見出し画像

娘の小学校で働いている"塾の先生"たち

こんにちは!新学期が始まって約1ヶ月…娘の小学校が教員の自主研修日を設定してくれたおかげで、今週末は4連休になりそうです!(いぇーい!)

こちらの新学期は9月始まりで、日本よりも半年先に新年度が始まります。日本では小学校2年生の娘ですが、オランダではこの9月から小3の学年になりました。4歳から小学校に通っているので、5年目の小学校生活突入です!

8歳の夢とそこへ向かう道の話

以前、娘の夢について記事を書きました。

この記事を書いた時、SNS上で助産院をされている方から、
「是非、都合が合えばうちの助産院に遊びに来てくださいね」
と、ご連絡をいただいたのですが、バタバタとした帰国になってしまい娘のためにその時間を設けることができませんでした…泣

その後も、娘の夢はまだ助産師になることで、今回の帰国で買って帰ってきた「透明なゆりかご」という、これまた読み仮名もついていない漫画を暇さえあれば大切そうに読んでいます。NHKでもドラマ化されたもので、私も嗚咽なしには観れませんでした…

簡単に想像できることですが、家で話す言語(継承言語)が日本語である娘にとって、この国で生まれ育った子どもたちと同様にオランダ語を聞き取ったり、話したりすることは容易なことではありません。そこには、保護者としての一層の努力やケアが必要になることもしばしば。娘は言語に強い方ですが、今は少し算数に苦手意識があるようです。「助産師になるためには算数が必要!」と、夏休みに日本から帰国して以来、ここまで1日も欠かすことなく日本から送られてくるチャレンジをやって、オランダの算数の教材をやることもすっかり習慣化できています。(驚)

学校にいる"塾の先生"とは誰?

…ということで、話は戻りますが、少し算数が苦手な娘は学校で"取り出し授業"を受けています。RT(remedial teaching/teacher)と呼ばれる先生が、クラスから数名の生徒を引き受けて、小グループで授業をしてくれるシステムはオランダではとても一般的です(ない学校もあります)。

RTは正規教諭ではないので、あくまでも"エクストラの授業を行う者"として学校に雇われています。ここでも、"授業を行える人" ≠ "教育者" だというプロフェッションの棲み分けの構図が見えます。担任業務を担う教育業務は、制度によって認められた人のみ行えるということです。

娘はここで出会ったCarol(仮名)とのレッスンが好きで、グループのサイズ感も適切で、内容がとても楽しいと言います。彼女とのインタラクションも多く「わかるようになる感覚」が嬉しいのだと言います。

さて、ではこのRTと呼ばれる先生は誰なのか?…と言うと、娘の小学校のRTの人たちは塾や家庭教師としても働いている先生たちなのです(RTだけを職業として担っている人たちも大勢います)。娘の学校にはRTと呼ばれる先生が贅沢にも3名〜4名いて、ほとんどは彼ら自身の自宅などで家庭教師業を行い、放課後も生徒の学業面をサポートしています。

それはいわゆる"塾"とも呼べるものかもしれませんが、多くの場合、学校の教室と同じように多人数で授業をするようなことはほぼなく、サイズ感としては 1対1か1対2くらいです。人によっては「そんな産業、これまでのオランダにはなかった」と言う人もちらほらいますが、オランダではこの"塾業"は日本(の都市部)ほど全く盛んではないと個人的には感じます。

「学校の外でもCarolのレッスンを受けてみたい?」

年度末を迎える頃に通知表をもらってきた娘。そこで、自分は算数が苦手だということを初めて正式な書類として自覚した娘は「この成績で助産師になるための学校に行けるの?」と聞いてきました。「助産師になるための学校に進むにはもう1つ上の成績が必要かな〜って感じやね、今は」そう言うと、娘は悔しそうに涙を目に浮かべていました。

そのことを担任に相談すると「そんなに自分にプレッシャーをかけなくて良いのに。笑」と言いながら「もし、彼女がCarolとの授業を楽しんでいて、自分にブースターを取り付けたいと思っているなら、学校の外で彼女のレッスンを受けてみるのはどうですか?」と提案をされました。そしてそれを娘に聞いたところ「やってみる!」と言ったのでした。

新しい場所に出向くのが比較的苦手な娘ですが、「学校でも会っている先生だから大丈夫」と、彼女は言いました。あぁ、そうか〜、日本でもこんな風に塾の先生と学校の先生が手を取り合えたら最高なんじゃないかな〜と思ったのです。

「このレッスンは期間限定のものだと捉えてくださいね」

夏休み前にCarolに連絡をして、週に1回彼女のところへ通うことが決まりました。その時、彼女に言われた一言がとても印象的だったのです。

「このレッスンは彼女がつまづいているところを見つけて、それが改善できたら終わりです。子どもは学校から帰ったらゆっくりするのが1番。だから、あくまで期間限定、短期間のものだと捉えてくださいね。子どもの学習は学校で十分だと私は考えていますが、教員不足もあって教室で"出来ない"と感じている子どもがいることも事実です。私の役割は、その"出来ない"という気持ちを"わかった!出来る!"にもっていくこと。そして、それが備わったら私の役割は一旦終わり。一人でも多くの子どもに自信をつけてもらって、私の元から去ってもらうことが自分の使命だと感じています。長い経験もあるから安心してくださいね!」

この言葉を聞いた時、彼女も教育者なんだと思いました。担任は持っていないRTの先生でさえ、子どもたちが子どもたちとして生きる時間の価値を知っている。そして、私欲に溺れることなく「子どもたちは放課後ゆっくりするのが1番です」と言ってくれる。あぁ、こういう姿勢だから娘は彼女のことが好きなのかもしれないな〜と思いました。

90分の授業料と、短期間での卒業

さて、この彼女が行う放課後のレッスン費用ですが、なんと90分で€90(¥14,200)!これが月に4回なので、1ヶ月€360(¥56,800)です。うん、これは「短期間」じゃないと困る。笑

正直、1対1の90分は長いんじゃないかな〜と思っていた私ですが、娘は毎週楽しそうに通っていました。1回目のレッスンの時は私も同席したのですが、娘との関係を作るために一緒にカードゲームをしたりして「安心できるから勉強できる、楽しい時間があるから来たいと思える」という、子どもの根本的な欲求を満たそうと努めてくれているのも好印象でした。「高いお金を払っているんだから、遊びじゃなくて授業をやって!」と言いたい人もいるかもしれませんが、子どもってそんな大人の都合で動くもんじゃないし、仮に無理やり動かすことは出来ても、そこで失っているものがそれなりに多くあると思います(それに目を瞑る大人が多いな〜と思います)。

「遊んでるんだけど、遊んでる訳じゃないのよ。笑 何かちょっと変な説明だけどね。笑 子どもの欲求をちゃんと満たしてあげることが、勉強に向かうパワーを引き出すことに繋がるの」

とウィンクしたCarolに「私も曲がりなりにも教育者なので、あなたの言うことはよくわかるよ!」と言うと、「ありがとう!そう言ってもらえると嬉しいわ!」と返答がありました。

その後、担任とCarolと話合った結果、娘は彼女の元を卒業することを決めました。夏休み前の1ヶ月と夏休み後の1ヶ月、約2ヶ月の間にブースターを備え付けてもらえたという判断です。娘は「Carolのところに行かなくなるから、チャレンジとプリントを家でやればいけるね!」と前向きな反応を示しています。この炎を絶やさないようにすることがこれからの私たちの役割です。

「この年齢の成長幅は全く予測できない」

先日、担任が保護者会で「このくらいの年齢の子どもたちの成長幅は全く予測ができないから、もの凄く伸びることもあるってことなんです」と言っていました。

「だから、焦らなくても大丈夫!とは言っておきますが、もちろん心配なことがあればいつでも連絡してくださいね」と彼は続けました。

「勉強もそろそろアカデミックになってきて、ひょっとしたら学校の勉強が増えた〜!ってプチパニックを起こしているご家庭の子どももいるかもしれませんね。でも、そんな時こそ焦らずにゆっくりさせてあげてください。パニックにパニックを注ぐ必要はありません。子どもたちを信じて見守っていきましょう。それが学校と保護者の役割だと思って」

勉強はともあれ、娘は「今日も学校楽しかった〜!」と言って帰ってきます。勉強とか成績が必要のないことだとは思いません。でも、本当に大切なことは、家庭の安定をもって情緒が安定することを前提に、子どもの足が毎日学校に向いていることなのかもしれません。何てったって、不安やざわつきが心の中にあっては目の前の勉強に集中できないんですから。

学校に任せ過ぎず、ちゃんと娘の観察を続けていこう。そんな風に感じた出来事でした。

私たちの活動内容に賛同いただける方々からのサポートをお待ちしています。ご協力いただいたサポートは、インタビューさせていただいた方々へのお礼や、交通費等として使わせていただきます。よろしくお願いいたします!