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【双子座満月】禁忌に至る

多様性とは、その人がやっていることを肯定すると、自分のやっていることの否定になってしまうような人を肯定すること。

禁忌(タブー)なんて言葉を聞くと、どうもドラマチックなものを想像してしまいます。
好きになっちゃいけない相手を好きになっちゃうような。

でも「ドラマ」は崖のふちで谷底をのぞく、禁忌に踏み込むギリギリ手前の気持ちであって、禁忌そのものではないんだよな、なんて思ったりもします。

そうなんですよね。手前でもだえ苦しむためらいの劇的さに比べて、実際に飛び込んでしまうときの感覚って「あ、なんかやってしまったな」という感じであっさりしている気がします。
逆にいうと、感情や思考がフッとゆるんで軽くなったときに、立ち入り禁止のテープをいつの間にかまたいでしまうのかもしれません。
手綱がゆるんで、心が軽くなってしまって、うっかり境界を超えてしまう。

そして大人になって自分のコントロールがうまくなっていくほど、「うっかり」はすごく大事だとも思うのです。


双子座という星座は、立ち入り禁止サインをひょいっと超えてしまう、無邪気な好奇心を象徴していると言われます。

好奇心は「知りたい」という欲望。
あの人の心が知りたい。世界を広げたい。まだ知らない景色を見てみたい。
ドキドキなその気持ちを追いかけると、わたしはわたしの世界から出たくなる。

だけど子供のころはためらいなく飛び越えられた境目を前に、大人は立ち止まり、逡巡します。

失敗が怖い気持ちをもう少し細かく解き明かすと、「みっともないことになりたくない」という思考と感情が働いているように思います。

大人が大人らしく振る舞えるのは、経験則から「こんなピンチのときはこう言う」という台本ができているからであって、内面に矛盾を抱えている点は子供と変わりません。


凛とキレイなままでいたい気持ちと、ドロドロに汚れたい気持ちが心を引き裂いていて、コントロールしきれない。いつだって自分の心がいちばん怖い。

まだ台本のない新しい世界に飛び込めば、10代からまるで成長していない本性が露呈してしまうかもしれません。だから立ち入り禁止のテープを張り巡らせて、警戒を怠らないようにしているわけです。この先は未知の領域で、秘密が守られる保障はありません、と自分に自覚させておくために。子供のころのように気づかないうちに境界線を踏み越えて、本気で怒ったり泣いたりビビったり、みっともない姿を晒してしまわないように。

さて、そういうときに「ビビっていても別に構わない」というのが双子座の精神です。

バンジージャンプの前には好きなだけわめけばいい。ジャンプの瞬間をより鮮やかに面白くするいい余興になる。
ツッコミ待ちのトランプタワーのようなもので、怖がりは実は崩れる瞬間を待ち望んでいる。双子座の精神、子供の知性は驚くべき鋭さで本音を見抜いています。
禁止して、排除しているものの向こうに、みっともなくて取り繕えない、正しくもない、でも魅惑的な、本当の気持ちがある。必ず。

わたしたちは世界を、自分が見ているように見ています。
そういうふうにしか見ていないということをどこかで分かっていて、でも今見えている世界が壊れることがひどく怖くて(自分が壊れることでもあるから)、自分の世界の見方と対立するかもしれない世界の見方を警戒して、タブーの向こう側に排除しています。

みっともない自分を見せたくない。みっともない自分を引きずりだされる新しい世界に出会いたくない。変わりたくない。

だけどどれだけ強固な壁を築いて戒めても、そんなこととは無関係に好奇心は心に風を吹かせます。

みっともなくても自分を見せたい。新しい世界に出会って、変わりたい。

自分が自分じゃなくなるかもしれなくても、100パーセントの共感を捨てて、ピュアであることをやめて、まったく違う世界の見方に出会いたい。その人と同一化するのではなく、その人のままで、違ったままで、肯定したい。


「ほんとうの意味で自分のことをわかってくれる人はいない」的なエモーショナルな言葉に双子座の精神は注釈をつけます。

確かにその通り。だったら「100パーセント」という条件を外せば? と。

1パーセント理解できるところがあれば、隙間に風は吹きます。
20パーセントも面白いと思えれば、世界はぐんと広がる。
触れていくうちにそれが50パーセントにもなったなら、ずっと呼吸が楽になる。

全肯定しなくていい。だから全肯定されなくていい。
そう思うだけで、今見ている世界がすべて正しいわけではないということが、ストンと腑に落ちる。


まあ、頭でそれを分かっていても、大人はつい肩に力が入るし、新しいものを警戒します。
自分を否定されたくない気持ちが、必死で他者を否定します。

だから「うっかり」が大事だと思うわけです。
失敗したり、ボロが出たり、我慢できなかったりしたときに、「100パーセント」を盾に、何かを排除しようとしていなかったか、ちょっと振り返ってみたりするわけです。

心の壁の向こう側にほんとうの世界が広がっている。

わたしたちは昔から自分の本音を知っている。クレイジーな欲望はいつも叫び狂っている。そこに行きたい。そこに触れたい。
風の抜ける場所を探して狂気を解放する。隙間でも、裏口でも、排気口でも、かまわない。
正面突破じゃなくても世界は変わるのだと、双子座の精神はニヤリと笑う。


Crossing 岡崎直子



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