砕ける飛沫のその先に 傾く時間のその中に 色鮮やかに現れる 心を焼いた紅き日々 滴る雫のその前に 和らぐ頬のその内に 今ひたひたと打ち寄せる 互いを崩した冷き手 ぎりぎり回る世のうなり かく世を響かす人の声 波の音色は動かない 雫の奏も震えない 拡がる電波の鼻先に 塞がる私の口元に あなたの香りは届かない 世界の味は回り行く
あの子から手紙がきたの 私が少しのおくりものにそえて書いた それよりもずっと それはそれは ていねいな文字で 平たいクッキーといっしょに 6年の人生を それはそれは ていねいに包むように 私もいまからがんばって ていねいに包んでみる おたがい 香ばしいクッキーをかじろうね #思い込みが変わったこと #詩 #現代詩
時はしとしと降り注ぎつつ 我らをじんわり覆いゆく 甘い香りに目を閉じはしゃげば いつの間にやら沼の中 空はいつでも我らを見ている 我らがどう浴びどう歩むのか 眼を開いてページをめくろう 白く曇ったその先へ #詩 #現代詩 #口語定型詩
そこにはコミュニケーションしかなかった ぼやけた動画もその一部だった カタカタカタと鍵を鳴らして ガリガリガリと箱を鳴らして いつでも世界に繋がっていく 輝く危ない私たちの巣 疲れ果てた故たどり着きゆく 脆く暖かい私たちの巣 狭い場所から夜空を見上げた 私は世界がわからなかった カタカタカタと鍵を鳴らして びゅんびゅん言葉を投げ合い続けた 私は狭い夜空の中から いっそ飛び出せればいいのにと言った すると数多の言葉が殴った 見ようとしなけりゃ見えないものだと そうした数多はこ
あなたの壊れた時計の針と わたしの揺らいだ画面の上と どこまで崩れて酔わせるだろう 夜明けの聴こえぬ闇の枝 言葉は綺麗に紡がれつつも 遠くへ投げられ甘さが沈む 熱き吐息を電波に載せて おやすみこの世の全ての実 あなたの響きに身体を震わせ わたしの震えに瞼を湿らせ どこまで崩れず照らせるだろう 夜明けにとろける紅き花 #眠れない夜に
雨の音 今残っているもの じゃがいも たまねぎ たまご 塩あんまりない 胡椒とミルはある 頭はぼんやり 雨の音 休暇の残りはわずか 一昨年より静かな宿 冷蔵庫の中で使っていいもの ポン酢 マヨネーズ少し ゆでたまご作れば何とかならないかな なりそう 電子レンジでいいか 雨が弱まった 波の音 土の匂い 岩のかたまり 優しく険しく野蛮な緑 日々を無に還してくれそう 明日葉ゆでたら使えるかも 誰もいないだろう道 本当に誰もいないだろう道 ポケットにマスクを忍ばせ ゴムサンダルざっく
僕は夢を書き記すのを諦めた。夢はまるで、砂粒たちの集まりだ。夢に起こされてあまりにも早く来てしまった朝に、目をぱちぱちさせてから枕元の端末を手に取り、寝転んだそのままおぼつかない指で画面でメモ帳のアプリを開き頑張って指を滑らせても、そこで文字に翻訳される間にも、夢の粒々はさらさらと過去に向かって零れ落ちてしまう。それがたとえ、鮮烈な夢だったとしても。 おそらくそれは、そんなものに耐えられるだけの精神を、そして身体を、人間は本来宿していないからなんだろう。「鮮烈な夢」とさっき