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Garçon ギャルソン !! 〜part1・アニキ〜

これは某外食企業の企画室に中途入社した私が
現場を知るため3ヶ月間、
レストランのホール勤務を命じられ、
そこで体験した胸キュン珍事の記録です。


フランス料理の世界には、
『ギャルソン=Garçon』
『ソムリエ=Sommelier』という
接客のプロフェッショナルがいます。

ギャルソンはお客様のすべてを担当。
ソムリエはその中でワインを担当。
ホールの責任者は『メートル=Mètre』


私も一応は黒服(女性用ベストとパンツ)で、
フランス料理のフロアーに立ちまして。

私の教育係は、垣田くん(仮名)20才。

ヘアースタイルをワックスで照からせ、
ギャルソン服を着ていても
顔は明らかにヤンチャ者。
私を見て、露骨に不満顔をする。

・・・なぜ、彼なの?

他に優しそうな人がいるじゃない。
もはやイジメですか?

私には彼の心の声が、
手に取るようにわかりました。

本社にいて何も知らないお前らは、
現場の大変さを味わえよな!って
ヤンキー丸出しで私に言っている。

でも待って待って!
そもそも、なぜ、
ギャルソンというオシャレなポジションに
彼がいるの・・? 


私の胸には、かつてフランス映画で見た、

イブ・モンタン演じる『ギャルソン』像

あざやかに、黒光りしておりまして、
セ・シ・ボン♪♪ を歌うイブ・モンタンが、

ここでは、もみあげまで光ってる
『グリース』のジョン・トラボルタ。


もしかして、ギャルソンが
小粋でオシャレだと思っているのは、
私だけ?

でもレストランに、あの前髪の…
ヤンキーはあかんでしょう。
なぜ、これを許す?

疑問、不信感と、緊張感が
ぐるぐるぐるぐる駆け巡る。

いや、案外ひとは、
見た目とは違って、優しいんだ!
というパターンにかけよう。

彼は大きな四角い入れ物を作業台の上で
容赦なく、ひっくり返しました。

ザザ〜っと耳をおおう爆音を立てて、
洗ったばかりの、
熱々のフォークナイフ類を、山盛り広げると、
彼は私に乱暴に布巾を手渡し、

「これ磨いて、それからモゴモゴ・・・・・・」

ムッチャ早口、で、声ちっちゃい!
・・イヤがられてる。ヤンキーに嫌われてる。

本社の人間がなんぼのもんだよ、お前ら、夕方6時で帰ってんだろ、カレンダーどおり土日祝日休んでんだろ、12時にメシ食ってんだろ、
椅子座ってるお前らに店の何がわかるんだよ。
紙の上で勝手に色々言ってんじゃねえよ!!!


って思われているに違いない、
という恐怖が、私の中で肥大する。

でも、聞かなきゃならない。

どうしよう、こわくて聞けない・・・。

しょっぱなから、考え込んでいると
垣田くんは、

「だから、オバサンは困るんだよ」

・・・え?


垣田くんがボヤきだしました。
「オバサンは洗い場行けよ。なんで俺だよ』

オバサン?・・・本社だからじゃない・・


かつて銭湯で、よその子に、
オバサンどいて!って
言われたときがありました。
あのときはまだ20代前半。
あれから数年、いや、実際はもっと・・・

仕方ないでしょ、人は年をとりますよ

でも、これでくじけるわけにはいかない!

垣田くんは、窓から海に目をやり、

波乗りしてェ〜♫
カットして、パッ!!ビュ〜〜!


よくわからない擬音を発し、
カラダをかがめて、ゆらゆら動く。


彼の顔が幾分ゆるんだのを見て、
私は恐る恐る、低姿勢で、

「あの、すいません、もう一度、
お伺いしてもよろしいですか」

すると垣田くん、さっきよりマシでした。

「ハ〜、結局、いちから教えんのかよ」

と言いつつも、

ナイフ、フォークの拭きあげの注意点、
仕舞う場所、テーブルへのセットの仕方を、
まるで赤子に話すように細かく
私に話しました。

余裕のアニキ口調。

その時、私は一つ学びました


こういうタイプには、
こいつはアホだ出来の悪い子分だ、
俺がいなきゃなんねえんだな、
と思われるのが一番だ


そのためには、
なにを言われても、常に笑顔!
そいで、
スイマッセン!と、あやまる

そんで、
ありがとうございま〜っす!
うれしいで〜す!と喜ぶ。・・・コレだ


実際、私は、そこでは使えない邪魔ものです。

レストランは素晴らしい立地にありました。
夕暮れの海と、この店のシルエットは、
まるで外国のよう。

ディナー前の最終ミーティング。
メニュー、ご予約のお客様の確認。
ギャルソンはメモに書き留め、
メモを取らないベテランもいました。

垣田くんの顔色をチラチラ見ながら、
私はギャルソン群から一歩下がって
黒い物体になって縮こまっていました。

メートルの柴さんが、垣田くんに

「カキ、彼女、夜はどうするんだ?」

「あ、見学で」(即答。当たり前か・・)

「そうか。じゃあ、お前の判断で、もし何か
 できるようなら教えてあげてくれな」

「う〜〜っす」


アニキは、
応援団か組の若い奴のような返事でした。

やがて私にとって初めての
レストランディナーサービス本番。

そして垣田くんの、とんでもない場面と、
私のレストラン研修生活の
思い出に残る夜が始まったのです。

今回は長い話になり恐縮ですが、
よろしければ、次回をお待ちください。
お読み頂きありがとうございました。










いただいた、あなたのお気持ちは、さらなる活動へのエネルギーとして大切に活かしていくことをお約束いたします。もしもオススメいただけたら幸いです。