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先生たちがピン芸人化?!笑いの中に涙あり、オランダのカジュアル卒業式

日本は3月が卒業シーズンだが、ここオランダは7月がそれにあたる。仕事も、学校も、プライベートな付き合いも、すべてが夏休み前に向かって大急ぎの大忙しという中で開催される。
我が家の男子2人は、それぞれ小学校、高校を卒業する年に当たったので、卒業パーティやらさよならパーティやら、先週はいろいろ盛りだくさんだった。


高校卒業は人生のマイルストーン

オランダでは高校卒業というのは1つの大きな節目である。日本と違って「大学入試試験」というのはないのだが、それに匹敵するものに「高校卒業試験」がある。これに合格して「卒業証書(ディプロマ)」をもらうことが次のステップへの扉を開ける。

オランダの中等教育(中学・高校一貫)は、4年・5年・6年コースがあり、それぞれのコースで違ったディプロマをもらう。そのディプロマに応じて次に進学できる学校やコースが選べる仕組みなのだ。

うちの息子は4年間の短いコースで、中卒に毛が生えた程度の学力だが、それでも大真面目な卒業試験を何日にもわたって受け、最後はすべての科目で合格点を取らなければならなかった。これが6年制の大学進学コースになると、課目の多さも中身の難しさもハンパなく、試験前はみんな必死のパッチ。中にはプレッシャーで泣き出す子もいるぐらいだ。

2週間ぐらいにわたってその試験を受けた後、さらに2週間ほど待つと結果が分かる。それは、学校の先生からの電話で知らされる。すべてがデジタル化された現代でも、そこは電話。これが結構スリリングなのだ!今年は6月14日の14:30~15:00の間に担任の先生から子どものケータイに電話がかかってくるというので、私たちは親子でドキドキしながら待っていた。

息子によれば、担任の先生が開口一番に言ったのは、「おめでとう!」
おかげさまで合格することができた。

合格通知を受けてまずみんなが行うのは、家の窓やバルコニーにオランダの国旗を掲げ、そこにスクールかばんを吊り下げるということだ。これは「高校卒業試験に合格!」というしるしで、世間に堂々と宣伝する。うちもこれを掲げた途端に、近所の人が続々とお祝いのメッセージをくれた。いちばん仲良しのご近所夫妻は、息子にアルコールフリービールを持って駆けつけてくれた。

ある朝にはバルコニーに立っていたら、全然知らない道行く人たちから「おめでとう!」と声をかけられたりもした。オランダでは50歳の誕生日が人生の節目としてかなり大きなイベントなのだが、高校卒業試験に合格というのも、それに匹敵するぐらい大きなマイルストーンなのだと実感した。子どもがそこまでたどり着けば、「一丁上がり」といったところか。オランダは18歳までは義務教育なので、うちはまだ終わったわけではないのだけども。息子はこのあと、専門学校で音響や映像の技術を学ぶ「オーディオ・ビジュアル・スペシャリスト・コース」に進む

ハリウッド的卒業パーティ

話が前後してしまうが、「GALA(ガラ)」と呼ばれる卒業パーティは卒業試験の合格発表前に行われる。「卒業も決まっていないのに、卒業パーティ?!」と、日本人の私にははじめ全く理解不能であったが、ここはオランダ。合格でも不合格でも、みんな結果が分かる前にお別れパーティは楽しんじゃおうというのがその趣旨らしい。確かに、合格と不合格が入り混じるお別れパーティよりも、みんな結果待ちの方が楽しめるというもんだ。

息子の学校のGALAは、飲み屋街の一角にあるクラブハウスで開かれた。アメリカでいえば「プロム」というやつで、みんなハリウッドスターみたいに着飾って会場までリムジンなどの特別な車で乗りつけ、レッドカーペットの上で写真を撮ってもらう。

パーティには先生たちも参加するが、親は呼ばれない。でも、みんな子供たちの晴れ姿を写真に収めようと、レッドカーペットの周りでスタンバイ。私もごった返す父兄の中、前方に陣取ってカメラを構えていた。

かっちょいいスポーツカーから、暴走族顔負けのバイク集団、何メートルもある長いリムジン、ガラスの馬車、巨大なトラクター……みんなどこから調達してくるのか、特別な乗り物がずらーっと続いて会場のクラブハウスまでゆっくり進んでくる。

車から出てきた子供たちはレッドカーペットの上でポーズ!カップルの子もいて、リムジンから出てきて2人でカメラの前で微笑む様子は、ハリウッドスターも顔負けといった風情だ。オランダ人は背がすらりと高い子が多いから、女の子など本当にきれいでびっくりしてしまう!

うちの息子もパーティの直前になって「H&M」で安物スーツとシャツと蝶ネクタイを揃えた。そしてクラスメート8人と、うなぎみたいなリムジンをシェアして会場に乗り付けた(運転手付きで350ユーロだったらしい)。靴は革靴じゃないので大丈夫だろうか…と心配したが、今どきの子どもたちはみんな白いスニーカーである。

パーティは夜中2時まで続き、息子は自転車で1人帰ってきた。

カジュアルすぎるぜ!オランダの卒業式

GALAの後に合格発表があり、卒業式は7月12日に行われた。式といっても全然格式ばっておらず、みんな普段着で実に気楽だ。どちらかというと、こちらは「パーティ」の方がキラキラに着飾る習慣がある。

息子の通っていた中高校の卒業式は、学校の体育館で開かれた。18時半に会場に行くと、プラスチックの丸テーブルと椅子がたくさん並んでおり、ここに親兄弟や祖父母や親戚のおじさん、おばさんが家族単位で腰かける。前方にはスクリーンと演説台。そしてギターなどの楽器が置いてあった。

式はまず校長先生のスピーチで始まった。これは割とまじめなスピーチだったが、手短か。その後も担任の先生方(オランダでは"メンター"と呼ばれる)4人のスピーチが控えており、私はなにも期待しない中で、同行した次男が飽きてゴソゴソし出すのではないかとちょっと心配していた。

1人目の先生は割とまじめなスピーチだったのだが、演説は短い上にジョークがいっぱいで飽きさせない。2人目、息子のメンターは自分で編集してきた動画を披露。パリの修学旅行やみんなのおバカなチャット内容、授業中の爆睡風景などが流れると、会場からは笑いが巻き起こった。

3人目の先生はギターで替え歌を弾き語り。私は歌詞を聞きとれなかったが、みんな楽しそうに笑っていた。みなさん、いかに会場を楽しませるか工夫を凝らしている。まるでお笑い芸人のようだ!

4人目の先生は演説台に上ると、「え~、私はほかの先生とは違って普通のスピーチをしますよ」と言って、ポケットをゴソゴソ探し出した。
「あれ?メモがない……あれ?おかしいな、ポケットに入れたはずなんだが…。あれがないとスピーチできない…ちょっと待っててくださいよ!」というと、体育館のドアを出て行ってしまった。

すると、体育館のドアを出た後の先生がスクリーン上に映し出された。事前にビデオを作ったらしく、その動画には先生が体育館を出て、学校から自転車と車を乗り継いで家まで帰り、メモを探してポケットに入れると、急いで車に戻り、マクドナルドのドライブインに立ち寄ってハンバーガーを買い、また車と自転車で学校に戻り、体育館のドアを開けて入ってくるところまでが早回しで流れた。そして、動画が切れたところで先生が体育館のドアを開けて帰ってきた。先生の手にはマクドナルドの袋まである。

「すみません、これを取ってきました」
と言って紙を見せると、キラキラした上着を着て、カラオケで実に気持ちよさそうに替え歌を歌い出した。息子によると、彼は経済学の先生でとても厳しいらしいのだが、今日はいちばんのエンターティナーだった。次男も全く飽きていない様子。

先生たちの芸(?)の後は、ディプロマへのサイン式が続いた。前方に据えられた机で生徒が1人1人呼ばれて、正式な証書にサインをする。そして、先生からディプロマとともに大きなひまわりの花一本と、クラス写真のついたチョコレートをもらった。

卒業式の最後は、先生たちによる大合唱。これもギターや吹奏楽に合わせた替え歌だった。先生方の歌声に、私はちょっとセンチメンタルな気分になったが、替え歌の内容はやっぱり面白いものだったようだ。生徒たちからは笑いが沸き起こっていた。そして、歌の最後には、先生も生徒も頭にかぶっていた博士みたいな角帽をワーッと空に投げて式はお開きとなった。

厳かな日本の卒業式に比べて、なんとカジュアルなのだろうか。オランダはなにかにつけて「Grappig(面白おかしい)」であることを重視する。これは好みの問題だろうが、更年期で涙もろくなっている私には、このカジュアルさ、軽さが非常に有難かった。子供たちにとっても、きっと忘れがたい卒業式だったに違いない。

小学校の卒業式はさらにカジュアル!

ちなみに、小学校の卒業式はもっと簡単!校長先生や先生方のスピーチもなく、在校生が囲むレッドカーペットを卒業生が1人1人、在校生とハイタッチをしながら駆け抜ける。あとは卒業アルバムをもらって、子ども向けシャンパンを飲み、先生と写真を撮っておしまい!このセレモニーにかかった時間は45分だった。

うちは次男が今年卒業して、長男のころから13年間お世話になった小学校とはこれでお別れ。ここも「蛍の光」なんかが流れちゃったらうるうるしてしまうところだったが、実にあっさりと明るく終了したのだった。



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