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曇天の日の蕎麦屋で。

朝の冷え込みが増してきた。
早朝の散歩に出ると、からりと乾いた空気が
肌に心地好い。もう手袋が必要と思いながら、
町をひと歩きしている。
善光寺界隈の木々の紅葉黄葉が深まっている。
行楽シーズンの観光客が増えてきて、
門前が賑わっているのだった。
この頃になって、久しぶりに海外の観光客も
目にするようになった。
コロナ禍で、ずっと閉めたままになっていた町内の
ドミトリーも、営業を再開して、早々に外人さんの
予約で埋まったという。
休日、その日の野暮用を済ませた昼どき、
いつものように蕎麦屋の昼酒に出向いた。
門前の店はどこも観光客で混んでいる。
少し離れた、ひと気のない通りに在る、
さがやの暖簾を久しぶりにくぐったのだった。
カウンターの隅っこに落ちついて、お通しの
アボガドの醤油豆和えでビールを一本。
ご主人は信濃町の出身だから、信濃町産の
蕎麦粉だけを使っていて、
新蕎麦になるのは11月の初めという。
しらうおのかき揚げで、澤の花のひやおろしを
酌んだら、相変わらずの落ちついた味わいが好い。
品書きには載せてないけれど、亀齢ありますよと、
ご主人が言う。
上田の岡崎酒造の亀齢は、長野県でもっとも
入手困難な銘柄になっている。
取り引きしている酒屋が売り場に出さずに
隠していて、親しい飲食店にしか卸さないという。
その一本を分けてもらったというのだった。
葉わさびのおひたしと、だいこんの醤油漬けで
一杯頂けば、欠点のない味わいと頷いた。
ゆでた蝦蛄をつまみに、辰野町の夜明け前を酌めば、
この銘柄も、長らく不動の地位を保っている、
安定感の有る味わいだった。
安心して注文できる旨い酒が、ほんとに
長野に増えたのは、喜ばしいことと思っている。
もりで締めて、勘定を済ませれば、いつの間にやら
雨がぱらついている。ご主人に傘をお借りして、
また来ますと店を出た。
その足で、世話になっている整骨院へ行き、
お灸とマッサージをしてもらう。
自宅に戻ってしばらくしたら、雨が止んだ。
源泉かけ流しの、権堂の湯でひと風呂浴びて、
そのまま馴染みのおでん屋へ行き、
おでんをつまみに一献傾けたのだった。
昼酒をして、体をほぐしてもらい、
温泉で温まって、また酒。
なんともゆるい暮らしぶりなのだった。

新蕎麦や次の月まで待てといい。

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