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鉄剣タロー

「あの場所、閉業するんだって。」
そんなLINEを送ったらまた
「えーーーーーー」とかいった
適当な返信が返ってくるんだろう。
わかってる。いつもそうだった。
君はいつも適当で。
でももうLINEが返ってこないんだって
ことぐらいわかってる。君はもういない。  
 高3の夏、受験勉強も何もかもいやになって遠くに行きたいと思った。漫画や小説に出てくるような「夏」を経験したくて、いろいろ調べまくった。
その頃は「エモい」なんて言葉まだなかったから確か「ノスタルジー 国内」
みたいに検索したのを覚えてる。
受験期に一緒に遠くに行ってくれる人なんて君ぐらいしかいなかったから、2人が好きだった作家がSNSにアップしていた埼玉県の鉄剣タローに行くことにした。そこには求めていた「夏」がある気がして。
計画をたててプランも練って、バイトもしてない貧乏高校生はもちろん夜行バスだ。
学校の帰りのマックでポテトLを2個食べながら夜行バスの予約をしたのを覚えてる。今なら住んでいる大阪から車で数時間で行ける距離なのに、その頃はなんだか大冒険みたいに感じてワクワクした。出発当日の夜は受験勉強も放り出してどこに行くんだって親に呆れられた。2人が合流したらもうなんだか怖いものなんかない気がして、バスの中でも眠れずに1人イヤホンで音楽を聴いてた。休憩で降りた知らないサービスエリアの空気も、むせるような夏の匂いも、深夜に外を出歩いてることも、全部が非日常に感じて泣きそうになった。
鉄剣タローは「ノスタルジー」そのもので、そんなのが好きな2人は大興奮だった。丁寧に並んだ筐体、カップ麺やハンバーガーの自動販売機。あの頃は君がいなくなるなんて思わなかったしあの場所だって閉業するなんて思わなかったから写真もそんなに撮ってない。本当に申し訳レベルの数枚だ。こんなことになるんならもっと撮っておけばよかった、というのは人間が一番しがちな後悔であり、いざその時になるまでしようがない。
「また来よう」なんて言ったあの日はもう戻らないし、あの場所に2人で行くことももう二度とない。あの日の約束はもう果たされない。