見出し画像

ウィリアム・トレヴァーと腰痛と

数日前から右の腰のあたりに痛みが走る。
立っているとあまり感じないのだが、中腰になったり、座った状態から立とうとすると鈍い痛みが走る。
原因には心当たりがあった。
柔らかいソファに足を組んで座っていて、不意に向きを変えたときに腰に違和感を感じたのだった。
これまで腰を痛めたことがない。
いや、あったかもしれないが、一日二日でどうにかなっていたと思う。
しかし今回は長い。
なかなか痛みが引かない。
昨日、痛みの部分を指で探ったり、探し当てた部分をぐいぐい押したりしたら、さらに痛みが増した。
これはもう、そうっとしておくしかない。
いたわりながら忘れたころに治っているというパターンを期待している。

アイルランドの作家ウィリアム・トレヴァーの作品を読んでいる。
今読んでいるのは『アフター・レイン』。
その前は『ラスト・ストーリーズ』だった。
どちらも短編集で、市井に生きる人々の事件が静かな筆致で描かれている。
決してミステリーではないのだが、どの短編も何かを期待させる。
そして事件は痛快に解決されることもなく、日々は続くがことく物語は終わる。
トレヴァーの作品を読みながら、複雑な思いを抱きつつ、変に清々しくもあるのは、人生は、ままならないということを私自身腑に落ち始めたからかもしれない。
特に何があったという訳でもないが、日々は解決できない事件に満ちているし、それでも生きてきた。
少し前までは未来しか見ていなかったが、急に人生の限りが見え始め、それでも生きてきたことそれ自体を、受け入れてもいいのではないかと思い始めた。
何でもない自分。
何でもない一日。
いや、何でもないことなんて、一つもなかった。
自分は自分の人生を生きてきた。
だからという訳でもないかもしれないが、トレヴァーの作品は私の心に沁みる。
翻訳されているので翻訳者の日本語力に負うところが大きいのだが、トレヴァーの文章に静かな安らぎを得ている。
受容にも似た。

そして私の腰痛も、ままならない事件の一つだ。
このまま治っていくのか、いや、どうなっていくのか。
(早く医者に行けと言われている)

日々は、続いていく。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?