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【機能性表示食品・トクホの問題点④】      ~荒っぽいぞ!システマティックレビュー~ 

この記事でわかること【一般消費者・食品事業者・機能性食品研究者向け】
1.システマティックレビューとは?
2.機能性表示食品のシステマティックレビューの現状

1.これまでのおさらい

 機能性表示食品の届出が受理される要件としては、トクホと同様な介入試験、そしてもう一つがシステマティックレビューです。
 実に機能性表示食品の9割以上は機能性の科学的根拠をシステマティックレビューを用いて説明しています。

 我が国では2015年から第三次安倍政権のもと、成長戦略を目的とした規制改革の一つとして、機能性表示食品が導入されました。

 その目的は、特定の保健の目的(血圧とか血糖値とか)を表示できるトクホはコストがかかってしまい大企業が市場を独占してしまうため、小規模事業者にこの市場を開放しましょう ということです。
 すなわちコストがかかる介入試験での認可から、規制を緩めてシステマティックレビューによる届出を認めようとする”ゆるゆる”の制度です。

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トクホ:介入試験がマスト(コスト)→国(消費者庁)が認可
機能性表示食品:システマティックレビューでもOK(コスト
         →消費者庁に届出
        何かあった時には事業者が責任取ってね というスタンス
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2. システマティックレビューとナラティブレビュー

 科学における総説(レビュー)には、大きく分けてナラティブレビュー(叙述的総説)・スコーピングレビュー・システマティックレビューがあります。これらは以下のように、目的と手法が異なります。このうち、機能性表示食品の科学的根拠としてはシステマティックレビューが必要となります(または介入試験)。

ナラティブレビュー
 目的:ある特定の研究テーマにおける既存の知識を整理し、新たな疑問
   
(リサーチクエスチョン)や仮説提案する。
 手法:筆者が引用する原著論文(など)によって、結論が異なる。
スコーピングレビュー
 目的:ナラティブレビューと同様
 手法:システマティックレビューのように全ての原著論文などを
    マッピングして、様々な側面から議論する点が異なる。
システマティックレビュー
 目的:ある特定の研究テーマの答えを探す。
 
手法:ばらばらに実施された玉石混合の原著論文を統合するために、
  ①それぞれの論文の質を評価
  ②基準を満たす質を有する論文だけを統合
  ③結果の一貫性や信頼性を検証して、バイアスを取り除いたエビデンス 
   
を得る(バイアス・エビデンスは以下参照)

 尚、システマティックレビューが適切に行われているかどうかについては、2009年に公開された国際的規範であるPRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses)声明に基づいたPRISMAチェックリスト(チェックリストとフローチャートで構成されており,文献検索の方法,検索で絞られた論文内容の統合,バイアスの報告,エビデンスの要約などを満たすプロセスが示されている)で採点が可能であり、機能性表示食品届出ガイドラインにもこれに準ずるように記載されています。https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/assets/foods_with_function_claims_220401_0002.pdf

3. 機能性表示食品のシステマティックレビューの現状

 それでは機能性表示食品のシステマティックレビューはどのように行われているのでしょうか?
 当初懸念されたように、2015年の開始から現在に至るまで、その質は大変低いというのが現状です。これに関しては、2016年に消費者庁から公開された検証事業の結果や、その後いくつもの論文で懸念が表明されています。
 特に「いくつかの原著論文の結果を統合してエビデンスを見つける」というシステマティックレビューの本質からはずれた、たった一報の論文を取り上げた「一報レビュー」が散見されることは非常に問題だと思われます。

・消費者庁 検証事業 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/pdf/foods_index_23_171025_0001.pdf
・上岡 洋晴 
機能性表示食品制度におけるシステマティック・レビュー消費者庁による検証事業の前後比較評価
Kagaku to Seibutsu 57(10): 601-608 (2019) 

 また日経クロステックでは、精力的に(?)機能性表示食品の瑕疵について記事を掲載しています。
・揺らぐ機能性表示食品への信頼、薄い科学的根拠で「論文採択率9割」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02157/080100002/
・森永乳業・カゴメ・キユーピー・雪印メグの機能性論文を調査、飲水に等しい科学的根拠も
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02157/080300003/
・機能性表示食品の「研究」は貴重なリソースの無駄遣い
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00138/082301105/
・4%の成分量で製品発売か、機能性の研究レビューもずさんの恐れ
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02157/080400004/

 加えて、これまでその杜撰さについての論文は日本語の論文にとどまっていましたが、2023年には国際誌にまで掲載されることとなってしまいました。
・Kamioka H et al. A Cross-Sectional Study Based on Forty Systematic Reviews of Foods with Function Claims (FFC) in Japan: Quality Assessment Using AMSTAR 2, Nutrients 2023, 15(9), 2047; https://doi.org/10.3390/nu15092047

この論文では、消費者庁に登録された機能性表示食品からランダムに40件を抽出して、その質について評価したところ、
  高い     0%
  中程度    0%
  低い     5%
  致命的に低い 95%
という結果となったことが報告されています。
いかに日本の機能性表示食品制度の質が低いかということが、全世界に発信されてしまったわけです。 

加えて深刻だと思われるのは、省庁間でのダブルスタンダードです。

制度を運用する側の消費者庁は前述のように、質の高いシステマティックレビューを要求しているのに対し、農水省の組織である農研機構は届出様式作成を企業から受注しており、いくつかの機能成分の「一報レビュー」に加担しています。https://www.naro.go.jp/org/nfri/yakudachi/sys-review/index.html

 このように安倍政権の経済の活性化の手段として考案された機能性表示食品には、大きな課題が解決されないまま放置されています。
 今後、我が国の機能性食品はどうなってしまうのやら・・・・。



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