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「絵本の力」

『絵本の力』
 
 小学校四年生だった。土曜日に家に帰ると、手を洗い水屋を開けた。中に冷えたご飯が茶碗に盛って置いてあった。私は冷や飯に塩をふって、冷えたお茶をかけて、箸を使って柔らかくして口に入れた。お茶漬けを食べても、腹は膨れていなかった。

 寝床の、畳んだ布団の上に置いてある、赤ずきんちゃんを広げると、話の中に食べ物が出てくる。パンと葡萄酒の挿絵に、鼻を近づけて嗅いだ。不思議なことに、香ばしい匂いと、葡萄の香りがした…そうやってひもじい日々を耐えて過ごした。

 ある日、隣のおばさんが近くの病院に入院した。学校から帰って病室を覗いて見た。おばさんは、食欲が無く、お昼ご飯を食べずに、全部残したままだった。私は病院食に釘付けになった。物欲しそうな顔をしている私に、おばさんは食べるようにすすめてくれた。私は凄い勢いで平らげた。

 それからしばらくして、母にこっぴどく叱られた。おばさんが私を心配して、母に『ちゃんと尚美ちゃんに食事を与えるように』と叱ったそうだ。母は恥をかいたと、私を怒鳴り、当たり散らした。とても悲しかった。お腹が空いて、とても辛かった。

 私は急いで布団に入り、絵本を開いた。本の中には、美味しそうで綺麗な食べ物がたくさん出てくる。主人公たちが、ご馳走を食べると、私も心が満たされ満腹になる。そうして幾晩も眠りについた。幸せな気持ちで眠っていた。

#創作大賞2023 #エッセイ部門

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