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コーヒーとの出会い

深い闇のような夜に繋がる午後、私の仕事は突然、缶コーヒーの商品開発を求めてきた。それまでの私の人生で、コーヒーは日常の一部に過ぎなかった。目を覚ますための一杯、仕事をするための一息。それがすべてだった。

ある日、先輩に誘われて東京・銀座の小さな路地にある「カフェ・ド・ランブル」へと足を運んだ。その店の中で、私はモカマタリというコーヒーに初めての口を付けた。深い赤がかった黒、そしてそれに続く繊細な香り。私の中の「ただの飲み物」という認識が、その一瞬で霧散していった。

「君も感じるか?」と微笑む。「このコーヒーの魔法を。」

私は彼の言葉にうなずいた。私たちは、その店の中で時間を忘れ、コーヒーという新しい世界へと飛び込んでいった。

その後は、コーヒーの奥深さを探る日々となった。夜遅くまでオンラインでの研究、そして遂にはインストラクター資格の取得。仕事の一環でインドネシアやベトナムの産地見学へと飛び立つことに。その場で私が目にしたコーヒービジネスのスケールの大きさ、そして豆一つ一つに宿る物語に圧倒された。

日本に帰ると、実家の押し入れから見つけた「無水鍋」と「ガスコンロ」を元に、自家焙煎の冒険が始まった。煎れるたびに異なる香り、焙煎の度合いで変わる味わい。私のマンションのキッチンは、まるで実験室のようだった。

それからの私の人生は、コーヒーの魔法に取り憑かれたかのように変わっていった。インターネットで世界中の生豆を取り寄せ、自分好みのブレンドを追求。そして、サードウェーブを提供するカフェの若き社長との出会い。彼の瞳に宿る熱意、そしてコーヒーへの愛情は、私のコーヒーへの情熱をさらに煽った。

私のマンションのベランダには、今、緑の葉を茂らせるコーヒーの木が育っている。その木を見る度、私は新しい夢を抱くようになった。移動できる喫茶店を開業し、この魔法のようなコーヒーを多くの人へと届けること。

私とコーヒーとの出会いは、何気ない日常の中での一瞬だった。しかし、今となっては、私の人生の道しるべとなっている。この情熱が、私をどこへと導いてくれるのか。私は、その答えを探し求めながら、コーヒーの深い世界へと足を踏み入れていく。

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