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【緊急】紅麹と機能性表示食品(2)

現在までのところ(2024年3月27日現在)“紅麹“サプリメント摂取後に106人に腎障害が見られ、そのうち2名がなくなったことが報道されています(現時点での紅麹との因果関係は調査中)。本健康被害は、機能性表示食品制度施行以降、最大の事件となってしまいそうです。次回はその背景と対策について、述べていきたいと思います。

この記事でわかること【一般消費者・食品事業者・機能性食品研究者向け】
1.当該メーカーの瑕疵
2.行政側の瑕疵
3. 機能性表示食品制度の瑕疵
4. 食品機能成分を錠剤・カプセルで摂取することの危険性

1.当該メーカーの瑕疵

当該メーカーが消費者庁に2023年10月11日以降に提出した紅麹の安全性についての届出書においては、海外での有害事象を基に食品安全委員会が注意喚起していた内容には触れていません。それでは当該メーカーはこのことを知らなかったのでしょうか?

実際に回収の対象となった食品の届出上の表示見本は以下の通りとなっています。

赤線(腎障害)あるいは緑線(肝障害)部分は、前回お示ししたコレステロール低下薬ロバスタチンの添付文書*と同様の内容です。ここから判断すると、当該メーカーは今回の事態を予測していたことがうかがわれます。
最近我が国においては、自らの大きな不正が発覚しても“知らなかった”と言って逃れようとする姿勢が大きな社会問題となっています。このような昭和的悪文化は、政治の世界に限らず、一般企業でも横行しているのではないでしょうか。

添付文書:医薬品や医療機器に添付されている、使用上の注意や用法・用量、服用した際の効能、副作用などを記載した書面。

機能性表示食品は消費者庁が認可を与えているトクホと異なり、メーカーの責任において製造販売されているものです。そのため、健康被害の報告被害者への救済や補償についてもメーカーが責任負うことになっています(トクホの場合はどうなるのでしょうか?ちなみに医薬品の場合、適用内使用であれば、医薬品副作用被害救済制度によって給付金の支給対象となります)。
今回のケースでは、初めての被害が報告されてから、商品の回収までに2か月間かかっており、その間次々と同様の被害が報告されるという最悪の事態となっています。また、機能性表示食品による重大な健康被害案件としては、初めてのケースであり、被害者に対して充分な補償や救済が行われるかどうかについて全く不透明です。特に中小メーカーがこのような健康被害を起こした場合には、両者泣き寝入りにもなりかねません。

2.行政側の瑕疵

前述したように“紅麹”の安全性については、食品の安全性を担保する役割を持つ内閣府・食品安全委員会が警鐘を鳴らしていたにもかかわらず、市場では商品が販売され続け、被害が拡大してしまいました。この間、規制当局である厚生労働省・農林水産省・消費者庁が問題を把握したいなかったこと(?)は大きな問題です。
以前からリスク評価部門である食品安全委員会と、リスク管理部門である厚生労働省・農林水産省・消費者庁との連携については不安視されていましたが、本事例はこの不安が的中した結果となっています。
このような問題を回避するためには、行政システムの改善が必要です。

3.機能性表示食品制度の瑕疵

しかしながら、問題の根本は機能性表示食品制度にあります。
第二次安倍内閣によって策定された機能性食品制度は、それまで大手が独占していた“トクホ”をはじめとする機能性食品市場を中小食品メーカーにも開放しようとして進められた規制緩和政策の一つです。
特にトクホは認可制であるのに対し、機能性表示食品は届け出制であるところ最大の違いです。認可制では、有効性・安全性などについて入念なチェックが行われますが、届け出制ではその名の通り”届け出るだけ”で販売することが可能です(以前よりは書類チェックが厳しくなったとのうわさを聞きますが)。有効性の科学的根拠については、今回の紅麹のシステマティックレビューでは、たった1報を解析対象とした低レベルなものです。

有効性の根拠が低レベルなのはともかく、健康被害の観点から、安全性の科学的根拠が低レベルというのは許されないことです。
やっと今日(2024年3月27日)になって、消費者庁は機能性表示食品約6800製品について緊急点検するとの声明を出しましたが、”時すでに遅し”という感はぬぐえません。そもそもこの制度を見直すことが喫緊の課題です。

4. 食品機能成分を錠剤・カプセルで摂取することの危険性

トクホは認可制であるとともに、原則として明らか食品であることが求められてきました(2015年新食品表示法に伴い改正)。食品は多成分によって構成されていることから、成分同士の相互作用があり、機能性の発現は緩やかです。また、食品形態であると機能成分を数倍や10倍摂取することは不可能です。
一方、機能性表示食品はそのほとんどが錠剤・カプセルです。そのため、他の食品成分との相互作用は少なく、大きな生理学的変化が期待されます。しかしながら、容易に過剰摂取できることは大きな危険性を孕んでいます

加えて、医薬品と食品を明確に区別するために食薬区分(専ら医薬品として使用される成分本質・原材料リスト)に紅麹モナコリンK(ロバスタチン)は収載されていないという点も摩訶不思議です。

現在までのところ(2024年4月2日現在)“紅麹“サプリメント摂取後に166人に腎障害が見られ、そのうち5名がなくなったことが報道されています。また被害は台湾にまで及んでいます。
”紅麹“サプリメントは、血中コレステロール値の改善を目的として使用されています。(家族性コレステロール血漿などの一部の遺伝性疾患を除いて)血中コレステロール値は運動や食事といった生活習慣を見直すことで改善することができます。一方、現在の医療では、一旦障害を受けた腎機能の回復は大変難しいことが知られています。

消費者側は、”紅麹“サプリを摂取することで高めのコレステロールを低下させて健康を維持しようと思っていたにもかかわらず、極めて難治性の腎障害を発症してしまうなんて、たまったものではありません。

本事例を教訓として、 “機能性表示食品制度”を抜本的に改善していただけるよう心から望みます。


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