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蕎麦屋と鮨屋は大人の喫茶店。

ビールを買いにセブンイレブンに出かけたら、
雑誌売り場のダンチュウに目が留まる。
今月の特集は、町蕎麦と町鮨なのだった。
買い求めて拝見したら、東京の蕎麦屋に鮨屋が
何軒か、旨そうな肴や蕎麦や握りの写真と共に紹介されて、
見ているだけでそそられる。
休日になると、たいてい馴染みの蕎麦屋の暖簾をくぐり、
徳利を傾けている。油揚げの醤油煮やら、とり皮の
うま煮やら、きのこおろしやらで、ビール一本に
日本酒二本。冷たいもりか温かいかけで締めている。
その日の気分で、鮨屋の昼酒に出かけるときもある。
ふらっと長野駅前のチェーン店で、握りをつまみに
一杯するけれど、個人のちいさな店が好きな身は、
なんとなく落ちつかないのだった。
子供の頃は、どこの町にも鮨屋があったものだった。
いまほど魚の流通が良くなかったときだから、
ネタの鮮度は怪しかったものの、
ときどき両親と鮨屋へ行ったり出前を取ったりすると、
子供ごころにも贅沢な気分になったのだった。
歩いて間もないところに、高級な鮨屋が二件在る。
どちらもコース料理のみの提供で、酒でも飲んで勘定すれば、
らくらく諭吉さんが3枚くらい飛んでいく。
軽くつまんで燗酒でも。
そんな鮨屋は、なかなか見当たらない。
ときどき上田の町を散策する。気に入りの蕎麦屋が二件あり、
どちらも酒肴の品ぞろえ好く、蕎麦も旨い。
そこに加えて、好い鮨屋を見つけたのだった。
以前、あてもなく徘徊していた折に、
ひと気のない路地に、すし処萬寿という看板を見つけた。
へえ、こんな目立たない場所にと思いながら、
暖簾をくぐった。
親子で営むちいさな店で、旦那さんと息子さんが
板場に立って、お母さんとお嫁さんがお運びをしている。
気さくな家族の雰囲気が好く、鮨も旨い。
酒も地元の亀齢や澤の花と、間違いがない。
今ではすっかり顔も覚えていただいている。
長野駅の近くに、いち松という鮨屋が在る。
酒屋を営む友だちに紹介してもらい、
ときどき足を運んでいた。寡黙な若いご夫婦の営む店で、
昼間の営業はないけれど、夕方は四時から開店するから、
早々に一杯できるのが好かった。
ひとりで過ごしたり飲み仲間を誘ったり、
常連になりつつあったのに、コロナ禍になって、
飲みに出るのを控えるようになり、まるまる二年半も
御無沙汰をしてしまった。ダンチュウを見て思い出し、
久しぶりに足を運びたくなった。
間を置きすぎると、気楽に出かけていた店も、ちょいと
敷居が高くなる。先日、意を決して出かけたら、
変わりのない笑顔で迎えていただいて、ほっとした。
こはだとあじといかを握ってもらい、宮城の伯楽星を
酌んだのだった。

鮨屋にて締めは真鯛か鮪かな。






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