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舞台「逃奔政走」に見る「勢い」のイカし方

「逃奔政走 -嘘つきは政治家のはじまり?」の舞台を観てきました。脚本・演出の冨坂友さんが第二の三谷幸喜と呼ばれていると知り、三谷幸喜ファンとしては見逃すわけにはいかず、劇場に足を運んだというわけです。結果、期待を超える観劇体験ができました。

脚本・演出: 冨坂友
出演: 鈴木保奈美、寺西拓人、相島一之、佐藤B作 ほか
劇場: 三越劇場


ストーリー

県知事選に出馬した小川すみれ(鈴木保奈美)が幕が降りたままの舞台に登場し、経験なし、それゆえにしがらみなし、クリーンな政治を訴える演説から始まりました。

その後は、知事室を舞台に物語が繰り広げられます。小川すみれは政策実現のためにと、大物政治家(佐藤B作)からの誘いにのってつい不正に手を染めてしまいます。それを始まりに、副知事(相島一之)らと一緒に嘘に嘘を重ね、さらなる不正へと落ちてゆきます。

ところどころで、若手県議(寺西拓人)に知事としての不正を問い詰められる議会答弁の場面に切り替わります。

理想とは裏腹に重ねてきた悪事に、小川すみれはとうとう自分に嘘をつき続けることができなくなります。若手県議からの追求に答える形で真実を話し、知事辞職を決めた小川すみれが、観客に向かって力強く最後の演説を行って幕が閉じます。

演出

今回の舞台は、演出にも学ぶことがたくさんありました。

知事役名の「小川すみれ」が「小池百合子」をもじった名前であることに気づいたのは、帰宅後でした。
 小池 → 小川
 ゆり → すみれ

見終わった後も余韻が続いていたからでしょうか。ふいに気づいて、
「あー、そういうことだったのか」
と一人でクスっと笑いました。

小川すみれ知事(鈴木保奈美)の衣装は目の覚めるような青のスーツ。長年政治の世界を牛耳ってきた大物政治家(佐藤B作)は赤いマフラーをつけて。二人が並んで語る時、青と赤の対比がアクセントとして効いていました。

議会答弁への場面転換は、知事室の舞台装置はそのままに、照明の変更によって行われました。舞台そでに立つ質問者である若手県議(寺西拓人)と知事室のデスク前に立つ知事(鈴木保奈美)の2人だけにスポットライトが当てられることで、舞台は一瞬にして議会場に転換します。答弁をする知事のシルエットが知事室の壁面に映し出され、知事の孤独を象徴しているようでした。

圧巻だったのは、知事が真実を語った議会答弁。それまでの議会答弁時とは一転して、舞台装置も変更。両サイドと後の3面に大きな鏡が設置。これで前、後、横、どの角度からも答弁する知事の姿が見えることになります。

3面の鏡に背筋がピンと伸びて堂々とした小川すみれ知事の立ち姿が映し出され、どの角度から見ても嘘偽りのない真実を語っていることを象徴する効果がありました。全身青いスーツを身にまとった女性知事が映える場面でもありました。知事役が男性だったら、この場面の印象は半減したんじゃないでしょうか。

場面にふさわしい演出の素晴らしさに感銘を受ける舞台でもありました。

「勢い」のつくり方

約2時間の舞台に出っぱなし、しゃべりっぱなし、動きっぱなしの鈴木保奈美さんが本当に素晴らしかったです。し・か・も、ハイヒールを履いてですよー。

保奈美さんのテンポをペースメーカーに、他の役者さんの動きやセリフもテンポよく、舞台上でストーリーがスピーディーに進んでいきました。

2時間の舞台となると途中で休憩をはさむ場合もありますが、今回でいうと、それは悪手でしかありません。乗ってきたテンポを止めてしまいますから。

このテンポに観客が2時間飽きずについていくためには、ところどころに巧妙な笑いの仕掛けが不可欠でした。2時間、緊張しっぱなしでは「勢い」が続きませんから。

「勢い」のイカし方

笑いを随所に織り交ぜ、小気味よいテンポでつくった「勢い」のある舞台。観客もその「勢い」に巻き込まれていきました。その「勢い」のままに、「ああ、こうやって政治家は、もっと言えば、人は、悪気なく悪事に手を染めてしまうのね、アーメン」と諦めにも似た気持ちが芽生えました。観客としては笑えるお芝居としてそれだけでも十分でした。

が、この舞台には「勢い」のイカし方を見ることができました。それを見たのが、ラストに県知事が観客に向かって力説したセリフです。

「どの口が言うかという話ですが。
皆さん、決して政治を諦めないでください。
諦めずに政治を政治家を監視し続けてください。
それこそが、澄み切ったクリーンな政治を実現する唯一の方法だと思います!」

観客を巻き込む「勢い」をつくってから、最後にそっと物語の一部としてメッセージをしのばせておくとは、なんとイカしたやり方でしょう!観客の心にド直球で刺さります。

「勢い」はつくって終わりではなく、それをイカすところまで考えるのがイカしてるということですね。

舞台鑑賞は、その内容にひたるだけでも楽しいのですが、新たな見方を得られる機会でもあり、二重においしいのです。

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