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食品は医薬品ではない。独自のメカニズムで恒常性を維持している。

この記事でわかること 【一般消費者・食品事業者向け・機能性食品研究者向け】
1. 食品は医薬品ではない
2. 食品独自の恒常性維持作用
3. 医薬品の背中を追い続けるのはやめませんか?

1. 食品は医薬品ではない

私たちの祖先が誕生した500万年前、食料を確保することが最優先事項でした。種の保存のため、食事から摂取した栄養素によってエネルギーを作り出し、また食料を確保するために活動し、繁殖するというサイクルが生き物の使命だからです。
500万年前には狩猟・牧畜・農耕などの技術は当然あるわけもなく、木の実や根っこなどを採集することで食料を確保していました。
そのころから、我々の祖先は栄養素と共に、現在機能性食品として用いられている非栄養成分を摂取してきました。非栄養成分の中には、体内に吸収されるものと、されないものがあります。進化の過程で環境に適応するため、その成分を吸収するか・吸収しないかという選択が行われたためであると考えられます。
一方、漢方や生薬といった伝統薬以外の医薬品は、常に新しい化学構造を持った物質であることが望まれます。なぜなら、新規化合物でないと特許が取れない、高い薬価が取れないといったビジネス上の背景があるからです。

すなわち、ヒトと食品(成分)の間には長い適応の歴史がある、一方、ヒトと医薬品は常に初顔合わせという違いがあるということです。

もう一つの違いとして、経口摂取する医薬品は体内に吸収され、血中に分布することが前提となっています。血中に分布した医薬品が標的臓器(実際に効果を発揮する臓器や細胞)へと移行し、何らかの化学反応を起こして、疾患の原因を排除するというのが医薬品のメカニズムだからです。

医薬品の作用メカニズム


ところが、食品に含まれる機能成分は、消化管から吸収されないものが大変多いことが研究の結果わかってきました。それでは、血中に分布しないのにも関わらず、なぜ健康にいい影響を与えるのでしょうか?

2. 食品独自の恒常性維持作用

消化管から吸収されない代表的な食品機能成分としては、
・食物繊維(オリゴ糖を含む)
・ポリフェノール

が挙げられます。いずれも摂取したところで、体内には吸収されず、消化管を通過して排泄されます。消化管とは、口腔ー胃ー小腸ー大腸ー肛門という一つのの事です。ミミズを思い出していただくと理解しやすいと思いますが、消化管は体内ではなく体外です。また消化管には、免疫・神経・内分泌という体全体の調子を左右する大事なネットワークが広く張り巡らされています。

皆さんご存じの通り、食物繊維腸内環境を改善します。腸内環境とは腸管に住んでいる腸内細菌とそれらが産生する代謝物などを示します。
近年の次世代シーケンサー技術を用いた解析では、持って生まれた腸内細菌を変動させることは大変難しいことが分かってきました。一方、食物繊維やオリゴ糖の摂取は、健康の維持に役立つ腸内細菌を活性化し、それらが産生する有用な短鎖脂肪酸などの代謝物の腸管内での濃度を増加させることができることが分かってきました。これらの変化は腸管の免疫系を活性化して、様々な疾患の予防・改善に役立つことが示されています。

ポリフェノール苦味・渋味の成分として食品の嗜好性に大きく影響しますが、これもまた消化管から吸収されずに、糞便の中へ排泄されてしまう成分です。近年行われた大規模摂取試験において、ポリフェノールの一部は、メタボリックシンドロームの改善、心血管系疾患の予防、認知機能の向上といった有益な作用を示すことが明らかとなりました。ところがその作用メカニズムは分かっていません。私たちの研究の結果は、ポリフェノールの”味”、即ち消化管の神経系の活性化が、そのカギを握っていることを示唆しています(これらについては別の機会にお話ししたいと思いますが、以下を参照ください)。


3.医薬品の背中を追いかけるのはやめませんか?

機能性食品の概念が生まれてから、40年が経とうとしています。この間、機能性食品の認知度は高まり、大きな産業として成長してきました。

しかしながら今回の事件で、壊れ去ろうとしています。

この事件は、一つのメーカーの瑕疵というだけでなく、行政やメディアなどそれらを取り巻く環境が招いた事態であると思われます。

また研究開発という観点からは、医薬品という全く食品とは異なる性質を持つ物質をお手本にしてきたという点で、齟齬が生じてきたのではないかと思います。

そこで提案です。
今後の食品機能性研究は、医薬品の背中を追いかけるのではなく、

医薬品とは異なるメカニズムで、恒常性を維持し、私たちの健康を守ってくれている

ことを証明していくことが重要なのではないでしょうか?


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