけでは厳しいと。
クロップのドルトムント以降、「インテンシティ」…すなわち中盤を中心にした攻守の攻防で、「強く」「速く」「鋭く」プレーしてボールを奪い、「トランジション(攻守の切り替え)」を相手より速くして試合を支配する傾向が、最初はヨーロッパで、最近はJリーグでも強くなった。
「トランジションサッカー」は一種のトレンドといってもいい。速くて正確なトランジションがあれば、試合はかなりの確率で支配できる。
当然、そのトレンドは「海外サッカー漬け監督」として知られる反町康治も取り入れることとなり、2015年夏移籍で獲得した、ボールの扱いに優れた安藤淳と工藤浩平を使って、更にはキム・ボギョン(現柏)などを擁して、まずは天皇杯から、そしてリーグ戦へと試された。
勿論当初は付け焼刃同然。
安藤を左ワイドに起用したり工夫したが(京都時代に所謂「大木サッカー」で右SBをやった時に似た意図だろうか)、トランジションも目立って速くならず、J2降格を止める有効的な手段にはならなかった。
だが、その流れで、昨季も今季も清水J-STEPキャンプではサイドアタックの意識付け、トランジションのスピードアップは試されていた。
山本大貴、ウィリアンス(ブラジルに帰国)などがサイドを爆走する姿を何度も目撃した。
但し、昨季も、今季も、武器として使えた試合と、使えなかった試合があった。
使えなかった典型例は、あの昨季「昇格を逃す原因となった」アウェイ町田戦の敗戦。
相馬ゼルビアのトランジションに負け、特に守備ラインがズルズル下がり、攻守ともに後手を踏み2失点した。
そして、今季。
3月のアルウィン開幕ジェフ戦は、たまたま相手の守備の隙を突けて勝ったが、2DMFや隼磨の不調、左ワイドのケガによる人材難で、いつの間にかサイドアタックを「使う勇気」さえ乏しくなった。
特に昨季後半からの「左ワイド不在」の影響は大きく、今季の開幕前の補強にも失敗。
結果、前述の下川陽太(強化指定の大学生)が台頭するまで、サイドアタックは鳴りを潜め、インテンシティは上がらない。当然トランジションなんか全く速くもない。
例年アルウィンでは冴えない水戸に初勝利を献上するなど、次第に山雅はチーム全体としての精彩を欠く。
●主役はソリボールからサイドアタックへ…山雅流トランジションサッカーの確立
話を山形戦に戻そう。
この試合から、正確には6月末の天皇杯の辺りから、改めて山雅は意識的にサイドアタックを多く用いてくる。
そして天皇杯2試合を経て、この山形戦でより明確になる。
まず大きな変化はビルドアップ。
以前はDMFのひとりが最終ラインに落ちる「ミシャ式(サンフレを長年見てきた目で言わせて頂くなら、あれは正確には「システム森崎和幸」だ)」など、ビルドアップに問題がある飯田真輝を回避する手段を模索していたが、ここにきて、CBの當間と橋内が勇気を持って動いて、相手のプレッシャーをいなして、縦パスを出すスタイルにシフトしてきた。
當間も橋内も機敏に動いて相手のプレスをいなしつつ、サイドから、セルジーニョと山本の2シャドー、下川と隼磨の両ワイド、時にはサイドに流れたCF高崎に縦パスを通した。
これによりサイドアタックが息を吹き返したのだ。
パスを意図するためにビルドアップ時の最終ラインは必然と上がり、臆病な下がり目のポジションは影を潜めた。
自然とCBとDMFとワイドの距離感も向上し、パスコースは増える。
勿論、時には中央やサイドに寄る高崎に「縦ポン」はする。特にGKからのフィードは高崎に集められる。
縦ポンの山雅…散々見た「ソリボール」。
しかし。
山形戦からは、相手の縦ポンへの意識を利用して、守備を中央やボールサイドに意識させ、その裏プレーとして、手薄になるサイドや、ボールサイドの逆側のサイドに「サイドアタック」が展開された。
更には、サイドからのクロスの跳ね返り、シュートブロックやクリアを拾ってのミドルシュートが脅威を与える。
この辺は再三やってきたことなので手慣れている。
もっとも、ミドルシュートはDMFだけではない。CBが、逆サイドから絞ったワイドの選手がミドルを打つ。この辺が昨季までとは違う。
●木山山形に「刺し違えて」勝つ
山形の守備は悪くはなかった。1トップ2シャドーがよく山雅CBにプレッシャーを掛けていたし、そのプレッシャーで追い込むと2DMF、特に本田拓也が出足よく山雅の攻撃を遮断した。
「山雅の縦ポンなんて十分わかってるわ!」とばかりに。
そして山形の攻撃陣は2点取った。しかも再現性の高い「大きいクロスで逆サイドで仕留める」抜群の崩しで。
でも、怯まず闘った山雅はインテンシティを下げず、トランジションの速さを求めて、ゴールで結果を出した。
1点目こそが狙い通りのサイドアタック。
左サイドで縦パスを受けた下川から、鮮やかな山本の裏取り突破。
GKが弾いたところをセルジーニョが詰める。
2点目は山雅伝統の「塩沢勝吾風CKのニア合わせ」を高崎がFKから再現。
しかし3点目は當間の大きいサイドチェンジパスがきっかけ。ボールサイドから大きく逆に振れば、逆サイドのサイドアタックは効果的になる。
スローイングからセルジーニョのよく見えてるマイナスクロス、中に絞ってミドルシュートを打つ気満々だった下川のミドルのこぼれを山本。
「縦ポンに頼らないこと。」
「サイドアタックでインテンシティの強さを出し、攻守のトランジションを速くして相手を上回ること。」
更に言えば、今季容認された「CFの攻め残り」で、削られる高崎の消耗を抑えること。
そうやって得られるものは…。
「相手守備を『叩き潰す』。」
「交わす」んじゃない。
裏を取り、速さで翻弄する。
「相手守備にストレスを与え『叩き潰す』トランジションサッカー。」
※故に山形戦以降各試合において、守備のストレスの溜まった相手選手が終盤で一度二度と悪態をつくシーンが目立つようになる。
山形戦以降、アルウィンを、そしてアウェイの山雅サポーター席を熱狂させているのは、間違いなくトランジションの速さ。
「縦に速い山雅」が、少しモデルチェンジして帰ってきた。
●アウェイ連戦…難所岡山から昨季苦杯をなめた町田へ
岡山アウェイでは相手レギュラーFW不在(赤嶺と豊川)という幸運もあったが、セルジーニョ負傷交代となる後半途中までは、山形戦で自信を得た速いトランジションで、「勝ったことがない鬼門岡山で、珍しく主導権を握る」サッカーを展開。
相手GKファインセーブやポスト直撃、岡山の守備の粘りに無得点となるものの、岡山アウェイ史上でもかなり内容がある試合となる。
そして昨季苦杯をなめ、事実上昇格を逃す原因となった町田アウェイでは、相馬ゼルビアの442「超圧縮守備」に対して、「逆サイドのワイドを1枚圧縮の外にわざと置く」配置にした(下の画像のセンターサークル付近に、逆サイドのワイドとして下川が位置している)。
町田がいちばん嫌う「逆サイドへのサイドチェンジパスで守備スライドを強要」させる狙い。
ボールサイドのサイドアタックと、逆サイドのサイドアタック。
より自信を深めたトランジションの速さで揺さぶり、「大きいクロスから逆サイドのファーで仕留める」基本的な攻略を成功させる。
意図通りの工藤の大きいクロスを、高崎がファーで折り返して山本のニアで仕留める。あの「悲劇の地」野津田でまんまと先制。
2点目は山形戦同様の、セットプレーからの高崎ニアヘッド(こちらは右ではなく左のCKから)。
エース鈴木がケガ明けで、本調子には程遠いという幸運があったのは事実で、終了間際の町田の粘りで1点返されるが、しっかり勝ちきる。
●リカルドロドリゲスのハイプレス…試されるホーム徳島戦
そして9月早々、注目のホームゲームは徳島戦。
リカルドロドリゲス監督の徳島の攻守は、今季J2でも出色の強さを持つ。インテンシティは非常に高く、トランジションはかなり速い。
今季前評判では全くの無印だったが、攻守が整備させると、一気にJ2の主役級に躍り出た。
個人的にも好きなサッカーであり非常に楽しみな対戦となった。
この試合、「徳島の心臓」であるDMF岩尾を累積で欠き、代役の一人の外国人DFの不調という幸運に恵まれたが、前半は山雅の運動量がいまひとつ鈍く、「山形戦以前のもっさり山雅」に戻り気味になり(特に岩間の守備面の不調でミスやピンチもあった)、1点を先行される。
徳島の433は、序盤ハイプレスが有効でインテンシティは非常に高く、選手間の距離感も抜群で、山雅は殆どビルドアップも「縦ポン」もできない。
高崎は、徳島CBとアンカーに厳重にマークされ「縦ポン」は封じられる。
2DMFが持てば徳島はCBすらプレッシャーを掛けに来るので、パウリーニョは前を向けず岩間はミス連発。打開策を見いだせない。
岩間もパウリーニョも、武井のようなパスコースを作る動きすらない。
トランジションは緩く、かなり苦しい。流石リカルドロドリゲス。
どうするんだこれ…そんな閉塞感の序盤。
●ハイプレスにはサイドアタックとカウンター
中央がダメならサイドアタックだ。
山形戦以降自信を深めた、CB(特に當間)とワイド(特に下川)とシャドー(特に山本)の縦関係でインテンシティの速さを見せ、少しづつではあるがトランジションを改善する。
徳島のハイプレスもややではあるが弱まった。
パウリーニョと岩間の2DMFは受け手になるよりも、飛び出しを始めて、中央で徳島守備、特にインサイドの裏、アンカーの周囲で相手守備を釣り始め、サイドアタックを助けた。
徐々にではあるが山雅の攻めが出始める。
そして。徳島のハイプレスが前掛かりになりすぎ、ボール回しが中途半端になった瞬間に、パウリーニョが徳島のパスを引っ掛けた!
攻め残りの高崎を利用した速いカウンター。
パウリーニョと同時に、隼磨と工藤がフルスプリントで飛び出す。
これが山雅。
この複数フルスプリントが山雅。
皆が待ってた山雅。
最後は数的有利から工藤が落ち着いてゲット。徳島外国人DFのもっさり守備にも助けられたが、前半の段階で息を吹き返す。
そして、徳島の失点ショックからくるストレスに山雅は冷静に畳み掛ける。
揺さぶりからの山本の左サイド縦突破。クロス。
定石通りの「長いクロスをファーで仕留める」攻め。
待っていたのは…。
セルジーニョの代役としてようやくチャンスを掴んだ工藤浩平だ。
徳島守備はニアに引きつけられて、ファーはがら空き。
ニアを「詰めずにわざと開けて」待っていた工藤は決めるだけ。ゲット!
序盤の徳島ハイプレス守備で、2DMFは見事に窒息させられたし、手詰まり感も正直あった。
しかし、カウンターとサイドアタックからの揺さぶりから、前半の内に2度仕留め、「相手守備をトランジションで叩き潰す」山雅。
アルウィンにタオマフが舞う。「SEE OFF」の歌声は夏前より大きい。
●トランジションでぶっ叩け!…足が止まる徳島、止まらない山雅
後半の徳島の攻勢は素晴らしく(50分には惜しいヘッドもあった)、50分過ぎの徳島のシステム変更(多分3322というか352)は、攻撃面では確かに両ワイドの攻めも良く有効だったが、結局は仕留め切れず。
逆にパスミスからの、山雅のインテンシティの高いプレスやカウンターが有効になっていく。
熱戦は徐々に、走力の差で山雅に傾く。
徳島は60分過ぎから徐々にガソリン切れ。
攻撃はフリーランが減り、守備は瞬間瞬間で棒立ちとなり、山本や高崎の突破について行けない。
慌てず攻めて追加点狙いの山雅は、中央で工藤が溜め、高崎の左サイド縦突破。
GK股抜きシュートで追加点。
リカルドロドリゲスの交代策も後手に回り(さすがに大崎淳矢投入は遅過ぎる…352変更で、逆に適性がシャドーorトップ下の淳矢の居場所がなくなった)、山雅は攻め放題。
最後は、ストレスの溜まった徳島DFが高崎を倒して退場。ここで勝負あり(主審のアドバンテージの取り方は疑問に感じたが)。
リカルドロドリゲスのインテンシティの高い攻守を、山雅は速いトランジションで壊した。
●そして待ち受けるロティーナヴェルディ
翌週はアウェイ。味スタでヴェルディが待つ。
今年のJ2の目玉のひとつが外国人監督。
特に前述のリカルドロドリゲスと同様にここまで結果を残してるのが、ロティーナのヴェルディ。
前半戦は3バック、後半戦は4バック(433)にシフトし、これまたインテンシティの高いサッカー。見ていてとても楽しい。
ただ、ここでも山雅は幸運に恵まれる。
ヴェルディはCF(ドウグラス)がケガでベンチスタート。代わりの外国人CFが出てきたがこれが非常にもっさりしていて、ロティーナヴェルディが本来持ってる高いインテンシティに前線で温度差ができる。
●ロティーナの刺客
プレッシングは徳島より明らかに遅く、徳島戦ほどハイプレスで苦しくはなかった。但し、山雅にとって厄介な要素はあった。
ひとりは外国人左アタッカー(アラン)。
433の左ウィングで意識的に隼磨のちょっと外側に位置。
外の崩しへの参加と、ダイアゴナルで隼磨の視野の死角から中に入ってきて、左クロスをヘッドで仕留めようとする2つを狙っていた。
明らかに脅威だった。
20分のアランのヘッドはパーフェクトだったが、バー直撃で助かる。
もうひとりは安西の右の突破からの崩し。
この試合の前半も再三チャンスを作っていた。
その20分の決定機のクロスは安西。守備を抜ききらずに上げるクロスは絶品だった。
●ヴェルディのトランジションの遅さ
序盤はヴェルディの崩しとトランジションに苦しんだが、10分過ぎから徐々にヴェルディの外攻めに慣れる。
アラン・安西の両ウィング対策として、山雅は隼磨・下川の両ワイドでは力負けもあり得るので、状況によっては後ろを4バック化して、橋内・當間の両CBがボールサイドにスライドして対応する(右ボールなら隼磨SH橋内SB、左ボールなら下川SH當間SB)。
このスライドはヴェルディ戦特別仕様ではなく、山雅標準装備の守備ではあるが、これで20分の決定機以降はヴェルディのサイドアタックを封印。しかも橋内vsアランはほぼ橋内の完勝。おっさんマジ外国人キラー。
インサイドも渡辺・梶川のインサイド2枚に、2DMFのパウリーニョ・岩間が丁寧に守備対応。
前半は守備重視だったようで役割的には「インサイド2枚を窒息させてヴェルディの攻撃を外に追いやる」形。
安西が下川ケアを始めて下がり始めた影響もあり(守備時5バックの時間があったらしい)、ヴェルディは、攻守のトランジションが本来のそれより遅い。
右は安西の単独突破はあったが、左も中央も距離感が悪い。攻めは沈黙した。
●ここでも「ソリボール」は見せるだけ…冴えるサイドアタック
時間とともに山雅のサイドアタックが優勢となる。
下川縦パスからの山本突破など、山雅はわらわらと、でも守備を怠らずに徐々に主導権を握る。
徳島戦との大きな違いは2DMFの勤勉な仕事ぶり。
岩間は徳島戦は冴えなかったが、この試合では連動性良く攻守に参加して良さを見せる。
但し、パウリーニョ共々、ボールホルダーを追い越す動きは封印。
「やれない」のではなく、「やらない」で、タイミングを見て徳島戦のようなカウンターを狙う印象。
危ない球回しもしないし、中途半端な受けもしない。
高崎は通常なら、DFラインよりやや浅めで「縦ポン」を受ける。
歴代の山雅CFは塩沢に代表されるようにやや浅めのエリアで受けてきたが、今回はDFライン近くで「わざと奥で」背負って、自身がポストをするよりも、浅めのポストは山本らに任せてる印象。
徳島戦でも少し見かけた。
この意味は…。
決めることや落とすことより、「攻めに奥行きをつくる」ことで、高崎自身を警戒させる。
ヴェルディの武器である2インサイドやアンカーの裏にプレッシャーを掛け、裏抜けを含めて「高崎自身を」意識させ、無力化したいのかなと。
「縦ポン落としてセカンドボールで決めようか!ような典型的なソリボール」で攻めるなら、ここまで深く高崎を位置させる必要はない。
でもJ2の各チームは「山雅のCFの無力化」に慣れている。山形や徳島がそうだったように。
じゃあ、何故か。
やはり山形戦からの流れの延長と考えれば、「縦ポンは見せプレー」で本質は「サイドアタックを軸にしたトランジションの速い攻め」。
よって、試合中に考えて出した仮説は「ヴェルディのアドバンテージの全消し」。
ヴェルディ最大の強みである「2枚のインサイド」のプレスに対して、「縦ポン」入れつつも高崎のポジショニングで高崎自身を警戒させて、「縦」に押し下げて無力化させる。
あわよくばミドルサードで山雅の2DMFを活性化させる。
アランと安西をキーにしてやってくるサイドアタックは、スライド守備でSH化したワイドとSB化したCBの2枚で消す。
その裏を逆にサイドアタックで狙い、CB/SBの意識を「横」に広げ守備のギャップを広げ、2シャドーに攻めるスペースを与える。
あわよくばアランと安西を消耗させる。
「縦」と「横」。結果は…。
●ヒントは寿人とアメリカンフットボール…「縦」と「横」は同時に見ることはできない
縦を広げ、横を広げ、それで生じる守備ギャップを狙う。
これは…。
アメフットNFLで一世を風靡した故ビルウォッシュ ヘッドコーチの49ersの「ウェストコーストオフェンス」だ。
ビルウォッシュは、短く速いパスと速く展開する中央のランで相手守備を引きつけた裏を、ミドルやロングのパスで攻略して、タッチダウンの山を築いた。
アメフットでもサッカーでも、いやどんな球技でも、守備攻略の基本は「相手の視野の死角」への攻め。
人間の目の視野や動体視力が限られる以上、「横」と「縦」は同時に精度良く見ることができない。ましてや細かい動きを把握できる動体視力は、角度が付けば突くほど限られる。
サッカーにも、その「守備者の死角」を突く名人がいる。
佐藤寿人。
DFの視野の外側で攻略する名人。
寿人の鋭いプルアウトに対応するとしたら、相手DFは首を動かして確認せざるを得ない。
でも、首を動かした瞬間に…。
「首を動かした逆方向」に「新たな死角」ができる。
すなわち山雅で言えばこうだ。
山本や下川や隼磨の突破をケアすればするほど、目線は「横」。高崎工藤は見失いがちになる。
高崎工藤をケアすれば、目線は「縦」。山本や下川や隼磨の「一瞬の動き」は見失う。
「縦ポン」でCBに高崎と工藤を意識させる。
「サイドアタック」でSBに山本や下川や隼磨を意識させる。
(※守備ラインは、裏抜けを考えると無闇に上げられない)
そうなると?
CBとSBの意識の違いで、CBとSBの間にギャップが生まれる。
アメフット出身の私の視点から見ると理にかなった山雅の攻め。
「縦」と「横」を広げ続けることで、後半戦の疲れの中でミスを誘発させるというのが、山形戦以降の山雅の狙いだ。
前半のシュートは公式記録によれば1本。
でもこの45分で、「『意識付け』という、ばら撒かれた『コマセ』」は数知れず。これが結果として後半に効く。
●周到に崩す山雅
後半明らかにパウリーニョの位置が高い。
2DMFが縦関係になったときの山雅は、ボールホルダーの追い越しをやるので機能する。
ヴェルディも右クロスからアランで仕留めようとするが、残念そこには橋内優也。
50分過ぎにドウグラス投入。しかしその直後。
前半の山雅の攻めの「意識付け」で悪化していた、ヴェルディの守備のルーズな距離感。
こぼれたボールを人任せにして周囲のサポートがルーズになった瞬間、パウリーニョが非常に高い位置で相手ボールを引っ掛け、コントロールショットでGKの上を抜くファインゴール。
巧い。本人の公文式で勉強した(らしいよ)日本語並に巧い笑
ヴェルディは交代により本来のシフトに戻った筈だが、いかんせん活性化してるのは右だけ。左はフリーランもなく沈黙したまま。
そして山雅追加点。
當間の縦パス→山本の左突破からキープ→下川のインナーラップ、というサイドアタック。
下川のクロスは守備に当たるものの、高崎がポストで戻して工藤ゲット。
ボールホルダーの内側を突くワイドのインナーラップも山雅標準装備だが、点に結びついたのは久しぶりでは。
ヴェルディは2失点後3バックにシフトしたが、徳島のような活性化はならず。逆に各選手が自信喪失気味。
守備はルーズになって山雅が中盤で刈りまくり。
ファイナルサードでダイレクト、スルー、ヒールと「どっちがヴェルディだっけ」状態。
徳島も3バック化で守備は確かにルーズになったけど、攻撃は遥かにヴェルディより脅威だった。
終盤當間の凡ミスで1点失いヴェルディが若干活気づくが、ヴェルディに攻め手は残っていなかった。
◎まとめ
ひとつ明確に指摘しておきたいことがある。
正直この数試合、山雅はツキに恵まれていた。
山形以外は、「エースCF欠場(岡山・ヴェルディ)」「キーマンが出場停止(徳島)」「CFがケガ明けで本調子には程遠い(町田)」という幸運。それは忘れてはならない。次節ザスパ戦以降に幸運が続くとは限らない。人生とサッカーは舐めたらアカン。
それにしても、ヴェルディ戦を見たSNSのサッカーファンの多さには驚かされた。
と同時に、その中の何割かが山雅に驚いてたのは印象的だ。
ヴェルディ戦試合後の敵将・ロティーナさんも率直に「今日は彼らが私達を上回った」と。
偶然の攻めから必然の攻めへ。
縦ポンからサイドアタックへ。
「ソリボールからトランジションへ。」
J2各チームに周到に「縦ポン」を見せつつ、トランジションでぶっ叩く山雅。
戦術的にレベルの高い監督の5チームに4勝1分。
ようやく山雅はソリさんの目指す「トランジションサッカー」に近づいたんだろうか。
但し、ここはJ2だ。
やがては対策は講じられる。
徳島の序盤の守備はヒントになるはず。
でも、「サッカーを、そしてJ2を舐めなければ」どういう対策が出てきても、結構やれるのでは。そんな手応えは、正直見てとれる。
◎最後に
山雅の選手は、攻撃も守備も「いちいち監督に指図されなくても」「自主的に」「選手間の細かく豊富、かつ素早いコミュニケーションで」対応ができる。
それは昔から変わらない。
どっかり椅子に座ってホワイトボードを見るのが、反町康治の通常形態。
ただ、昔と違うものがある。
競争。
GKも鈴木・藤嶋が控える。
CBは後藤が計算できる上に、天皇杯で谷奥が絶好調。
DMFは勿論武井。そしてFKスペシャリスト宮阪。
ワイドはようやくケガから立ち直った安藤・那須川・岡本。そして安川。
前線も石原、三島。いずれ武蔵もダヴィも調子を上げてくる。
ケガ人もいずれ帰ってくる。今のところシリアスなケガ人はいない。
但し。
山雅には時々、悪しき伝統として「選手が格下を舐めて、その隙を突かれて脚をすくわれる」試合をやってしまう。
2013年2014年のアウェイ富山。
昨年のホーム岐阜、そしてアウェイ町田。
そういう試合をつくらないことが、まずは大事では。
敵は己自身。
残り10試合を全力で。
そうすれば、11月に何かが起こっている。私はそう、思っている。
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