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アナウンサーの娘であるライターが『鬼滅の刃』の子ども人気を「発声」から考える

『鬼滅の刃』人気の凄さを肌で実感した下半期

『鬼滅の刃』人気が相変わらずスゴイ。この時代にとりあえず「知っているか・知らないか・はまったか・好きか」などを聞いて間がもつという普及力、ただごとではないと思う。

我々ライターも恩恵にあずかっている。主人公・炭治郎の職業が炭焼きだった……ということでツイートもバズっていたので、現代を生きる炭焼きに話を聞いてみた企画が通って、本日リリースとなった。よかったら読んでね(宣伝)


さて、『鬼滅の刃』、子どもたちのひたむきな人気は眩しいほどである。母のピアノ教室の生徒さん、そして親戚の小学生たちを見ると「紅蓮華」を弾きたい子、「~の呼吸!」と叫ぶ子、マスクの柄がどうも見覚えのある子がたくさんいた。

私はガチャポンを見るのが好きなのだが、緑と黒の市松模様、ピンクの麻の葉模様を使ったパク……オマージュ商品がそこらじゅうに溢れかえって一年経った。


そして満を持しての映画公開。安室透の女たちがあれほど力を込めて成し遂げた100億を煉獄さんはあっさり超えて、日本アニメ映画史上に残るラスボス・千尋に差し迫ろうとしている。

原作は割と残酷であり、全体的なトーンはかなり暗い。ここまで子ども人気が出たのはなぜなのだろうか。多分あらゆるマーケターだのアナリストだのが分析済だと思うので、アナウンサーの娘でライターをしている元子役としては、声優さんの「発声」から考えてみたい。

二種類の滑舌「粒立て」「滑らかさ」

滑舌は、実はある程度訓練でどうにかなる。虫歯になりやすい歯があらかじめわかってれば、歯磨きのときどう気を付ければ良いかわかりますでしょう。それと同じで、自分がリップノイズが起きやすいのか、舌が長くてラ行に巻きが入るのか、口の筋肉のせいでそもそもキレが悪いのか。自覚と矯正で改善はできる。これは父親が20年ほど色々な生徒を教え、わりかしテレビ局などに送り出していたのを横で見ていたため、断言できる。

しかし、限界もまた存在する。楽器や漫画のように、滑舌の天才というのもまた存在するのである。

滑舌には主に二種類あって、「粒立て」「滑らかさ」が挙げられる。

「明日、雨が降りそうです」が滑らかさ

「あ」「し」「た」「あ」「め」……が粒である。

楽譜で言うところの音符が粒、滑らかさがメロディーだと言えば通じるだろうか。断っておくが私は子役から芝居していて声優経験があるMCやナレーションもしたことがあるライターではあるが(多い)専門家ではない。あくまで自分の雑感で喋っているのでよろしくお願いします。

私が舞台を観始めたのは25年ほど前だが、そのころにくらべると、滑らかさが重視され、粒立てに関してはそこまで重視されていないのかなあ、と思う。(知らんけど)

歌舞伎オタクなので歌舞伎の話をするが、口立てで稽古していたくらいなので(初期の初期の話、今はちゃんと台本がある)歌舞伎は音の響きが重視されている文化のまま今に至っている。そもそも「粒立て」自体、歌舞伎用語だ。粒を立てるってどうしてもアナウンサーっぽくなるので、小劇場などではリアルさに欠けて敬遠される節もなくはない。

滑舌の理想としては、どちらも両立させ、なおかつ受け取り手の耳の状態にふさわしい声で届けること、になるだろう。芝居のピンスポと、深夜放送のラジオのニュースではまた受け取り手の状況が異なってくるからである。

『鬼滅の刃』は。声優さんの滑舌がまあ~とても良い。当たり前である、声優さんは声のプロだからだ。大抵は養成所などで滑舌の訓練をし、マイクワークなどの技術を身につけ、基本的にはオーディションを勝ち抜いて役を手にする。何歳になっても続くのが普通の世界。そんな中今も仕事している人たちが滑舌、という基礎の基礎が悪いわけない。

そんな中、主演の花江夏樹さん。声のキレと、粒立てが凄まじかったのである。

炭治郎は何を言っても明快にわかる!長男だから

長男だから、は冗談として。炭治郎は考え事が多いキャラクター&主人公なので、当然よく喋る。モノローグでものすごい喋る。そして泣くし叫ぶ。

その全てがしっかり粒立てされていて、キレッキレ。「水の呼吸!」という恐らく日本のお母さんと保育士がここ一年一番聞いたであろうフレーズも、そりゃもうしっかり「み」「ず」「の」「こ」「きゅ」「う」と聞き取れる。ピアニストやお琴のプロが弾く一音のようである。

子どもは耳が良い。だから海外で育った子どもは、地元の言葉のアクセントをそのまま吸い込んで育つし、方言だって連綿と受け継がれる。言葉の「真似しやすさ」は言葉自体が持つキラーフレーズはもちろんあるのだけど、滑舌と音のキレは絶対に影響があると思う。

(余談:先程情熱大陸を見ていたが、声優としてはほぼ独学なのかな?10年前の録音と今の滑舌の変化はわかりやすかったので、見逃した人はTVerか何かでチェックしてみてほしい)

親戚に鬼滅ファンの子どもが何人もいる。彼らが鬼滅の声優さんたちの「粒立て」や「滑らかさ」をマネして、吸収してくれたらと願ってやまない。滑舌は一生モノなので……。

喋る仕事の端っこをうろうろする身として、「流さずに喋る」ことの難しさは日々感じる。書く仕事を始めたら余計に3日煮込んだシチューのジャガイモみたいな滑舌に……。難しさを平気で続けられる人を私は尊敬する。

私も、明日からはとりあえず、単語を流さずに話すように心がけようと思う。全集中で。


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