見出し画像

老後の趣味 1

10年以上も前 
そろそろ退職が視野に入り始めた頃のことになりますが


「お父さん、そろそろ老後の趣味見つけておいてね」と妻が度々いいます

重ねて「濡れ落葉は嫌だよ」「ワシ族はだめだから」とも言っていました


濡れた枯れ葉のように 払っても払ってもまとわりつく旦那
ワシもワシもと どこにでも付いてくる旦那を指して言う言葉です


当時は60歳定年が主流でした


その度に私は
(老後の趣味はプラモデル作りに決めている)
と心のなかで呟いていました



暫く時が過ぎたある日、何十年ぶりかで模型店に行ってみました


プラモデルはあるには有るのですが 箱が乱雑に積まれて薄くホコリをかぶっているのです


子供の頃、プラモデルの箱絵に心ときめかせ
ウインドウに飾られた完成見本に見とれていた少年の夢は
一瞬で粉々になってしまいました



気を取り直してもう一度店内をみて見ました 
目を疑うような値段です


チョコレート菓子くらいの箱に入った飛行機が二千円
もう一回り大きな箱の船は一万円で僅かにおつりが来るほどの値段です



小学生の頃のことを思い出しました
懸命に貯めた小遣いを握りしめて 模型店に走った日
欲しかったプラモデルはなんと値上げされていたのです!


いろいろと我慢をし、やっと手にした小遣いでは足りません


しょげかえる私を店主は様々慰めてくれました


やり場の無い悔しさをこらえながら
(大人になったら、おとなになったら……
お店にあるプラモデル全部買ってやるんだ)
つぶやきながら家に帰りました



定年間近になり、何十年ぶりかで訪れた模型店でしたが


子供の頃手が届かなかったプラモデルは
大人になっても手が届かない物なのでした


大震災の少し前のことです

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?